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第3話 彼女と放課後デートすることになった

 放課後。

 やっとのことで長い午後の授業が終わり、肩から力を吐き出すように、真幸はリラックスしていた。


 お昼を取ると眠くなるという事も相まって、かなり体が怠く感じていたのだ。

 皆が教室から立ち去って行く中、河合真幸(かわい/まさき)も帰宅する準備を整え始める。


「真幸、一緒に帰ろ」


 真幸は手を止める。

 今日は白石美蘭(しらいし/みら)からの誘いが多いみたいだ。


 付き合ったとはいえ、その当日から積極的に話しかけられるとは思っていなかった。


「美蘭は、もう帰る準備終わったの?」

「当たり前じゃんね。というか、真幸が遅いだけじゃん?」

「そうかな」

「そうだって。早く帰ろ。居残りもないんでしょ?」

「ないよ、これからただ帰るだけだったからね」


 二人で会話していると、やはり、教室内から視線を感じる。


 パッとしない人が、クラスの陽キャ寄りの子と関わっていると、余計に目立ってしまうのはしょうがない事だと思う。


 早くこの環境から離脱しようと思い、真幸は手短に帰り支度を済ませた。


「もう準備が終わったから」


 真幸は席から立ち上がると、美蘭と共に教室から出ようとする。


「そう言えば、亀井さんは?」


 教室の中を見てみると、亀井佳純の姿がなかったからだ。


「あの子は部活だって」

「部活に入ってるんだね」

「そうみたい。今年から入部したみたいだけどね」

「へえぇ。美蘭は? どこにも入っていないの?」

「私は入ってないよ。他にもやる事があるからね」

「やること?」

「それはまあ、いいでしょ。それよりさ、街中に行こ。私が普段から行ってる場所があってさ」


 美蘭は積極的に真幸のことをリードしてくれていた。

 本当は男性の方がやるべき事なのにと、心の中で思い、気恥ずかしさを感じていたのだ。




「ここに入ろ」


 学校から十五分ほど歩いた先にある街中に到着する。

 街中を歩いていると、途中にあったカフェの看板が目につき、美蘭から背を押され、そのカフェへと入店する事になったのだ。


 若い人が結構集まっている印象があり、店内のBGMも今流行りの曲だった。


 カフェ店に入店した直後から店員に案内され、二人用のテーブルへと向かう事になったのだ。


 二人は向き合うように席に座る。


「真幸はさ、普段はこういうお店に入ったりするの?」


 美蘭は、テーブル上のメニュー表を見開きながら言う。


「普段はないかな。基本的にコンビニくらいで」

「へえ。それってさ、結構人生損してない?」

「そうかな?」

「そうだって、高校生の内はさ、今流行りの事をした方がいいって」


 美蘭はテーブル上で広げたメニュー表を見ながら注文内容を決めていたのである。


「真幸は何にする?」

「えっとね……だったら、コーヒーでいいかな。コーヒーはあるでしょ?」

「あるけど、色々なタイプがあるけど、真幸的には何がいい感じ?」

「え?」


 よくよくメニュー表を見てみると、事細かくコーヒーのタイプが書き記されているのだ。

 それ以外に、トッピング内容も個人で選べるようになっており、独自の飲み方が出来るようになっていた。


「えっと、何がいいのかな?」


 初見だと、ほぼほぼわからない。


「じゃあ、こういうのは?」


 美蘭が指で示していたのは、マキアートやカフェラテなど。

 ついでに他のタイプについても色々と説明してくれていたが、知識のない真幸からしたらよくわからず簡単なカフェラテにする事にした。


「カフェラテね。アレンジはあり?」

「なしかな。普通に飲みたいし」

「わかったわ。普通仕様ね。真幸は、それだけでいいの? 食べ物とかは?」

「じゃあ……」


 真幸はメニュー表に掲載されてあったチーズケーキを選ぶことにした。

 他にも色々な内容がびっしりと記されてあったが、真幸からしたら普段から食べているものを直観的に選んだのである。

 選ぶだけでそこまで時間をかけたくないという思いもあったからだ。


「じゃ、決まりね。すいません」


 美蘭は、近くを歩いていた女性店員に話しかけ、注文をする。




「ね、私のも食べてみる?」


 今流行りの曲が店内に流れている際、目の前にいる美蘭から問いかけられていたのだ。


 注文してから十分くらいで注文した品がテーブル上にすべて並び終わり。真幸がフォークを使い、チーズケーキを食べている時だった。


「いいの?」


 美蘭がエスプレッソコーヒーと共に注文したのは、ホットケーキである。

 ホットケーキは二枚重ねで、はちみつソースのようなモノがかけられてあったのだ。


 彼女はナイフで一部分を切り取り、フォークで取ったそれを真幸の口元へと向けてきた。


「はい、口を開けて。あーんして」


 美蘭から促され、素直に口を開ける。


 付き合っている子から食べさせてもらえる事に、急に緊張し始め、少しだけ瞼を閉じてから口に含んでみた。


 パンケーキらしい程よい温かさを保ったまま、それを咀嚼してみる。


 誰かに食べさせてもらっているからこその美味しさを噛みしめられているのだと思う。


 安心した気持ちになってきて、心が自然と優しくなっていくような感覚になる。


「美味しいね」


 真幸は忖度無しに、思った事を口にする。


「でしょ。ここのお店のパンケーキってかなり有名でさ」

「へえ、そうなんだ」

「以前なんてさ、ネット記事にもなったくらいなんだからね」

「そんなに凄いところなんだ」

「そうなの。真幸が食べているチーズケーキもそうだけど、海外から材料を取り寄せてるみたいだからね。味わいも全然違うでしょ」

「確かに、スーパーで売っている商品とは全然違うなって」

「当たり前じゃんね」


 美蘭は笑顔で話していた。


「それとさ、この後、どっかに行かない?」

「どこって? 美蘭が行きたいところがあるなら、合わせるけど」

「まあ、大したところじゃないかもしれないけど。なんか、二人きりになりたいなって」

「え?」


 二人きり?


 意味深な彼女の表情も相まって、どぎまぎしてくる。


「いいでしょ、二人きりになる事くらい」

「う、うん」


 真幸は彼女の胸元を見ながら、緊張した面持ちでゆっくりと頷いたのだった。


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