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第11話 親しい間柄での夕食時間

「お帰り、お兄ちゃん!」


 街中からの帰り。薄暗くなり、電灯に照らされる道から帰宅した河合真幸(かわい/まさき)が、自宅玄関に足を踏み込むと、妹の咲夜(さくや)が出迎えてくれたのだ。


「美蘭さんも一緒なんですね」


 咲夜は、真幸の隣にいる白石美蘭(しらいし/みら)の姿を見て、目をパッと見開いていた。


「そうなんだよ。たまたま、途中で出会ってさ」

「でしたら、丁度良かったですね」

「え、どういうこと?」


 真幸が玄関で疑問口調になっていると、リビングの方から顔だけを出す子がいたのだ。

 彼女は美蘭の妹――文香だった。


「文香も来てたの? だったら、私に連絡でもすればよかったじゃない」


 玄関先にいる美蘭は、心配げな口調で文香に話しかけていた。


「ごめんなさい。でも、今から家に帰ろうと思って」

「でも、もう八時過ぎなのよ。もしかして、一人で帰ろうとしていたの?」


 美蘭は次第に強い口調になっていく。


「で、でも……」

「まあ、しょうがないし。いいわ。今日は真幸の家で食事をしたら帰りましょ」

「うん」


 文香は小さく頷いていたのだ。


「美蘭さん、今日は文香に料理を教えていたの」

「そうなの? 文香、ちゃんとできたの?」


 リビング内にいる美蘭は、近くにいる文香の頭を軽く撫でていたのだ。

 文香は嬉しそうな表情をチラッと見せていたのである。


「学校から帰る時、たまたま文香と一緒になったので。文香って手先が器用で、それに私が教えた事をすぐに理解してくれるの。文香が作ったお肉入りの卵焼きは、タッパに入れているんだけど」


 そのタッパは、文香の通学用のリュックに入れられてあった。

 今から帰るつもりで準備していたのだが、文香はリュックからタッパを取り出していたのだ。


「本当は美蘭お姉さんと一緒に食べる予定だったんですけど。美蘭お姉さん、今食べますか?」

「食べるよ。文香が作ってくれた物ならさ」


 美蘭は、文香からタッパの蓋を開けてもらい、その中身を見やる。


「凄い出来具合じゃん。私とは全然違うし。才能があるんじゃない?」


 卵焼きはちゃんと整っており、綺麗な黄色だった。


「そ、そんな事はないです」

「ね、文香、ちょっと食べてみてもいい?」


 文香は頷く。


「んッ、美味しいね。卵焼きの中に小さく切ったお肉が入ってるって感じね。意外といけるかも。それに、絶妙な味付け具合だし。これは最高かも」


 美蘭のリアクションを見て、文香は嬉しそうに頬を緩めていたのだ。




「「「「いただきます」」」」


 四人は河合家のリビングに設置された長テーブルを囲んでいた。

 テーブル上には、さっきデパートの地下で購入してきたフライドチキンとフライドポテトが置かれてある。

 それに加え、文香の手作りである、お肉入り卵焼きが皿の上に置かれてあった。


 真幸は、昨日と同様に四人で夕食を取る事に、どこか新鮮さを感じていたのだ。


 真幸は普段から妹の咲夜と二人きりで夕食を取る事が多く、休日の時くらいしか家族全員で夕食の時間を過ごす事がないからだ。


 夕食の時くらいは、人が多い方が楽しい。


 真幸はテーブルに置かれた、文香が作ってくれたお肉入り卵焼きを箸で掴んで食べる。

 確かに、美蘭の評価通り、程よい味付け具合で食べやすさを感じるのだ。


 最初、美蘭と付き合う事になった時は、不安なところが多かったものの、結果としては良かったのだろう。


 互いの妹同士も奇跡的に知り合いで、しかも仲の良い間柄。真幸の目の前の席に座っている咲夜と文香は、楽し気に会話をしながら食事をとっているのだ。


「ねえ、真幸。食べる?」


 真幸が普通に食事をとっていると、左隣にいる彼女からフライドポテトを箸で渡される。


「自分で食べるから皿に乗せてくれれば」

「いいから、私が食べさせるから口を開けてよ」


 美蘭からそう言われ、多少の恥ずかしさを感じながらも口を開こうとする。


 そんな瞬間を咲夜と文香からまじまじと見られていたのだ。

 なおさら気まずい。


 そんな状況下で、真幸は彼女からのフライドポテトを口に含んで咀嚼する。


「美蘭さん、お兄ちゃんとは上手くやれてますか?」


 突然、咲夜が問いかけていた。

 そんな対応に、美蘭はうーんと頷いたのち、口を開く。


「まあ、そうね。いい感じに出来てるんじゃない? ね、そうでしょ、真幸」

「ま、まあ、そうかもな」


 真幸は咀嚼し終えたフライドポテトを喉に通し、近くにあったコップを手にして水を飲む。


「それより、少し真幸って奥手なところがない?」

「そうかもですね」


 美蘭の問いかけに、咲夜が返答していた。


「お兄ちゃんは今まで彼女とかできた事もなかったので、まだ慣れていないと思うので。そこは美蘭さんが頑張るしかないと思います」


 咲夜は、チラチラと真幸の姿を確認しながら、淡々とアドバイスをしていた。


「じゃあ、私からもう少し行動した方がいいってことよね」

「そうですね」


 咲夜は少し考え込む姿勢を見せた後、何かがパッと閃いた感じに美蘭を見やっていたのだ。


「でしたら……そうですね! この前遊園地のチケットを街中の景品で当ててたんです。それを使って二人で遊園地に行くというのはどうでしょうか!」

「え、いいの? でもさ、景品なんでしょ?」

「私は行く予定もそんなにないので美蘭さんにあげます」

「ありがと」

「私、遊園地のチケットを持ってきますね」


 昨夜は席から立ち上がり、真幸の近くまで歩み寄って来た後、美蘭さんとちゃんと遊んできなよと、耳元でこっそりと言われていた。

 そんな妹は、リビングから立ち去って行く。


「遊園地か。久しぶりね。真幸は、どんなアトラクションが好きなの?」


 真幸が美蘭と会話をし始めた時から、対面するように席に座っている文香からの視線を感じるようになっていたのだ。


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