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青き竜とレモン色の小鳥  作者: しんた☆
8/20

8 疑心

 翌朝、小鳥の囀りで目が覚めた明希は体を起こそうとして「ぐわっ!」と唸り声をあげた。全身が筋肉痛で悲鳴を上げている。


「おい、アキ。そろそろ準備しろよ。」


 声を掛けながら、せっせと何かを作っているレイモンを覗き込むと、植物のつるを編んで、肩から下げられるカバンを作っていた。


「さっきバナナの木を見つけたんだ。何本か持ってた方がいいだろう。」


 そういうと、小ぶりだがたくさん実のついた房を寄こしてきた。


「なんでも作るんだな。」

「当たり前だろ。こんなところに店はないし。第一お前、お金ももってないんだろ?」

「あ…。」


 胸ポケットに入っているスマホには電子マネーのアプリがあるが、こんなところでは役に立たない。


「ありがとう。助かったよ。」


 素直にそう言ってカバンとバナナを受け取ると、きしむ体を思いっきり伸ばした。


「ここからは、川沿いの道を行く。しっかりついて来いよ。」

「え?このまままっすぐ登った方が早いんじゃないか?」

「いや、こっちだ。」

「…分かった。レイモンは、もう何度も竜に会ってるの?」

「え?ああ、まあな。 ほら、この沢を登るから、足元気をつけろよ。」


 レイモンは顔をそらす様に歩き出した。おかしい。レイモンは、竜の話になると話をそらそうとしている。山の頂上に竜のサークルがあるのなら、このまま獣道を進めばいいはずなのに。明希の中で嫌な予感が広がり始めた。そう、よく読んでいたライトノベルでも、最初に遭遇する親切そうな奴は、実は悪役の手先だったなんてことは往々にしてあった。自分は、何かに嵌められていたりはしないだろうか。


「なぁ、レイモン。おまえは竜の居場所を知ってるの?」

「…」

「レイモン!」

「うるさいな!それを知ってどうするんだよ。ハッキリ言っておくが、ここで俺がおまえを見捨てたら、竜には絶対会えないんだぞ!」

「そこまで言うなら聞くけど、レイモン、おまえって、竜の居場所を知らずに案内しているんじゃないのか?」


 沢を登りながら答えていたレイモンだったが、さすがに足を止めて振り返った。


「じゃあ、この際ハッキリ言っておく。青き竜を呼び出すサークルは誰かが召喚されるたびに居場所を変えている。だから、絶対にあそこだって言い切れることはない。それは事実だ。」

「それならどうしてこんな沢を登ったりしているんだよ。」

「…おまえは信じないかもしれないけど、何かが俺に呼びかけてくるんだ。こっちだ、こっちに来いって。」

「ふっ、ありえないな。いくら何でも都合がよすぎる。」

「どういう意味だ!」

「俺をだまして生贄にでもするつもりだろう。」

「はぁ?そこまで言うなら、勝手にしろ!俺の案内はここまでだ。」


 レイモンはそう言い放った途端、小鳥に姿を変えて飛び立ってった。


「あ、おい!」


 あっという間に姿が見えなくなったレイモンに、悪いことをしたと気付いても後の祭りだ。明希はため息をついて沢から上がり、元の獣道をゆっくりと歩き出した。


「なんだよ。こんな世界に引きずり込んでおいて、あんなことぐらいで見捨てるなんて、ひどすぎる!」


 ブツブツと文句をいいながら獣道を黙々と歩くが、スニーカーの中にまで水がしみ込んで気持ち悪い。太陽が真上に上がったのを確かめて、明希は少し開けた場所で休憩することにした。靴や靴下を脱いで草原に座り込む。カバンからバナナを取り出して頬張った。


「うまっ!このバナナ甘味が強いな。」


『だろ? 俺の見立てをなめるんじゃないぞ。』そんな答えが返ってくる気がしていたが、もちろん誰も答えてはくれない。草原に寝そべって青空を眺めると、その青さが元の世界をいやでも思い出させる。


「夏休みになったら、一緒に旅行に行ってみないか? ほら、僕が勧めて明希も気に入ったって言ってた『青龍の杜』の舞台になった作家の実家近くの町。それから、クライマックスで出て来た港とか。1泊すれば回れるみたいなんだ。叔父さんの旅館で泊めてくれるって、言われてるんだよ。」


 ちょっとはにかんだような顔をして、誘ってくれた伊織のことが思い出された。青き竜に会えたら、やっぱり頼んでみよう。どうしても、伊織には元気になってほしい。明希はぎゅっとこぶしを握り締めた。


「よし、がんばって登ろう。」


 体を起こして靴下を手に取ると、すっかり乾いていた。スニーカーの紐を結びなおしていると、背後になにかの気配がした。


「レイモンか?」


 振り返った先には、オオカミがいた。図鑑などで見た物よりずっと痩せていて、殺気立っていた。


まずい!


読んでくださってありがとうございます。

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