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青き竜とレモン色の小鳥  作者: しんた☆
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4 アクシデント

 翌日、ちょっとしたアクシデントが起こった。登校時に階段を上がっているとき、後ろから来たクラスメートの石田に明希のリュックがぶつかりそうになったのだ。石田は、クラスではムードメーカー的な存在で、背が高く言いたいことをズバズバ言う目立つ存在だ。中学に入って、勉強や部活に少しずつ慣れて来た2年生という学年は、中だるみだとか、思春期のイライラが、などと、大人たちが言うように、ちょっとアンバランスな時期ともいえる。些細な事で揉め事が起こるのだ。


「てめぇ!危ないだろう!」

「え?なんだよ。後ろから急に近づいたのが悪いんだろ。」


 あっという間につかみ合いになってしまった。しかし、背の高い石田に掴み上げられた明希に、なすすべはない。後からやってきた伊織が止めようとしたときには、明希は廊下に放り出されていた。

 その日からは、なんとなくクラスの空気が悪く、なにかと明希につっかかる石田に、他の生徒も困惑しながらも止めることもできない状態だった。


「明希、帰ろう。」

「いや、しばらく離れていた方がいいよ。伊織まで巻き込まれたらイヤだ。」


 明希は最大限のやせ我慢でそれだけ言うと、石田に見つからないようにそそくさと帰っていった。


「明希…。」


 そんな親友を見送る伊織は、自分の不甲斐なさに唇を噛んでいた。


 それから数日は、クラスの誰もが気づくほどに、まるで別人のように薄暗い空気をまとった明希がいた。石田の周りにいた仲間も、なんとなく、距離を置き、嫌な雰囲気が漂っている。それによって、石田は一層イライラを募らせるのだった。


 その日も、暗いオーラを纏った明希を、寂し気に見つめながら登校する伊織の姿があった。


「ねえ、アンタあの子の親友なんでしょ?なんとかしなさいよ。クラスの空気がどんよりしちゃって迷惑なんだけど。」


 声を掛けたのは、幼馴染の実里だった。そうは言われても、ケンカなどしたこともない伊織には何をどうすればいいのか分からない。困惑したまま階段を上がっていると、再び石田が明希に絡んでいるのに出くわした。そこからは、自分でも何が起こっているのか分からないまま、伊織は明希の前に飛び出していた。


「邪魔すんな!」


 苛立った石田の腕が、階段を駆け上がってきたばかりの伊織を殴りつける。


「うわっ!」

「伊織―!!」


 目の前で階段を転がり落ちる伊織を目の当たりにした明希は、頭の中がかっと真っ白になり、石田を振り切って伊織に駆け寄った。


「おい、伊織!大丈夫か? 誰か、先生を呼んできて!!」


 多くの生徒がじっと見つめている。中にはスマホで撮影する者までいる。そんな中、駆け出したのは実里だった。


 明希が狂ったように叫ぶ中、伊織は救急車で運ばれていった。



 階段転落事故から数日が経っても、伊織の意識は戻らない。明希は学校を休んだまま部屋に閉じこもっていた。時折母のスマホに電話がかかると、じっと耳をそばだてて伊織に変化がなかったかと意識を集中するばかりだった。


「明希、もうそろそろ学校に行った方がいいんじゃない?先生も心配されてたわよ。」


 部屋の外で、母の心配そうな声がしているが、明希はどうしても学校に行く気にはなれなかった。伊織は意識が戻らないが、状態が悪化しているわけではないと言われ、少しずつ、気持ちは落ち着いて来ている。それでも、いや、だからこそ、あの時の周りの生徒たちの好奇の目や向けられたスマホを思い出して、恐怖が襲ってくるのだ。ただ、そんな中で教師に伝えてくれた実里にだけは、お礼を言わなければと思っていた。


 ある朝、明希は突然母にたたき起こされた。


「明希、今日は休みを取ったから一緒に出掛けるわよ。」

「え? どこに?」

「そんなの、決まってるでしょ!」


いつになく押しの強い母に流され車に乗り込むと、向かった先は病院だった。真っ白な廊下を歩いて行くと、突き当りの個室の前に小さな人影があった。伊織の妹の渚だった。


「渚ちゃん、伊織の具合はどう?」

「明希兄ちゃん!今ね、お医者さんがお兄ちゃんの事見てくれてるの。」


 渚は、明希と母に廊下の長椅子に座るように勧めた。まだ小学生だというのに、しっかりしていると、明希の母は眉を下げた。そして、間もなく医師が退室すると、伊織の母が、明希を呼んでくれた。


「明希君、来てくれてありがとう。伊織も喜ぶと思うわ。」


 伊織の母は、そういうと、明希だけを中に入れて自分は廊下に出て行った。明希が個室の奥へと進むと、点滴を施されたまま静かに眠っている伊織がいた。


「伊織…。俺のせいで…。ごめん。」


 ふと、伊織の表情が緩んだような気がして、明希ははっとした。


「伊織? 気が付いたのか?!伊織!」


 しかし、それはほんの一瞬のことで、伊織の瞳が開かれることはなかった。


読んでくださってありがとうございます。

よろしければ、ブックマークなど頂けると嬉しいです。

物語はまだまだ序盤です。もうちょっと進んだら、評価もいただけると嬉しいなぁと思います。

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