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青き竜とレモン色の小鳥  作者: しんた☆
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1 無邪気な日々

やっとある程度形になってきたので、投稿させていただきます。

またぼちぼち連載いたしますので、よろしくお付き合いください。

 海風が吹きあがる丘の上の展望台に、すらりと背の高い少年が、口を真一文字に引き締めて、じっと街を見下ろすように立っていた。少年は、今日初めて親の反対を押し切って公立中学に入学したのだ。公立は勉強のレベルが低いとずっと反対してきた父とは、私学の入試をドタキャンしたときから口を聞いていない。


「ねえ、お前も楓中学?」

「え?」

「その制服、今日、入学式だっただろ?俺も今日入学したんだ。おれ、佐久間 明希。よろしくな。」


 突然声を掛けられ、あまりにもあたりまえの様に差し出された手に、思わず答えてしまって、少年はちょっと気まずい表情になった。


「ねえ、何組?」

「え、3組だけど。」

「やった!同じクラスだ!ねえ、名前は?」

「冬野 伊織。」

「伊織か。かっこいい名前だな。仲良くしようぜ。」


 孤高に生きる決心をしていた伊織は、いきなり絡んできて子犬のように人懐っこい明希に押されっぱなしだ。そして、いつの間にか友達認定されてしまった。その日から、明希の底抜けに明るい雰囲気に流されるまま、いつの間にか二人は親友と言える間柄になっていった。


 定期テストの勉強に勤しんでいた明希は、うーんと伸びをして、階下に飲み物を取りに降りて行った。居間では、母親が鼻歌を歌いながら花を生けている。


「あれ?今日、何の日?」

「あら。明希ったら、忘れたの?今日はお父さんのお誕生日よ。」

「あ、そうか。だけど、花を飾っても仕方ないじゃん。父さん、単身赴任なんだし。今年も帰ってこないんでしょ?」

「もう!明希はつめたいわね。お父さん、向こうでがんばってるのに。」


 明希は笑いながら、冷蔵庫のジュースをコップに注ぐと、さっさと部屋に戻っていった。2階に上がって自分の部屋に向かう途中、ふと、父親の書斎を覗いてみたくなった。自分だって、父親が一人でがんばっていることは分かっている。そう思いながら、父親の面影を探してみたくなったのだ。


 そっと扉を開けると、長らく主がいないままの空気があった。聞こえるのは、壁に掛けられた時計の秒針の音だけ。棚の上にあるフォトフレームには、小学校入学式の自分と両親が笑っている写真が飾られている。


「父さんもがんばってるだろうし、俺もがんばるか。」


 そう言って、部屋を出ようとしたとき、無人の部屋にどさっと音がして、明希は体をこわばらせた。見渡すと、本棚の端に立てかけてあった古びた本が、床に落ちていた。なんとなく手に取ると、冒険物の小説の様だった。


「へぇ、父さんでもこんな本を読むんだ。」


 一人つぶやいて、そのまま本を持って自分の部屋に向かった。定期テストは明日で終わる。そしたら、この本をじっくり読ませてもらおう。明希は本を読むのが大好きなのだ。活字がないと落ち着かないほどで、周りの友人たちの様にゲームはあまりやらない。だから、クラスの仲間とそれほど親しくなることもなかった。話題のゲームがあると聞くと、その元になっている小説を探して読む方が楽しいと感じているのだ。

 それでも明希が暗く落ち込んだりしないのは、元々の性格だけでなく、親友の存在があったからだ。親友の名は、冬野 伊織。物静かで知的な少年だ。本人の自覚はないが、明希は伊織の事を「イケメン枠」だと思っている。実際、伊織がどこかの女子に告白されているのを目撃したこともあった。偶然目撃した明希は大興奮で、どんな答えを出したのかと楽し気に伊織に詰め寄って、親友を困惑させたりした。


 翌日、無事試験が終わって席を立つと、いつものように親友から声がかかる。2年も同じクラスになれたのは、ラッキーだった。


「明希、帰ろうか。」

「うん、帰ろう。今日のテスト、どうだった?」

「え?うーん、まぁまぁかな。」

「ああー。愚問だったな。いつもベスト3にいるおまえに聞くことじゃなかったわ。」

「そういう明希はどうだったんだ? 今日の数学、この前教えたところが出てただろ?」

「そうなんだよ!思わずやったーって、言いそうになった。」


 イエーイ!と言って、ハイタッチを求める明希に、伊織は照れ臭そうにしながらも答えた。どんなことでも楽し気に話す明希を、伊織は羨ましいと思っていた。特に勉強ができるわけでも、目立つほどの美形であるわけでもないけれど、明希の周りには、いつも明るい空気があって、息をするのが楽なのだ。


「あ~あ、伊織はいいよなぁ。背が高くて顔もいい!しかも頭もいい!女子にモテるのも仕方ないよなぁ。羨ましいよ。」

「そんなことないよ。顔が良いとかモテるとか、どうだっていい。好きな人に好きになってもらわなきゃ、意味ないじゃないか。」


 そう、答えてからちらっと明希を見ると、きょとんとした顔でこちらを見ていた。


「そうかぁ。やっぱりモテる奴の言うことは違うなぁ。。。」

「ふふ。ちっとも分かってないんだなぁ。」


 感心する明希を見ていると、なんだか日ごろの悩み事が小さいことの様に思えて、伊織は思わず笑いだした。やっぱり明希といると楽しい。今はそれで充分だと伊織は歩き出した。

校門の前ですれ違いざま、幼馴染の森 実里が呆れた様に言う。


「テストが終わった途端、はしゃいじゃって、子どもねぇ。」


 幸い、その言葉は明希には聞こえていなかったようだ。実里の隣には、いつも前髪で目元を隠す様にしている女子がいる。川村 沙也だ。幼馴染の実里の親友らしいが、どうにも隠した前髪の奥からの視線が気になって居心地が悪いと感じるのだ。


よろしければ、ブックマークなどよろしくお願いします。

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