【小噺】しかめ面に青筋
昨日に続き、「Nola」にある『オリジナルのみ、ルーレット式小噺集。』からのSSです。
昨日のものよりは長いです。ですが、昨日同様、登場人物は本編未登場です。
〇6・5『ナスティージャ=ナスティージョ』__「魔女窓」より
●2・0「ウィンク」
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何故このようなことをしているのか、と正気に戻りかけた。
私は、その思考を見なかったことにして、鏡と睨めっこを続ける。
ことの発端は、つい先ほど行われた“円”の議会とその終了直後の出来事である。
”円”というのは、魔法使いの自治組織「魔法使いの円」の略称だ。
ドストレートな名付けだとは思うが、捻る必要性も感じない。恐らく、私と同じように考える者ばかりだから、発足以降名前が変わらずにいるのだろう。__「大事なのは、伝わるかどうかだ」と。
さて、すり鉢状に配置された”円”の議会の席。その席順は、議会の招集毎にランダムで決まる。
今回、口の良く回るエルバ・J・ハーキムと横並び__というハズレを引いてしまった私は、周囲に極悪と称される人相を一層険しくして指定された席に着いた。
これだけで既に、何か面倒なことに巻き込まれるだろうとは、想像に難くなかったからだ。
しかし予想外だったのは、いつもは議会の際中だろうとラジオのように淀みなく流れ続ける彼の声が、序盤からまったくしなかったこと。
いつもであれば、エルバ以外の現四天王である私含めた3人のいずれかが、1つ目の議題途中くらいから彼をミュート状態に隔離する。その音声隔離を、会議の開始直後にエルバが自発的に展開したのだ。
今日もふてぶてしい態度の薄明以外、全員が様子を伺ったに違いない。
此方にまで視線の流れ弾が当たって面倒くさいったらないが、しかし、何度も見てしまう程のことだというのは解るのだ。
当然、私も確認した。
相変わらず綺麗な魔術を組み上げていて見る度に少し腹が立ったが、それは、まあいい。
問題はその表情である。いつも不気味なほど満面の笑みである彼が、しかめっ面の範囲をうろついていた。
いよいよ槍が降ることを危惧する。
そんなこちらの心配を他所に、エルバはいつも通り、必要なことだけミュートを解いて発言していて、異常と正常の区別が付けられずに私の精神が削られていく。議題はギリギリ頭に入ってくるが、いつもと比べて思考は冴えない。
チラと正面1つ上段に座るアロニスを見れば、彼にも若干疲弊の色が見えたので、きっと私同様に悩んでいたに違いない。
そんなこんなで会議は終わり、精神を摩耗した私を更なる嵐が襲う。
「ねえ、ナスティージャはウィンクってできる?」
「……は?」
更に人相が悪化したのを自覚する。
「それが何なんだよ?」
「いやね、この前噂を聴いたんだよね。ウィンクができると使える魔術が増えるとか何とかってさ。」
「馬鹿言ってないで研究室に戻ってくれ。」
呆れて出入り口に向かおうとする私に、彼は尚も言い募る。
「適当な話じゃないんだって!視界をフィルター代わりにして、左右で見えてる魔術式を切り替えれば同じ場所に魔術式を出現させられるんじゃないか__って発想らしいよ。」
そう言われるとなんだか試したくなってくるのは魔法使いの性か。
「……そうかよ。」
「試したら結果を教えてね~!」
此方の内心を察した陽気な声を背中で受け止め、自身の研究室に帰って来る。そして冒頭に至る。
「……チッ。エルバの不機嫌面はウィンクの失敗かよ。」
あの男と同様に自分がウィンクのできない人間であることを認めたくなくて格闘しているが、もうそろそろ焦れてきた。
「あーもう!止めだ、止め!!」
手鏡をクッションに放った私は、鬱憤を晴らすべく、作りかけの魔術具に向き合うのだった。
◇◆◇
〆
初めて聞く名前ばっかだなぁ、と思われたでしょうが、出て来た時に「ああ、この描写ってそういうことか」と言ってもらえるように書いたりもしていますので、本編登場をお楽しみにお待ちくださいませ。
今日もありがとうございました。




