鈴蘭の影
私はあの二人が憎い。私を裏切ったあの二人が……。
絶対に許せない。私に対して、何の罪の意識も感じずにのうのうと生きているあの二人が……。
地獄の底に突き落とせるものなら、突き落としてやりたい。たとえ我が身を犠牲にしてでも。
よく晴れた日の午後、私は自宅の庭に出て、可憐な小さな白い花を咲かせている鈴蘭を見つめた。
五月の爽やかな風に吹かれて花壇で咲き誇っているそれらは、見かけとは裏腹に毒性の強い植物でもある。
鈴蘭の歯を茹でて、今日の夕食のサラダに混ぜてみたらどうだろうか?
私はふとそんなことを考えながら、鈴蘭の葉を数枚ちぎった。
サラダを食べて苦痛に顔を歪め、床に崩れ落ちていくあの男――私の夫。
そして、その惨状を目の当たりにする野菜嫌いなあの女――私の実の妹の驚愕ぶりが容易に想像できる。
それをしっかりと目に焼き付けてから、私も夫と同様に『鈴蘭のサラダ』を食べて床に崩れ落ちる。
妹は幼い頃から私のものを何でも欲しがり、何でも奪っていった。
そして今、私の最愛の夫まで我がものにしようとしている。
子宝に恵まれなかった私にとって夫がすべて。夫なしの人生なんて考えられるはずもない。
もうこれ以上、夫と妹の逢瀬を許してはならない。プライドにかけても。
私は早速妹に電話をかけた。
「……ああ、……お姉ちゃん、何?」
執筆業で昼夜逆転の生活を送る妹は、いかにも起きがけのようなくぐもった声で答えた。
こちらの思惑も知らずにいい気なものだ。
私はいつものように『優しい姉』を演じ、妹を誘った。
「久しぶりに今晩ウチで一緒に食事でもしない? 腕によりをかけて作るから……」