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行き当たりばったり勇者譚  作者: 青い傘
第二章 聖剣と封印
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火竜

 目の前の生き物が恐らく竜であろうことはそこに居合わせた四人はすぐに理解した。まさに伝説の通りに大きな巨体に鋭い爪や牙を持っている。


「勇者カ。モウソンナ時期ナノダナ」


 やや聞きづらい声ではあるが、その声には長くを生きた威厳があった。


「ナラバ、持ッテ行クガイイ」


 実にあっさりと、簡単に竜からの許可が出る。一行の中でも勇者や僧侶は気にしていなさそうではあったが、王子はさすがに気になったらしい。


「…そんな簡単でいいのか?俺たちがただの侵入者かもしれないぞ?」


「構ワン。私ノ巣ヲ家ヲ汚ス者ニハ、容赦ハシナイガ」


 まだ納得していないのか怪訝な目を竜に向けるレオナンドに対して、ミーシャがポツリと声を発し、アイリスも小さな声で感想を述べる。


「………意外とロマンチスト?」


「え、そうなんですね。もしかして、勇者の旅も内心ではワクワクしている感じなのですか?」


「…うるさい。聞こえているぞ」


 ひそひそと話す声だったがバッチリとレオナンドの耳にも聞こえている。薄暗い洞窟であること、彼よりも後ろにいることから顔までは視認できないが赤くなっているのは間違いないだろうと二人は仲良くほほえむ。


「それじゃあ、これはもらっていくね」


 勇者はそんなやり取りには関わらずに竜に対して、声をかける。


「構ワン」


 短い一言も聞く前に勇者は聖剣を引き抜く。いや、引き抜くはずだった。しかし、抜けない。引き抜けない。


「…抜けないんだけど」


 引き抜こうとする勇者をじっと眺めていた竜が口を開く。


「ナラバ、貴様ラハ私ノ巣ヲ汚ス者ダトイウコトダナ」


 開いた口が赤く灯り始める。とっさに反応をしたのは良かったが前衛の二人に打てる手はなかった。しかし、アイリスもミーシャも反応できたことが一行を救うことになる。


『プロテクション』


『ウォーターウォール』


 二つの壁が竜から放たれる炎を遮るように生み出される。瞬時に生み出したものではあるが、勇者一行に選ばれる精鋭が作りだした魔法は十分な効果を持つ。


「結局、戦う羽目になるのか」


「あれ、楽しみにしてたんじゃないの」


 さっきの会話をからかうように勇者がレオナンドに軽口を叩きながら、腰に下げていた剣を引き抜き、竜にとびかかる。


「っ硬ぁ」


 しかし、その飛び出しもむなしく竜の鱗に跳ね返される。


 レオナンドも繰り出される竜の攻撃に応戦しながら、魔剣を繰り出す。相手はあからさまに火であるからにして水の魔剣から派生した氷の魔剣で攻撃をする。


「なかなかどうして硬すぎる」


 攻撃を繰り出し、一歩引きを二度三度繰り返すが、竜には痛手どころかかすり傷ひとつ付いていない。対してこちらも一撃こそ食らってはいないものの、あの鋭い爪や炎を食らえば一溜まりもない。


「どーしよっか。多分、力をためれば貫通するとは思うんだけど」


「そうか。ならば、それしかあるまい。俺が時間を稼いでやろう。口からの炎は後衛の二人に任せた」


「………任された」


「任せてください」


 額に浮かぶ汗をぬぐいながら、レオナンドは左目の魔眼を発動させる。『未来視の魔眼』。そう呼ばれる魔眼の効果はその名の通り、少しばかりの未来を見ることが出来る。達人には相手の動きを見ることで予測することが出来るというが、彼は予測ではない。完璧な軌道を見ることが出来る。


 だから、その攻撃に対応できる速ささえあれば理論上はどんな攻撃にも対応することが出来る。そして、竜の攻撃はというとその巨体とは思えない速さで腕を振るい、爪を立ててくる。しかし、レオナンドにとっては十分に対応できる速さだ。


 何気にミーシャも魔法での援護で気を逸らしてくれている。なれば、攻撃を受ける道理などない。


 とはいえ、一人で一撃必殺の攻撃をさばき続けるのは精神的には辛いもので時間にすればほんの1、2分が彼には何十倍にも感じられたのあろう。額に浮かべていた汗は先ほどよりも多く、剣を握る両手も心なしか震えているような気もする。


「ありがとう。ここからは僕が」


 勇者の攻撃の合図がやってくる。

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