メッカ火山 火口
草木花はなく、灰色の岩肌とところどころに見える赤色のマグマらしいものが見える。どれくらい上ったかは分からないが人が歩いた痕跡もない道になり始めているのは確かだった。町から出たこともない人であれば、すぐに諦めて帰るだろう。いや、訓練した兵士であっても誰も好き好んでこの山を登ろうとは思わないであろう。
「だからこそ、封印もここにしたんだろうね」
勇者たちもその道を正規の道で通ろうと思ったら、相当に疲れるだろう。
「それにしても便利だな」
そう、正規の道で通ったらである。彼らは最初こそ正規の道を通ろうとはした。しかし、戦闘職ではない女性陣、いや正確にいうのであれば魔法使い、ミーシャがすぐに弱音を吐いた。
「………無理。死ぬ」
要因が目を隠すほどに長い髪と熱を集めやすい暗めの服ということを置いておいても、メッカ火山の環境は少しきつかったようだ。
そうして、取り出したるは魔法の絨毯。なぜ、絨毯なのか問うとどこかの国で生産されたものだから理由は知らないと返されたが、四人も載せてフワフワと宙を浮かぶほどの性能はもちろんない。手に入れたミーシャが魔改造を行うことで便利な魔道具と化しているだけで元は一センチも浮かべばといったところらしい。
さらにはミーシャの魔法で絨毯の周りでは熱気を遮断し、涼しくするという魔法の行使によってさらに乗り心地が良くなっている。聞けば、今思いついたから試した。そしたら出来たという話。
「魔力とか大丈夫?」
魔道具にオリジナルの魔法。勇者は魔力の心配をして声をかけるが、
「………問題ない。むしろこの暑さの方が問題」
どちらにせよ、もはや岩登りをしなければ山を登らないといけない時点でこのような手段を取らないといけないのも事実であったから、ミーシャの機転には助けられているわけである。本人からしたら楽をしたかっただけなのかもしれないが。
絨毯のおかげか思っていたよりは火口に付くのはそこまで大変ではなかった。山の頂上の部分がへこんでおり、噴火口がよく見える。
「来れば分かるらしいが…噴火しないだろうな」
少し心配げなレオナンドだが、眺めているとキラリと光るものが見える。それは少し降りたところにある横穴からだった。
「行ってみよう」
軽く勇者は言うが、果たしてミーシャの絨毯がなければどうやって行けばいいというのか。さらに熱気が上がる火口の中だが、魔法の力で一切そう思わないまま、横穴へと辿り着く。
光っていたのは台座のようなものだったが、剣が刺さっていた。
「聖剣のレプリカか?そんな話は聞いていないが」
不思議そうに剣を見るレオナンドに勇者が答えを示す。
「これも聖剣だね」
そう言いながら、剣を引き抜こうと一歩前に出る。
「誰ダ」
低い鈍い声が横穴中に広がる。
「僕は勇者だ。ここにある聖剣をもらい受けに来た」
その声に反応するように暗影から姿を現したのは、赤い表皮を持つ大きな大きな生き物であった。