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行き当たりばったり勇者譚  作者: 青い傘
第一章 旅立ちの王都
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旅立ちの王都

 パレード。今回行われるのは勇者を送り出すためのもの。最近では王女の生誕祭以降、しばらく行われていなかったためか出店なども大変盛り上がっているのようだ。勇者一行はパレードの馬車から顔を出しながらその様子を見る。


「なんか貧民街のほうと比べるのもどうかなと思うけど、素直に楽しめないね」


 つい1時間ほど前まで貧民街で起きている人さらいの事件をほぼ解決してきたこともあってか、勇者の顔はあまりパッとしない。同じ馬車には乗り合わせているのは、同じく勇者と共に魔王討伐の任を受けた第三王子だったが、彼にはこの行事の必要性も理解しているが故に


「しょうがあるまい。それにお前がそんな顔をしていては、送り出してくれる国の民を心配させてしまうだろう。世界の希望となる自覚を持て」


 勇者の顔を見ずとも口調から勇者の表情を予測して声をかけるレオナンドは対照的にお手本のような笑みを浮かべ、手を振っている。


「分かってはいるつもりなんだけどね…。まだ、うまく行かないや」


「まぁ、もう一人論外がいるからな。それよりはマシではあるだろうが」


 後続の馬車にはアイリスとミーシャ達―――女性陣が乗っているが顔を出しているのはアイリスだけであった。


「うーん、ミーシャはしょうがないんじゃない?あんな閉鎖的な村からで出てきているんだし。田舎から出てきた僕が言うのもなんだけど、あまり顔も知られていないんだろうし」


「うむ。それに引き換え、アイリスは中々の人気だな。一部の熱狂的な信者とでもいえばいいのか?もいるそうだし、聖女とも言われ始めているとか」


 王国内でもその顔立ちや性格で羨望の的やファンがいるレオナンドが言っても説得力がないのは置いておいても、アイリスも負けず劣らずに人気のようだった。それもそのはずで、容姿がいいのは言うまでもないが、教会勤めをしていたころから老若男女、荒れくれものも貧乏人、貴族と平等に治療するということもあって、次期聖女とまで噂されてもいる。


 聖女は代々優秀な神官や僧侶などから一人だけ選ばれる称号を指す。今代の聖女は少し今までの気色が少し異なるのもアイリスが次期聖女と叫ばれている要因の一つかもしれない。というのも、今代の聖女は守りにおいて最高の能力を持つ。


 そのため、最前線の魔族と人族の境界でその力を振るっている。そのため、最前線で戦うものからすれば、おおいに助けられているので実感も湧くだろうが、戦争の舞台にいない彼らからすれば、アイリスの方が身近というのも大きいのだろう。




 王城を出発して、王都中を回った馬車は王都正門でその脚を止める。実に1時間は優に超えたパレードだった。馬車が去ってもそのお祭り騒ぎは続くが。


「さすがに疲れた」


 馬車から最初に出てきたのは勇者だったが、随分とくたびれた顔をしていた。それでも、まだ人の目があるからとすぐに表情筋に力を入れる。


 レオナンドも少し疲れているような顔をしてはいるが、さすがは王族というべきかほんの一瞬で切り替え、見送りに来ている国民に笑顔を振りまく。


 少し遅れてきた馬車からはとても疲れていることをおくびに出さないアイリス。それと、何をしていたのかも分からないミーシャが出てくる。乗っていただけだろうにミーシャも同じように疲れたようにしている。しかもそのことを隠すこともしないので、寄ってきたミーシャを少し小突く。


「お前…、何もしていないだろ」


「………うるさい」


 よく見ると、疲れているというより、気持ち悪そうにしているので馬車で酔ったのかもしれない。王族御用達の馬車なので、揺れも少なかったはずに関わらずだ。この先、道も整備されていない上に馬車のグレードも下がり、余計に酔いやすくなるのではないかと思うが


「………酔わないような魔法を組む」


 簡単には言うが、新しく魔法を作るのはそう簡単なことではない。ミーシャという魔法使いがおかしいというのは理解していただくとして、


「………もう無理」


 耐えきれなかったのか、端の方へと行くミーシャには誰にも近づかない。


 ミーシャを待つのも兼ねて、集まってもらった人たちに挨拶をしていれば、比較的すぐに戻ってくる。


「………ふぅ。死ぬかと思った」


 まだ出発もしていないのに縁起でもないと思いながらも勇者が代表して、音頭を取る。


「これからいろんな苦難や強敵が待ち受けていることでしょう。それでも僕は、僕らは魔王を倒して再び帰ってきます。その時はまたこのように温かく出迎えてくれるうれしいです」


 それから一息ついて


「行ってきます」


 こうして彼らの魔王討伐の旅は始まったのであった。

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