目覚め
アイリスの回復魔法はそれこそ死んでさえいなければ、どんな状態からもたちまち元通りということが出来るくらいの効果を持つ。
それで誰を対象にしたか。
力を使い果たして倒れた聖女その人である。
アイリスがかけた回復魔法はたちまち効果を発揮し、聖女を眠りから叩き起こした。
「うぅん。確かあーしは結界の張りすぎで倒れたはずで、大分寝ていた感じですかね。妙に疲れが取れているというか、リラックスできているというか…」
「目覚ましたなら、結界の張りなおしを頼む」
既に勇者は単騎でババベルとの攻撃の応酬を繰り広げている。さっきまでの地下での出来事で彼も相当の体力を消費しているはずなのにも関わらず、そんな素振りを一切見せることなく聖剣を振るう。
アイリスの回復魔法をかけたわけでもないのにだ。
「聖女使いが荒いんですけどぉ」
ぶつくさと文句を垂れる彼女ではあったが、文句を言いたいだけだったのか、すぐに結界を張りなおすために意識を切り替えた。
そして、改めて聖女の結界が張りなおされる。次々と入り込んできた魔物だったが、突如現れた不可視の壁によって分断されたことによって、勢いを削がれることになった。
入れなかった側の魔物は結界を破ろうと攻撃を繰り返すが、壁の上からの人間には届かないこともあって、人族側が有利になり、魔物は数を減らし始めていた。
「あぁ?使えない奴らだな。まったく、俺様以外は信頼できない、脳みそも足りない、役に立たない。ないない尽くしのお前らでも攪乱くらいにはなるかと連れてはきたが、それすらも出来ないならしょうがない。俺様が一人ですべてを蹂躙し尽くすだけよ」
「んじゃ、僕らがそれを止めてしまうわけだ。悪いね」
立ちふさがるは我らが勇者一行。少しも悪く思っていない顔で、むしろにこやかにそう言う。
「誰だ?てめぇら?あーー、なんか聞いたことはあるなぁ。生意気にも俺様たちに盾突く奴らがいるってなぁ?」
ぎらついた目が彼らを捉える。そして、挨拶代わりにでもと言わんばかりの表情で空を爪でひっかく。驚くべきことに空を切っただけのはずなのに、斬撃が勇者の頬を撫でた。
「おいおい、今のもよけられないのに俺様を倒すつもりでいんのか?」
少しがっかりしたのかババベルの顔には失望ともいえるものが浮かんでいた。
「せっかくの強敵と巡り合える。そんな予感もしてたが、勘違いのようだったな。もう死ねや」
再度、爪を振るうだけで不可視の攻撃が勇者を襲い掛かる。全く動こうともしない勇者を見ながら、ババベルは苛立ちを隠すことなく、舌打ちをした。




