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行き当たりばったり勇者譚  作者: 青い傘
第四章 聖女機関と聖女
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聖女機関  右の道 中編

「…お前たちが黒幕か」


 勇者の怒気のこもった言葉は確かな迫力はあったが、それを気にする様子はない。それどころか歓迎しているような節さえ感じられる。


「その力強さを持つ勇者。そして、聖女様本人。この二人が同時に私たちのもとに訪れた。あぁ、待ちくたびれましたわぁ」


「君たちには我らが聖女機関の礎になってもらいたいわけだ。貴重なサンプルとしてね」


 そう言った黒幕の彼らは、首筋に注射を刺す。


「な、何を」


「勇者様に勝てるなどと甘い考えなどしていません。ただ、あなた方は私たちを蹂躙する。それだけでいい。それだけで私たちの悲願は成就させることが出来る。そういうこと」


「そう。だから、異形と化した私たちを酷く、惨く、情けなく殺して終わりにしてくださいまし」


「……」


 異形。確かにそうとも言えるだろう。二足歩行であること。頭部が存在すること。両手があること。それを加味しても、とても人間とはいいがたい。そして、魔族とも似ても似つかないほどの異様さ。


 魔族が他の種族と違うのは角が生えていることである。魔族は生まれながら魔力を貯め込むための機関として角を持つ。


 だが、その角を持つわけでもない目の前の存在は腕から足からも角か棘が生えている。だけでなく、口の部分が大きく開いたり、腕や足に目が埋め込まれている。他にも長い尻尾が生えて居る。


「なにか企んでいるみたいんですね」


「考えても仕方がない。やるしかないでしょ?」


「あーしは援護しますね」


 なにか裏があることは分かっていても、襲ってくるやつらに手加減は出来そうにもない。特に、こちらは正面切って戦闘できるのは勇者ぐらいで、ロイも聖女も戦力としては数えにくい。


 だが、完全に異形とした彼らは言語も解さないほどに知能が低下しているのか、行動も単調で、正面切って戦闘を仕掛けてきたのはまだマシであった。三人で襲い掛かられても勇者の額にはまだ汗一つ浮かんでいない。数の有利が生かせていない状態の彼らは正しく劣勢である。


 腕も足も一本一本斬り飛ばされ、時には結界によって封じ込まれる。その姿はまさしく勇者と異形であったが、さらに劣勢に追い込む様子は正義と悪がまるで逆転しているようにも見える。


「…………」


 そして、一人が地に伏し、もう一人も壁に激突し、身動き一つしない。最後に残ったのは尻尾の生えた個体。じっと勇者を見つめ、倒れた仲間を見やり、そして不気味に歯を見せるようにして口を大きく開いた。


 壁の個体にすばやく駆け出しその尾を仲間であった体に刺すようにして、吸い込んでいく。あまりの常識外れの光景は勇者の行動を阻害した。動くことも出来ないうちに九州は済み、今まで負わしたはずのケガが完全に回復している。それだけではない。動けなかった仲間の最大の特徴であった羽が生えているのだ。


「吸収して、再生した?」


 そして今までよりもより早く、より鋭い攻撃が勇者を襲う。


 反応はした。反応は出来た。振るわれた鋭い爪から身を守るように割り込んだ聖剣。お陰で傷一つ追うことはなかったが、壁際に吹き飛ぶ。衝撃だけは消せていなかった。


「ゆ、勇者?」


 今まで圧倒していただけに聖女の視線は勇者に向けられた。そして、それはロイも同様である。片方でも異形から目を離していなかったのならば、これ以上の強化は避けられていたのかもしれない。


「せ、聖女様!」


 最初に異形に目を向けたのはロイであった。それもちょうど、もう一人の戦闘不能体にその尾を刺し、吸収しているそのタイミング。


 声をかけられ、慌てて振り向いた聖女の対処自体は完璧であった。吸っている尻尾を囲うように結界を巡らせ、結界を閉じる。尻尾は千切れ、これ以上の吸収は出来ないであろう。


 それでも、異形の姿は生まれ変わっており、足にも手にも眼球が増えている。


「これはまずいかも?」


 壁への激突から復帰した勇者の一言はそれに尽きた。

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