聖女機関 左の道 中編
目の前の人物は、頭に生えたその二本の角と健康そうには見えない肌の色を除けば、人族である間違えてしまうほどに堂々とそこに存在していた。ただ、その異質な二点だけが人ではなく、悪魔だということを告げていた。
「おっと、申し遅れました。わたくし、魔序列第二位、バロンと申します。以後お見知りおきを」
きっちりと着こまれたスーツに立派な靴はまさに上流階級そのもので、今の挨拶や佇まいからも相当の力を持った魔族だというのが伺い知れた。
「序列二位ということは単純に考えるなら、二番目に強いってことだろう。全く運が悪いというべきか…」
「いえいえ、わたくしは序列こそ二位ですが純粋な戦闘力で言えば、もう少し下ですよ?そうですね…あなた方の倒したレヴィアよりも少し強いくらいですかね」
「バケモノじゃないか」
「そんなに強かったのですか?」
「うむ、あの時は色々とタイミングや相性が良かったからな」
とはいえだ。レオナンドは勝機がないわけではなさそうだと目の前の悪魔に対してそんな感想を抱いていた。その理由はバロンと名乗る魔族に巻き付いている無数の鎖があったからである。
バロンは意に介さない素振りはしているが、その視線が時々、鎖に注がれているのには気づいていた。それも王城での暮らしが功を奏したともいえるのかもしれない。
「さて、わたくしを呼び出すきっかけはあなた方ではないのでしょうが、召喚してしまったのはあなた方。死を以ってその代償を払ってもらいましょうか」
内包する魔力の発散。それだけで実力の差を嫌にでも分からされる。しかし、巻き付いている鎖にはヒビ一つ入っていない。
「おい、ミーシャ。あの鎖だが…」
「………間違いない。魔力封じと行動阻害、その他いろいろの妨害要素の固まり。普通なら立っていられないほどの拘束力。多分、聖女機関がこいつを呼び出そうとして放置されていたところを私の魔力で反応させちゃったらしい」
「久しぶりの戦闘ですので加減を間違えてしまったら申し訳ございませんね」
後ろに組んでいた両手を目の前にかざす。それだけで火の玉が飛んでくる。
もちろん、それくらいであれば躱すまでもない。正面から叩き斬る。いくつか斬り損ねたのがしっかりと後ろも対処出来ているようだ。
「ふむふむ。これくらいの威力では全然効かないようで。それではこれはどうでしょう?」
火の玉だけでない。氷や水、岩などの様々な魔法が先ほどよりも大きな規模でやってくる。だが、それでもレヴィアの攻撃に比べれば精度も威力も低い。だから、まだ余裕を持って対処できる。
「なら、これは?」
先までは物質的な魔法。目に見える攻撃。しかし、彼が繰り出してきたのは目に見えない魔法であった。それは風や光、闇の概念を纏った魔法球。
「………追いついた」
レオナンドには見えない。それは確かだった。しかし、魔族と対峙するはレオナンドだけでない。彼らはパーティだ。魔法戦であれば、ミーシャの本分であった。
バロンが生み出す魔法に対しての最適解を次々と生み出し、無効化をしていく。
「よし、俺は切り込む。援護は頼んだ」
動こうともしないバロンに彼は一直線に切り込んでいった。




