聖女機関 左の道 前編
「よかったんですか?」
分かれた先で最初に口を開いたのはアイリスであった。右に進みたい勇者の反対方向である左に進む彼女らは一つ目の部屋を軽く探索中であった。
「まぁ、良いんだろう。それにああいうのには関わりたくない」
やや遠い目をするレオナンドは「ここにも何もなさそうだ」と部屋を出れば、その話も続くことはない。代わりにと他の話題を振る。
「しかし、ミリーナは何で聖騎士になったんだ?こう言っては何だが、いくら教会でも女性の居心地は良くないだろう」
「私はひとめぼれですね。今の聖女様もそうですが今の副聖騎士長のジャンヌ様の凛々しさといったら……あぁ鼻血出そう」
せっかくの話題転換もあまり効果がなかった。放っておくと布教活動じみた行動をとりそうだったので、さらに話題転換を試みる。
「そう言えばアイリスはここについては何も知らないのか」
「自分の過去はあまり話したがらないのに、人のは聞くんですね?」
少々、話の振り方が下手なレオナンドであったが、アイリスも別に気にしていないのか話を続けることにしたようだ。
「私が聖女機関の生まれというのはもう話しましたよね?それにここでの生活の苦しさも。まぁ、そこはどこかの農村でした。名前はおろか、場所ももう忘れてしまいました。だから、ここは知りません」
「先に進むしか道はなさそうだな」
そう言いながら開いた次の扉は今までの簡素な部屋に比べると、異質ともいえるそんな空間であった。
今までの部屋は居住空間味があった。最低限の家具の場合が多いとはいえ、人が住んでいるであろう雰囲気を纏っていた。
しかし、この部屋に立ちこむのはおどろおどろした空気。家具も何も置かれていない。何よりも暗めの壁紙に描かれた幾何学模様やらが異彩を放っていた。
「………これは魔法がかかっているっぽい」
どんな魔法がかかっているか。ミーシャは解明しようと魔術の行使を試みる。しかし、魔術の行使のための魔力を込めた瞬間に壁の模様が光を放ち始める。
「………やばい。罠だった」
「ちっ。襲撃に備えろ」
舌打ちをしながら、辺りを注意深く見渡す。光を放つ壁以外にも床に新たな模様が表れているのが分かる。何が起きても対応できるように先頭に立つ。
レオナンドとしては部屋の外に出ることも考えていたが、危険を目視できないことを嫌い、部屋の扉は閉めることなく、ゆっくりと廊下の方へと後退する。
それは一瞬の出来事であった。視界を染め尽くすように黒い光が辺りを覆いつくした。黒いのか白いのか脳も眼も混乱している中で分かった一つの事実はその黒い光が形作る何かがあるということだ。
まるで人型のように収束した光は、やがて実物となる。
「フフフ。人間とは愚かですねぇ」
そこには、二本の角を持ったまさしく悪魔とも言えよう姿があった。




