最前線 ミクス
最前線は勇者たちが思っていたよりも平和であった。物々しい街の壁は境界線を引くようにまっすぐに建てられていたが、街の中も外も慌てただしい様子はなく、のんびりした様子であった。それに街の規模も大きく、最前線であることを分からせるのはその壁くらいのものであった。
「ここは聖女様もおられるから心配することはないんですよ」
そこに住む人に軽く聞き込みをしたが、大体がこう返す。それに魔族が向こうから貴重な素材としてやってくるので、下手な街よりも経済状況もいいと言う。
「しかし、歪な街だな」
それがこの街の正直なレオナンドの感想であった。
「なにが?」
「聖女の安全の担保として十分に機能しているのは分かっているがそれにしても緊張感がなさすぎる。もしものことがあったときにすぐに崩れてもおかしくはない」
そう言っておきながら、レオナンドは自分でも大きな矛盾を抱えていることに気づく。
「まぁ、それは王都に住む人間も一緒か。たまたま、大事になってないだけか」
「うーん。いんじゃない?確かに心配だけど、陰気な雰囲気なのもよくないしね」
「まぁ、そうですね。今代の聖女様の守りは鉄壁とも言いますからね。逆に言えば、頼り切りなのが少々怖いですけれども」
「とにかく、聖女様に会ってみようよ」
聖女様がいるとされているのは、ここの一番大きい施設。町などで言えば町役場、先の水の都では教会といった大きな建物。
ここは街でもなければ国でもない。拠点である。長年、膠着状態が続いている防衛線。もはや街と呼んでも差し支えないほどの規模ではあるが、王国だけの兵がいるわけでもなく、他国の兵もいるので多国籍拠点とも言えるだろうか。
だが、名称はある。ミクスという名前がここの名前である。やや安直ではあるが、多くの国が混ざり合った連合軍という意味からとっているらしい。
そして、その連合本部が目の前の建物というわけだ。こちらには正式な名前がない。ただ本部とそう呼ばれることが多い。
正面の入り口を開けて入ると、大きな広間みたいになっていた。その中に椅子が綺麗な間隔で複数置かれており、何人かが腰を下ろしていた。その大多数の向く方向に受付だと分かる場所がある。そちらにも数人が列を作っていたが、窓口も多いので、あまり待つこともないだろう。
代表して、勇者とレオナンドが受付に並んで数分。彼らの順番が来る。
「僕、勇者。聖女様に会いたいんだけど」
「おまっ、はぁー、まぁいいか。というわけだ。恐らく教会の方から話が伝わっていると思うのだが」
「勇者様御一行ですね。お話は聞いております。聖女様のいらっしゃる部屋に案内いたしますので少々お待ちください」
さらに数分待つと、先ほどの受付嬢が座っている勇者たちに手招きをして、奥の方へと誘う。通路の先の階段を上がる。さらに進んだ一番奥の部屋が聖女の部屋だという。
コンコンとノックをして、中に入る。そこには煎餅を片手にソファに横になる聖女の姿があった。




