水の都の戦い 男二人 後編
その表情に勇者たちは何か行動を起こす気にはなれなかった。というよりはその後のレヴィアの行動に目を奪われたからだろうか。
首と胴体が分かれた海蛇の二体を水柱によって器用に回収し、海へと葬るように丁寧に沈める。
「お待たせしたな。妾が眷属にふさわしい最期であった。貴様らのせいとは言わん。妾が貴様らの力を侮っていたのが悪い。魔王様にあんなことを提言しておきながらな。本当に愚かよな」
眼にはさっきまでとは打って変わり、怒りの表情が分かるほどに見開かれていた。
「だから、悪く思うなよ。これは貴様らに対する怒りではない。妾自身に対する怒りだ。まぁ、八つ当たりになるかもしれないが」
と同時に水柱が再び現れる。さらに数が増えている。
「おいおい。怒りの矛先間違えているだろう」
「まぁどちらにせよ、超えるべき壁だもの。やるしかないよ」
ため息をつきながらもそれには同意したレオナンドが握る魔剣を構えなおしたとき、レヴィアの攻撃は始まった。
精度も速さも数も数段上がった攻撃に対して、勇者の方はまだ余裕を持って回避をしているわけだが、レオナンドにとっては辛いものであったといえよう。
勇者は聖剣を使って、水柱であっても斬ることが出来ている。その一方でレオナンドは『未来視の魔眼』までを行使しても切り傷が生まれていた。
「これはあまり使いたくなかったんだがな。おい、こちらからも行くぞ」
「待ってましたよってね」
このままではジリ貧だと感じたレオナンドを主軸に攻勢に出る。
レオナンドの得物は魔剣。魔剣は適切な魔力を流すことでその魔剣が持つ固有能力を発動出来たりする逸品である。彼が現在握っている魔剣は、赤の魔剣。色もそうだが、名前自体が赤の魔剣。魔力を込めることで、剣身から柄までが赤く染まる。込めた魔力が多ければ多いほど赤みを増す。
淡い赤から、濃い赤に徐々に水柱を回避しながら変化させていく。それに伴い、水柱から蒸気が立ち始める。魔剣の剣身が熱を持ち始めた影響である。
だが、レヴィアももちろん対抗する。水柱に魔力を多く込めることと水量を増やす。速さこそ落ちこそはしたがさらに数を増やし、全方位からの攻撃で避ける隙も与えない。
「レオ!!」
咄嗟に心配した声が勇者の口からこぼれ出る。レオナンドに攻撃が集中したことで勇者への攻撃は少なかったとはいえ、レヴィアの本気の攻撃だ。助けに回る余力まではない。
「大丈夫だ。心配するまでもない。それよりもお前は為すべきことを為せ」
まるで水に包まれるように攻撃を受けたはずのレオナンドのいた場所が海の濁った色から赤く発光し、爆発をも起こした。当の本人は爆発の中心にいたせいで、皮膚はただれ、多くの火傷が見て取れるが、死んでもおかしくない状況で生きているのも魔剣の影響であろう。
しかしそれでも、肩で息をしており、大分限界なのは、誰の目にも間違いはない。
そして、レヴィアがそれを見のがすわけもない。畳みかけるようにして、水蛇がレオナンドに牙を向けたとき、絶体絶命の危機ともいえるそのタイミング。
「こ、これは」
レオナンドの負っていた傷が治り、体力も回復した。彼自身にそこまでの治癒能力はない。それが示すのは一つの事実。
「いいタイミングだねぇ」
こんな場所まで回復魔法をかけられる人など、彼女以外には存在しないだろう。アイリスだ。
全快したレオナンドは次の攻撃を寸前で躱す。勇者も躱せることが分かれば、攻撃に移る。もちろん勇者の体力も回復しているのだから、その動きは素早かった。
さらにレヴィアの意識がレオナンドに大きく割いていたことが重なり、勇者の一撃がレヴィアのほほに傷をつける。
「くっ。どうなっている」
レヴィアは彼らがなぜ回復したのかを知らない。一つだけわかっているのは、このままいけばこちらの攻撃のダメ―ジは回復され、いずれは負けてしまうだろうということだった。
「妾のとっておきじゃ」
彼女がそういうとともに地響きのような音が聞こえる。
『タイダルウェイブ』
その音は地響きではない。水がたくさん流れる音。いや、水の勢いが強すぎて地面にまで影響を与えているというべきか。
大きな波が水の都を呑み込めてしまうほどの波が勇者たちに襲い掛かってきていた。
「俺がやる」
レオナンドの魔剣が赤く、紅く、朱く、染まっていく。
既に波は港の眼前に到達しかけていた。元凶のレヴィアも波の後ろ側に隠れ、本体を叩くという手段はとうにない。
「すべてを燃やし尽くす炎と成れ。『炎王の一撃』」
跳躍したレオナンドが繰り出すのは極限までに熱せられた魔剣の一閃。横一文字の一撃は波を両断し、液体の形をとることを許さない。斬ったところから、侵食するように水の形状であることに待ったをかける。
そしてほぼ同時に跳躍した勇者はレオナンドが作った契機を逃さない。斬られた波の合間からレヴィアの首に渾身の一撃をお見舞いした。
「見事だ」
ただ、その一言と同時に崩れ落ちた身体は海の下に沈んでいく。彼女もまた眷属と同じように海を墓場としてその一生を終えた。
「ふぅー。強かった」
「あぁ、本当にな。お陰様でまた一本犠牲にしてしまった」
レオナンドの手には先ほどまでの赤い魔剣はなかった。代わりに黒く炭化した一振りの剣だったものに変わっていて、形もどんどん崩れている。そこに何も残らなくなるのも時間の問題だろう。
「さて、頭が討たれたんだ。他の魔族も撤退するだろう…」
レオナンドは倒れた。




