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行き当たりばったり勇者譚  作者: 青い傘
第三章 水の都 ウィンデル
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水の都の戦い アイリス後編

 あまりに大きい怪物。見た目だけで言えば、一軒家ほどの大きさの鬼がそこにはいた。一振りで人間を戦闘不能に陥らせるほどの棍棒を持ち、それを振り回している。当たれば一たまりもないの明らかで実際に勇気ある騎士たちが吹き飛ばされている。


「こればっかりは私が出るしかありませんか」


 戦闘職ではないアイリスではあるが、決して戦闘行為が出来ないわけではない。ただ、その攻撃力が他の三人と比べると著しく、低いというだけだ。


「皆さんは下がってください。この者の相手は私が」


「いや、しかし、そういうわけには」


「あなたたちは教会の守りを固めてほしいのです。私も目の前の相手で精一杯ですので」


 そう言って、『プロテクション』、鬼と自分を囲うように聖なる守りの魔法を唱える。普通は以前、ドラゴンの炎を防いだように使う。しかし、今回の使用はまるで違う。戦う二人を周りから見えないように利用した。それはプロテクションの色を真っ白にするという細工までしていた。


 それにかまうことなく、鬼の攻撃は繰り出される。振り下ろされるだけの攻撃にアイリスは微動だにしない。だがその攻撃はすぐ隣の地面をクレーターにしただけに済む。


 この攻撃がアイリスを頭から潰さなかったのにはもちろん理由がある。一つは、鬼が舐めていたことである。鬼の脳内ではどのようにして目の前の女で遊ぶか、いたぶるかしか考えてはいなかった。そこでまずは腕を一本ずつつぶすことにしたわけだ。


 それに二つ目の理由がアイリスの表情に恐怖を覚えたからである。自分よりも圧倒的に大きく、強いであろう相手に対して、あろうことか笑みを浮かべていた、その事実。


 この二つの理由が攻撃を外すことになった経緯である。


 だが、その一撃が外れたことは事実でその事実は鬼の怒りを買った。もう遊びは終わりだと言わんばかりの容赦ない棍棒の振り下ろし。


 その攻撃こそ、鬼にとっての真骨頂。その体躯を活かし力の限りを振るう。シンプルで単純な攻撃でありながら、効果的な一撃。


 今度こそ、アイリスにその致死の一撃が繰り出されるが、当の本人は驚く様子も、慌てた様子もない。


 ただ、ただただ、笑顔でその場に立っていただけである。


 だから当然棍棒の下敷きになることは間違いない。砂埃に交じって鮮やかな赤い血が飛び散り、即死であろう。鬼からしても十分な手ごたえを感じた。それは確実に命を屠ったときの感触であった。


 だが、アイリスは砂埃が晴れた後にはまるで無傷であった。一つ違うことと言えば、その華奢な肉体が惜しみなくさらけ出されていたことだろうか。身を包んでいた修道服は破れ去り、生まれたての姿でままでいながら、なおも笑顔のままであった。


 鬼は不思議そうな表情で小さくうなり声を上げた後、ならばすべてを壊し尽くせばいいの精神なのだろう。次の打撃は熾烈であった。上から下への攻撃をただただ繰り返す。肉片の一つも残す気のない連撃。


「いくら無限に再生できるとはいえ、痛みを感じないではないんですが……。この痛み返しますね?」


 疲れから連撃が止むとやはり無傷のアイリス。変わらない笑顔でそう話しかけてくる。


『リターン』


 その呟くように放たれた言葉は呪詛のように鬼にまとわりつく。


 次の瞬間には鬼の体のあちこちに傷が付く。緑色の血も大量にあふれ出す。腕は裂け、足は千切れ、吐血に、身体に穴。おぞましいほどの痛みが鬼を襲う。まさに不幸の絶頂。


 鬼の唯一幸せだったのはその痛みに耐えられず、意識を失い、命を落としたことであろう。


「はぁ、これだから戦いたくはなかったのですが……仕方ありませんね」


 彼女は肩をすくめながらもそうこぼすと、どこから取り出したかいつもの修道服を着用する。


 プロテクションを解除し、現れたのはぼろぼろになった鬼の遺体と我らが聖女であった。

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