勇者、行方不明
その日はとても晴れた日で勇者の門出の時としては最良だったに違いない。しかし、当の勇者と言えば出発のパレードの3時間前から姿を消していた。無論、勇者だけでなく悪い噂を聞かない、あの第三王子も含めた勇者御一行がだ。
「あやつらはどこへ行った」
「そ、それが朝食をとられた後自室に戻られたのを確認して以降、姿を見ていないそうです」
少し恰幅が良く、立派な髭を蓄えた老人。この国のトップである国王が尋ねるは、王城の警備を務める名前も知らない一般兵。
「できるだけに騒ぎにならないように探せ」
国王は飲んでいたコーヒーを飲み干しながら、兵士に命令をする。命令を受けた兵士は急ぐようにして、その部屋を後にする。
一方で勇者一行は王都の中でもいくつか存在するスラムに足を運んでいた。
「本当は全員この暮らしから救ってあげたいのだけど」
今作の主人公。茶色の髪に青というべきか緑というべきか悩む目。その身長は成人男性の平均に届かないくらいだろう。とても勇者とは言えないような恰好をしてはいるがこのスラムにおいてはまだマシの方だろう。
「それは無理だな。大体お前が今やろうとしていることも正しいことではあるが最善ではない」
「でも、最善を尽くすことをしない人もいるからしょうがないよね?」
「耳が痛い話だな。だからこそ、お前の話に乗ったんだが」
勇者と会話をしているのがこの国の第三王子―――レオナンド・トルト・ウィザールである。王位継承権第4位を持つ王子だが、今回の勇者への同行につき王位継承権を放棄した男。理由は勇者討伐の任により発言権が強くなることを懸念してのことらしいが本人がいうには「下らない勢力争いなどには興味ない」とのこと。
勇者よりもやや高いレオナンドはこの国の王族によくいる金髪の髪に赤い瞳を持っている。しかし、その両目の瞳は同じ赤でも少しの違いがみられる。その理由は、彼の持つ目は魔眼であり違う能力を持つ異なる魔眼であるからである。
「私も賛成です。困っている人は助けるべきですし、悪い人は倒すべきです」
そこに賛成の意見を入れてくるのは、勇者一行の回復役を一挙に務める僧侶―――アイリス・フィルフェール。今はまだ、僧侶という役職ではあるが、ある出来事をきっかけにして聖女とまで呼ばれるようになる。
白の修道服を着こんでおり、夏でも冬でもその恰好なので、いろいろと不便じゃないかと聞くと、素材は異なるものを使用しているとのこと。金色の髪ではあるがレオナンドよりも薄い金で水色の目をしている。身長は大きくもなく、小さくもないが隣にいる彼女に比べると、背筋が伸びているからか大きく見える。
アイリスと同じくらいのはずの身長を持つ彼女はミーシャ・ミドガルズという。あまり人前が得意ではないのか、いつもオドオドしている印象なので、そのせいもあって背が小さく見えるのだろう。藍色の髪だが少し乱雑な髪形の上、前髪が長いため普段目が見えることはない。
自分から何かをしゃべるということもあまり多くなく、大体はついていくことが多い彼女ではあるが、全属性の魔法に適性をもち、魔法使いの一族の中でも随一の魔法使いである。
そんな彼女を知っている勇者たちは、重要なことでなければ彼女に問いかけない。そのため、彼女が付いてくるのを時折確認しながら、スラム街の奥へと足を進めたのであった。