魔法の店
お察しの通り、レオナンドは大きなため息をついていた。
最初こそ、自分で運転していた勇者だったが気づけば、レオナンドが運転する羽目になっていた。
「はぁ~、分かっていたとはいえ、交代が早すぎるだろう」
「いや~、僕には向いてないね。難しいや。ほら、僕の本分は魔王の討伐だからさ。でもいい経験になったよ」
分岐路で右に曲がる操舵をしながら、勇者に文句を言うレオナンドだったが、反省するそぶりも見せずに笑っている。
「それで今はどこに向かっているのですか?」
「あぁ。まずは宿に……」
と、次の目的地を決めていたレオナンドに意見を挟んだのは、ミーシャであった。
「………その前に魔法の店」
「だが、いい宿は早めに埋まってしまうぞ。ただでさえ、観光客や商売人も多い。それに一応昼はもう回っているんだぞ?」
「………店巡りは荷物が増える。それを宿における。それにこの水路は一方通行。過ぎたところには戻れない」
と、指を指した先にはいかにもな雰囲気を醸し出している店。帽子の形をした看板で少し古臭そうな不気味な店がそこにはあった。
「まぁ、いいじゃないですか。市井でのお買い物。私も楽しみでしたし。最悪、宿が見つからなかったら、教会本部に泊めてもらえばいいじゃないですか。どうせ、行くつもりでしたし」
アイリスからも援護射撃が飛ばされ、その意見らに反対するには自分の意見が弱いことを悟ったレオナンドはため息をつきながらも、入口付近に船を止める。
彼女にしては珍しく、意気揚々と降りたミーシャが先頭で店に入ると、一同は目を見開くことになる。
「これは……驚いたな」
驚くのも当然で、見た目では精々が一部屋しか入らなそうな家屋であったが、大きな店ほどの広さであったのだ。さらに棚にも所狭しと商品は並べられている。一体どれだけの商品があるのだろうか。
「………むふぅ」
やや変な笑い声が出たが、ミーシャが魔法にただならぬ興味を持っていることは何も今に始まったことではない。気づくと棚の向こうに消えている。
「なんだ、これは?」
近くにあった怪しげな瓶を手に取りながら、レオナンドは効能の書いていない薬瓶のようなものを見つめる。裏や底も覗いてみるが特に書かれている様子はない。
「それは媚薬ですわよ」
悪戦苦闘していたのを見られたのか声を掛けられる。ミーシャと同じような帽子をかぶりながらもどことなく明るく見えるのは帽子のかぶり方の問題なのか、単にそういう人なのか。
彼女も同じように暗めの服を着ていて、これなのでやはり本人の印象の問題なのだろう。
それはそれとして、瓶の中身は媚薬であった。なんとも言えない空気で辺りが静まるが沈黙を破ったのもまた彼女であった。
「悪用されたときに被害の大きくなりそうな魔道具などには、ラベルを付けていないのです」
ニコニコと告げる彼女は他の瓶も手に取りながら、商品の説明を続ける。
「こっちは爆発する水薬で、こちらが氷の魔法を封じ込んだ瓶。どちらも割ることで効果を発揮致します」
薬瓶の多くある棚だけでも多くの種類があるのは見て取れた。色とりどりの薬瓶がそれをよく物語っている。しかし、これはもう一つの事実も自ずと分かってしまう。
「あいつ、戻らないぞ」
そう。これほどまでの膨大な量の魔法の道具たちを前にして、ミーシャが一時間やそこらで買い物を終えるわけがない。
「はぁ、しょうがあるまい。幸い、この辺は歩いて行けるところも多い。各自買い物をして、ここに集まろう。教会の方にお邪魔することにしよう。連絡が出来るようなら頼む」
こうして、好きな場所で買い物を行うことになった彼らだったがその買い物を終えて、日が暮れても買い物が終わりそうになかったので、ミーシャが引っ張られるようにして店を後にしたのは言うまでもない。




