水の都まで
各々の思い浮かべた部屋を実現させるという意味の分からない魔法でまるで自分の家に戻ってきたように感じた者、住んだことのないイメージだけの部屋を望んだ者。それぞれが満足した次の日。
「それじゃ~あね。また会えることがあれば嬉しいね」
屈託のない笑顔に見送られた勇者たちは集落に戻り、少年の家については幽霊はいなかったと全てを説明することはなく、ぼやかした言い方をした。それでも集落の人たちは少し安心したようだった。
お礼も兼ねてか、水の都方面に商いをしに行くという集落のとりまとめ役が途中まで送ってくれるとのことだったので、彼らは厚意に甘えることにした。ただ、二台で行くらしく、片方の御者をお願いされる。体よく利用された感も否めないところではあるが、勇者がサラッと請け負ってしまったのだからしょうがない。
「で、誰が御者を出来るんだ?」
「え、僕は出来ないよ」
同じく出来ない女性二人。レオナンドも馬に乗るだけなら出来るが御者となれば別だ。商人が先に出発してしまった以上、どうにかしないことには始まらず、結局、後始末を請け負うのがレオナンドであった。
「事故っても文句を言うなよ」
御者台に乗り込み、記憶を頼りに手綱を握る。馬が一匹だったのがせめてもの幸運だろうか。ただし、ため息は止まらない。馬車の中で談笑している勇者たちにも苛立ちが止まらない。
「それにしても、あの子が魔物らしいってのが一番の収穫だったね」
あの子―――先の家の少年の正体である。夕飯もご馳走になったときに、彼が言い出したことだった。驚いた勇者たちを見て満足したのか、ニッコニコの笑顔で続きを話し始めたものだった。
「魔物って勇者を見ると直感的に分かるんですね」
「ね、だから、襲われにくかったのかな?」
「………テレパシーの応用?」
話している内容が内容なだけにレオナンドもあまり強く言えない。
昨日のことを軽くまとめるのであれば、少年は魔物に分類されるらしいということ。魔物は魔王の復活について察知できるということ。魔物が勇者を見ると、勇者だと看破できてしまうということ。
少年が勇者たちに危害を加えなかったのは別に魔物の全部が全部、勇者の敵になるわけではないということだという。魔王サイドからすれば、敵である勇者だが、別に魔物からしてみれば、魔王に服従を誓っているわけではない。それに魔物の考え方もそれぞれで友好的な魔物もいるらしい。まぁ、少年や竜もそうなのだろう。
後ろの会話を聞きながらも馬の制御に集中する。道は整備されているとはいえ、草を引き抜き、大きな石などを取りのぞく。その上にくぼみなどに土を加え、平らな道にする程度の整備。
馬はともかく、車輪が引っかかり、それに馬が動揺するなんてこと何としても避けたい。出来るだけ、道に目を配りたいが、地面だけを見ているわけにもいかない。危険は下だけではなく、側面にもある。野党が襲ってくる可能性もあれば、空から竜が下りてくるかもしれない。考えればきりのないことではあるので、レオナンドは下と横を集中してよく見る。
気づけば、商人が指定していた場所に着いてしまったのだから、全く集中力というのは恐ろしい。
そこで商人とはおさらば。あとは歩いて水の都へと向かう。精々、一時間も歩けば、街の外壁も見えてくる。
それから、入口に着いたのは一時間を優に過ぎた頃であった。




