聖剣と封印
しかし、結論から言えば、その覚悟は無駄になる。
ケガを負わせた竜が少しずつ大人しくなる雰囲気を醸し出していた。視線の先には新たに現れた竜がいて、何か言いたげだった。いや、確かに竜の口からは音が出ている。先ほどまでの人語ではなく、竜語を話しているのであろうか。二匹の竜はまるで会話をしているようだった。
さらに揺れが収まっていく。それに伴い、竜の怒りを体現したような湯気や赤い鱗なども落ち着いていく。それ以上に元気もなくなっていく。
「スマナカッタ」
会話を終えたのかこちらに向き合って、声をかけてくる。
竜の戦闘態勢が完全に解除されたことを受け、勇者たちの固ばった空気もようやく緩む。戦闘の意思がないのならと、アイリスは竜に近づく。
『ヒール』
彼女の手にかかれば、腕の欠損くらいであれば、朝飯前と言えるほどに簡単な作業であった。竜という治療したことのない生き物であったこと、治療する部分が大きかったことを加味したとしても、あまりに簡単にやってのけたことに流石の竜であっても驚きを隠せないのか、目を一杯に開いている。
「助カッタ。腕ガ良イノダナ」
「いえいえ、元と言えば、こちらが斬り飛ばしてしまったものですから」
いくら竜でも腕の再生には大きな時間をかける必要があるらしく、以前、指を一本落とされた時は一年かけて直したという。とはいえ長命な竜からすれば、大した時間ではないのだろう。
それからの竜の話を整理すると、奥からのもう一匹の竜は奥さんだという。まぁ、簡単に言えば怒られたらしい。腕を斬られてキレた結果、山に影響を与え、噴火をさせてしまう一歩手前で止めてもらえたのは夫である彼も不本意だったとのこと。
何代か前の王との約束があるらしいが詳しくは聞くことが出来なかった。今しがたのことを妻に掘り返されたくないのが分かる態度だった。女性が強いのはどの種族も変わらないのかもしれないと、一行は思いながら、一番大事な疑問を問いかける。
答えたのは奥さんの方だったが、一行には聞き取れない。分かるのはまたもバツが悪そうな顔をする雄の竜がいるということだけであった。
「……勇者ノ証ハ持ッテイルカ」
あぁ、それならと出発する前にもらったペンダントを首から取り出す。銀で出来たチェーンに碧の指輪を通しただけの簡素なペンダント。
ペンダントから指輪を取り外し、指にはめる。
後は最初と同じように引き抜くだけ。始めの固さはどこへ行ったのやらと簡単に聖剣が抜ける。
「あ、抜けた」
以前の約束の際、竜の方に抜き方は伝えてあったが、夫の方は完全に忘れていたようだった。もっとも、人類の方も雑な説明であったからして、人のことは言えないのではあるが。
何がともあれ、聖剣の封印を解いた一行はメッカ火山を後にする。
ちなみに山から下りる際には、竜夫婦の背中にのっけてもらったが、その乗り心地には賛否両論あったという。




