第78話 空蝉:マロウちゃん強化キャンプ③、からの化け物
「...どうだ、追手は来ていないか?」
「ああ。だがこの辺り騎士団の巡回が定期的にあるらしい。早いとこ移動するのがいいだろ。」
「チッ、なんでこんな辺鄙な森に巡回が多いんだよ...。」
「急ごうぜ。」
森の中を進む賞金首の男達。
隣国ローザスから逃げて来たようだ。
男達は焦っていた。
騎士団を返り討ちにしてもしつこく追われる日々に、限界が近いのを理解しているが故に隣国へ逃げる賭けに出たのだ。
男達は他の冒険者や規模の小さい村の襲撃を繰り返していた。彼らは自分達より弱い奴らから搾取するのを何一つ悪い事だなんて思っていない。
絵に描いたような悪党だ。
しかし、ここ最近になって状況は変わる。
次々と小規模から大規模の盗賊や犯罪集団が捕らえられ....いや、“蹂躙”されていたのだ。
生き残りなんてほんの僅か、
それか人質か捕虜くらいだ。
曰く、
[血濡れた人形]を見たと。
冷たい顔から見える表情は笑顔。
次々と平気で盗賊を殺していく姿をみた証言者は今もなお恐怖で震えている。
血濡れた人形の存在は冒険者や騎士団の間で度々噂になっている。
当時王国最大勢力のダマキ盗賊団をたった一人で蹂躙したという話が大きく、他の盗賊団だけでなく冒険者の間で恐れられている。
騎士団、それも一部の人間は彼女...血濡れた人形に接触しており、その際騎士の一人が暴走し、怒りを買いかけ危うく部隊が壊滅するところだったのだとか。
これにより指名手配を受ける賞金首達は自首をしたりどこか遠くへ逃げ隠居をするなど報告が上がっている。
彼らもそうだ。
国は違えど、いつどこで襲われるかわからない。自分達は賞金首としてはかなり悪名が知れ渡っている。
賞金額も高い。
最近まで争っていた腐れ縁の盗賊団までもが無惨な遺体で見つかった。
いつ殺されるかわからない、
そんな曖昧かつ強大な恐怖が彼らの心の奥底にあったのだ。
そうして彼らはただ逃げる事に頭がいっぱいになっていた。
[消音魔法]
「ぶえっくしゅんっ。」
「サラ、風邪?」
「回路の拡張で嗅覚をもっと復元したらくしゃみまで戻ったんだよな...でも風邪じゃないよ。」
「サフラさん、いた!」
「お。アイツらだ...。」
さっき確認した男達だ!
「では...。」
「うん、いってらっしゃい。」
マロウはマントを被り、すり抜ける夜風の如く静かに駆ける。
...私は真っ暗な森を進む。
「なぁ、大丈夫だよな。マール王国の騎士ってかなり強いって聞いたんだが...。」
「しっ、ここからはあまり声を出すな。」
「...わかった。」
ガサッ!
「っ!!?」
男達は武器を構える。
その視線の先には、
「...?」
狐だ。
「...なんだ、驚かせやがって。」
「武器をしまえ、間違っても殺すなよ。痕跡になっちまう。」
「わかってるよ。」
「...。」
「ん?どうした...。」
ドサッ
「...っ!?」
男の背中にはボルトが刺さっていた。
倒れた男は麻痺を起こしていた。
「おい、しっかりし...、」
「よせ!」
「っ...。」
駆け寄った男にもボルトが刺さる。
その男も突然倒れたのだ。
男達は周囲を警戒し始める。
「探知魔法[サーチ・マジックパワー]!」
「[サーチ・サウンズ]!」
ガサッ
「そこか!!」
ドスッ
「ぁっ....なぜ...!?」
「ちっ!!」
木が揺れた。
でもボルトは他の方向から飛んできた。
罠だ、音で視線を誘導された。
ただ一人残ってしまった。
「...かしこいな、あちこちに感覚を誘導させる罠がある。さっきの狐もそうなんだろ?」
男からはただならぬ殺気が漂う。
どうやらこれ以上不意打ちは無意味な様だ。
私はサイレントセイバーを“そのまま”アイテムボックスへ収納、ナイフを持って男の前に出た。
(マロウちゃん...!?)
(待って、マロウちゃんのハンドシグナル。)
“やらせてください”
(...だってさ。)
(...転移石は手に持っててね。)
(了解。)
「ほぅ、嬢ちゃんかい...これをやったのは。」
「はい...賞金首の人ですよね。名乗るつもりはないのでこれ以上のお喋りは断ります。」
「そうかい...残念だなぁ!!」
男はナタを持って襲いかかってきた。
(あの振り上げ方、筋肉の形...フェイントはありえない、魔力も感じない完全な力任せだ。)
私は後ろに周り、
「これで終わり。」
「...!?」
男の首筋にナイフを当てた。
(マロウちゃん離れて!)
「!」
「ふん!!」
「!?」
男の首を切った瞬間、ドォンと音をあげマロウの体が吹っ飛ぶ。
(マロウちゃん!?)
(見てみろ、切った痕も無くなってるぞ!?)
(魔道具?スキル?魔法...?)
(ははーん、イベント都合で3ターン経つまで絶対殺せない仕様がこんな形になったのか、ははは...ガチふざけんな。)
「...!」
マロウちゃんは森に姿を隠す、
「...無駄だぜ、他にも特殊な能力があってだな。」
男は剣を振り上げる、
「そこだあ!!」
「!?」
「まずい!!?」
男の姿が...その場に剣だけを残して消えた!
(マロウちゃん!!!)
(まだ動かないでください!)
マロウちゃんからの短距離テレパシー。
私は慌てて確認...するとそこにはマロウちゃんの無事な姿があった。
「...瞬影が間に合ったか。」
「サラ、今の技って。」
「騙し討ちの一種だ。あれは武器を目立たせると同時に本体の気配を消す。それにより視線は武器に誘導され、その隙を狙い本体の攻撃が入る。」
大した威力じゃないがまともに食らうと怯んで1ターン動けない武法だ。
「今のを避けるか...やるじゃねぇか。」
「...これで終わらせる。」
これで多分ゲームでいうなら3ターン目だ。
これでヤツを倒せる。
「させるかよ!!」
男は一気に踏み込み迫る!!
「これ見て。」
「...!?」
マロウちゃんはマントから右腕を見せる。
しかし...そこに右腕が無かったのだ。
血は出ていない、斬った記憶もない。
幻術でなければそもそもなんの意味があるか。
その思考する瞬間が、男に隙を与えた。
ドスッ
「...!?」
男の背中にはボルト。
ボウガンで撃たれたのだ。
だがどこから?
マロウは目の前にいる。
サフラ達も撃ってない。
「...見た事無い、あんな技術。」
「もしかして...私の応用?」
「え?」
「私がアイテムボックスの一つにロストの余剰エネルギーを貯めてるのは言ったよね。いざとなれば高密度の魔力エネルギーをアイテムボックスの出入り口から直接放射して敵を倒す。あれは似た原理だ。」
「というと?」
「アイテムボックスって一つにつきの出入り口自体は増やせるんだ。でも二つ目以降は穴が小さい。腕が余裕で通れる程度の穴が二つ作れる程度のね。」
「わかった!さっきマロウちゃんがアイテムボックスに入れたボウガンを!」
「そう、ボックス使用可能範囲で二つ出入り口を開き、アイテムボックス内にあるボウガンをボックス内で撃ったんだ。引き金を引く手とボルトが通れる穴さえあれば不可視の矢が襲いかかる。マロウちゃん成長早すぎるって...!」
男は気絶し、マロウちゃんは彼らの手足を縛った。
マロウちゃん、勝利!
ーーーーーーーーーー
「よし、全員いるな?」
「ああ、ちゃんと4人だ。」
「マロウちゃんよく頑張りましたー!」
全員縛った、皆はマロウちゃんの成長を見てめっちゃ絡んでる。ああマロウちゃんの髪がヨシヨシされて乱れていく...可愛いけどその辺にしてあげてぇ...!
「...ちっ、ここまでか。」
「ああそうだ、ウチの国で勝手してくれた挙句この国にまで迷惑かけようってんだ。楽な刑罰なんて期待するなよ?」
「...我、ここにひれ伏し願う。」
「?」
あれ、今のセリフどこかで?
「我らが命の欠片を糧に目の前の害を蹂躙せよ。」
は...なんで?
Chapter.3なんだろ?
「我願う青の沈黙よ!!」
「嘘だろおい!!?」
私は転移石を割って近くにいたみんなをとにかく待避させた!あれはまずいんだって!!
「サラ、今の何!?」
「“上級悪魔召喚“だ!!私と二人はまだしも皆には相手が悪すぎる!!」
上級悪魔召喚、
Chapter.6、ストーリー後半から使用出来る特殊スキル。英霊とその悪魔どちらかしか1回のバトルでは召喚出来ない。
そもそも上級悪魔は今生きる悪魔族やクレイジーフェアリーの様な悪魔と違い、その血も魔力も全てにおける強さが桁違い。基本この世界とは別次元に存在しているのだとか。
話は戻って、
英霊と違い悪魔は代償が伴う。
・HPを削る代わりに全ステータスが上がる。
・防御力を90%失う代わりに
攻撃力が3倍になる。その逆もあり。
・得られる経験値が無くなる代わりに素材や
アイテムのドロップ率が大幅上昇。
その逆もあり。
他にもあるがわかりやすいのはこの辺り。
強化と弱体化の両方を受けるのが特徴だ。
これがなかなかピーキーなのだ。
変に攻撃力を上げて防御を捨てても相手に先制取られたら紙装甲故にあっさり負ける。
大幅強化の代償が大幅弱体化、だがこれが意外にも英霊よりも悪魔の方がプレイヤー使用率が高い理由になった。
簡単な話、
何周もクリアして武器とか揃えたプレイヤー、それ故の高レベルのプレイヤーにはそんな弱体化を補える程強いからだ。
相手より速ければいい、
なんなら必ず先制が取れる攻撃を超強化する、
レベルが最大なのでレアドロップ目的のために経験値を捨てる、
結局使い様なのだ。
さて呑気に解説してる場合じゃ無いね。
相手はなんと言った?
青の沈黙?
やばいね。
確かにゲームにもそんなコマンドあった。
仲間の誰か一人のHPが大幅に減る代わりに、相手全体にダメージとデバフを与えるっていうのがね。
しかも4人分の魂と来た。
いくら私よりレベルが格下であっても王族組やマロウちゃんには危険過ぎる。
これはなかなかの化け物が出てくるぞ?
男達は生命エネルギーを消費したためか、ぐったりと倒れた。
そして青黒いエネルギーと共に人型の化け物が4体現れ...た、
その瞬間だった。
『それは我の獲物である。雑兵が手を出すなど...身の程を知れ。』
4体の上級悪魔が召喚される寸前、
ドス青黒いエネルギーが悪魔を飲み込んだのだ。
「あ...あれ。」
「あ...。」
男達の体がみるみる痩せ細り、砂のように消えた。
おかしい、HP消費程度のはずなのに全員のHP...いや、魂や血肉全てを喰らうだって?
おいおいおいおい、
こんなのゲームで見たことなんて...あった。
青の沈黙のゲーム内最大出力、
自分意外の仲間の誰かが倒れる代わりに更に高いダメージとえげつないデバフをかけるのが。
だがこれはゲームのそれ以上。
でも出てくる奴はわかってしまった。
やばい、本当にやばい。
逃げたら毎度の事だが周辺がどえらい事になる。
最悪だ。
逃げるコマンドが無い。
なんでこう、この森はトラブルばっかり起きるかなぁ!?
『ああ不味いのぅ、小者の魂としょうもない同族の雑兵。腹も満たされぬ。』
「...“蒼黒の皇魔モフィラ”、まさかこの目で見る日が来るなんて。」
最上級悪魔が一角、蒼黒の皇魔モフィラ。
ゲームのDLCにおいて判明した実力は、
全力でなくともレベル70。
クチナシ達には及ばないが、これまたゲームのラスボスを超える化け物である。
薄明の森のトラブル率はどこまであがるのか...?




