第76話 空蝉:マロウちゃん強化キャンプ①
「きっかけは3年前です。ラーズと一緒に行った公演でして。」
(古参だったか...。)
話を聞けば二人は私が第一学年時の公演の時にファンになったらしい。どうやら本編程仲が悪くなる前に、またはそのきっかけに会う前に私という推しが出来た事で今の様な仲になったのだ。
本編の様なゴタゴタは面倒だからこの展開はありがたいし味方が増える事に越した事もない。
展開に味気ないとかは思わない。
今こうやって幸せならそれでいい。
二人と話して知った、
どうやら私の舞台女優としての活躍が外国まで広まり始めている。やっぱりリップ先輩の家系ことトゥリパーノ家が目を付けたのが大きいらしい。
伯爵経由でお茶会(平民なのに)だのなんだの招待状がなん度も贈られてきたが断っている。
しかし実力手段に出てこないのは私自身が公衆の面前で何度も実力を見せているからだろう。
ストーカーとかはシアの子分が対処してくれてるっぽい。
「またですか?」
「ああ、まただよ。いつも通り断っておくよ、あの国もしつこいな...。」
何せここのところ魔族関連の事件が発生し始めているのだ。なんの前触れも無く本編では無かった大事件が勃発しようものなら心臓が止まる自信がある。
...既に止まってるわ。
(現状回路でなんとか動かしてるだけ。)
「有名人を使った政治的戦略を練る輩はいるものだ、特に...この招待状の送り主はね。」
「燃やしていいですかね、その招待状。」
「やめておきなさい。火事の数億倍体に悪い煙が出そうだ、体に障ると良くない。こっちで処理しておくよ。」
「いつもありがとうございます。」
あの手紙の送り主はこれで4回目だ。
ラーズ曰くその貴族は小物である上にさらに高位の私達がいるから今後もいくらでも無視して構わないとの事。
そんな訳で今日8月1日、公演終わりに皆と駄弁る。
「もう8月かぁ、3年前は確か...。」
「クレイジーフェアリー狩ってたね。やっぱ私のいるシーンだけが抜け落ちてる感じ?」
「そうね。メリー以外の誰かと一緒だったのはわかるわ。」
「あの時餌に使ったお高いリンゴ(単価450円)は今もその値段?」
「そうね、でも香りがもっといい品種が出たの、なんと単価750円。」
「たっか。」
「ちなみそれ使ったらもっとフェアリー集まったわ。」
「ふむ、やっぱ香りが重要なのは魔物なだけある...。」
魔物の習性を理解するのは効率のいいレベリングに繋がるしレベルの低い仲間の強化に大いに役立つ。
薄明の森の魔物でさえ騎士団や学者達はまだ習性や生態を解析しきっている訳じゃ無い、新たな習性や発見、生態が認められると給金が貰えるのだ。
特にクレイジーフェアリーの様な出現率が低く魔物自体が強力であると新しい情報はかなり感謝される。
...そうだ。
「マロウちゃん、今レベルいくつ?」
「私は10です。」
あーやっぱり低いな。
つい最近まで入院してたしなぁ。
体弱いとはいえ可能な範囲でも、ほんのちょっとずつでもいい。彼女を鍛えるのはありだろうか。
それを皆に話してみた。
「いいのですかサフラさん!やったー!」
「いいね、私も手伝わせて!」
「いいわね、せっかくの夏休みだもの!」
「いいんじゃないか。ヒマリ、それとクランにラーズさんもせっかくだし行きませんか?」
「いいんですか!?」
「いいのいいの。よし、マロウちゃんの学年は自由研究あるんだしちょうどいい機会だ。フヨウにも言っておかなくちゃな。」
...あ。
「そういやカフェどうしよ。」
「ああ、彼ギックリ腰だったね。ちょっと待ってね。」
伯爵は私達から少し離れる。
「来なさい、シャドウファルコン。」
すると伯爵の影から漆黒の鳥。
ファルコン...ハヤブサか。
思い出した、召喚獣か。
「これを彼に。」
ハヤブサに書いた手紙を咥えさせ、
魔力を込めた指で撫でる。
ハヤブサは影に飛び込み姿を消した。
情報秘匿と指示を兼ねたものだろう。
なるほど、暗号通信用とかにも使ってるな?
今回は電話的なのだが。
すると、ドポンッとハヤブサが帰ってきた。
手紙を咥えている。
「...まぁ、そうだな。サフラくん、喫茶メモリーは彼が完全に癒えるまでしばらく休業だそうだ。彼の事は奥さんに任せるといいさ、君は楽しんできなさい。」
「ありがとうございます。」
(あの子には友達との夏休みを過ごさせやりたいのでエリクサーはいりません、大人しくカミさんとゆっくり休ませていただきます...か。彼らしい判断だ、サフラ君にとってはやっと取り戻した友人達との夏休みだ。厄介事は大人に任せておけばいいさ。)
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「おふぁぉーぉあいぁ...ふ。」
「マロウちゃん...別に無理にやる訳じゃないんだよ...?」
「んんっ...嫌です、私も強くなる!!」
早朝...いや、ギリ夜中だ。
まだ日の出もしていない時間。
予定よりもだいぶ早くマロウちゃんはやってきた。
街道には行商や輸送馬車が町へ行く。
巡回する騎士団達は私達に挨拶する。
知ってる顔がいたのか、またクレイジーフェアリーですか?と聞かれた。
「さて...私達でこれやるのは3年ぶり。モノは準備したかぁー!」
「おー!」
メリーは芳醇な香りのリンゴを手に持つ。
もしかして750円のやつか。
「これの出番ね!」
さらにいい匂い...リンゴパイ!
....いや待て、リンゴじゃない知ってる匂いが僅かに香る。ほんの僅か...シアの子分にも似た...待て。
さては強力な睡眠毒を仕込んでるな?
「マロウちゃんこれどーぞ!」
「甘ーい!!」
メリーがリンゴ1個、マロウちゃんにあげた。
羨ましい、私も食べたいのに...食べたいのに!!
腹いせにフェアリー共叩き潰す。
「おはようございまーす!」
「おっすー!」
「おはようございますサフラ様ー!」
「リンゴ持ってきましたわサフラ様ー!」
王族組までもう来た。
「まだ様呼びなんだねサラ。」
「隣国を支配下においた気分だよ。」
「“リンゴ”だけに?」
「どうやら氷河期が始まったらしい、国王権限で今だけコタツのご用意を...アダァッ!?」
メリーに膝カックンくらった。
まぁそんな訳で全員揃った。
ちなみにマロウちゃんの兄フヨウは研究会が近く、忙しいのでお休み。
「それじゃ向こうの広場に行こう。あそこなら丁度いい。」
「確か最近作られたのだっけ?」
「そうよ。街道が近くて冒険者や巡回する騎士団の休憩地点として作られたのだって。なんでも夏は結構涼しい場所らしいの。」
「そりゃいいね。」
許可さえとればキャンプも可能らしいが、魔物が寄って来ない訳じゃないので利用者は騎士団以外あんまりいないらしい。
魔物避けの魔法道具がまだ納入前だからだそう。
まぁマロウちゃん以外は心配無いだろう。
そういやクランとラーズはレベルいくつだ?
「自分は29です。」
「私は27です。」
うーん...Chapter.3としてはまぁ平均かな。
プレイヤー的には低いが。
この二人はメリー達に頼んでみるか。
「それはさておき....皆の者!!!」クワッ
皆が待っていたかの様に目を見開く。
「本命は持ってきたか!!!」
私はアイテムボックスからBBQコンロを出す。
メリーがテーブルセット、
リズは新鮮な野菜とジュース、
マロウちゃんは百均の紙皿やカトラリー、
王族組は高い安い問わない様々な美味しい肉や魚。
さらにテント。
もしもの時のポーションとエリクサーと転移石。
「邪魔する魔物は蹴散らせ!バーベキュー開始ッ!!!」
私達は大きな声を挙げた。
さぁマロウちゃん強化キャンプ開始だ。
シア子分「見たんですよ...ワタシ、嫌な臭いのヤツがサフラ様をこっそりつけていたのを。でも後ろから...鬼の形相のヒマリ様が....ああ思い出したくない...ガクブル。」




