第74話 決着:甘かった
紺色の髪の毛!
金色の瞳!
眼鏡!
白と虹色の学生服!
綺麗な白銀の羽織!
白くて可愛いウサ耳ウサ尻尾!
「いくわよ、サラ!!」
「は?え...え?」
月兎少女リズ、ただいま見参!ってね。
なんだそれ?
そんな場合じゃない、あの指輪はまずい!!
「いけ!!」
「いきなりシューティング・スターか!」
白銀の月...ゲーム終盤になってようやく手に入れられる星魔法という、星にちなんだ高位の魔法を使い、襲撃イベントでルナブレイク・ラビットというボス魔物を倒したら超低確率で手に入る激レアアイテム。
効果は星魔法以外の魔法のダメージが0.75倍化
する代わりに星魔法ダメージが1.5倍化。
そして星魔法によるバフ効果1.5倍化、
星魔法バフデバフ効果持続時間増加。
バトル中、常に被ダメージ軽減20%。
常に回避率20%アップ。
という超激レアアイテムに相応しい効果を持つ。
鬼に金棒どころか戦術兵器担いできやがった。
そしてこのシューティング・スターは先制攻撃効果がある上に範囲攻撃という、そこらの魔物からすれば悪夢でしかない魔法だ。
「うわっ、おっと!?」
煌めく光が私を狙う。
観客は驚き盛り上がる。
先制攻撃で私の動きを牽制する!
でもねぇここは現実だ。
発想が違う!
「...傘はねぇ、こう使えるんだよお!!!」
私は魔剣で野球バットの如くシューティング・スターを打ち返す!!
「えっ!?」
リズは咄嗟に回避。
打ち返されたスターはバリアにズドンッと音を鳴らし激突した。
「ひょえ...早速対応してくるなんて。」
「さぁさぁばっちこーい!!」
次はホーム打ってやろうか?
いやバリアあるからバッターアウトなるか。
星魔法は消費MPが他の魔法と比べ若干高い。
それだけ。
燃費がちょっと悪いだけだ。
強いて目立った対抗手段があるとすれば...、
私が星魔法全26種を知っている事だ。
「行くわよ...[アトラス]!!」
「!」
うしかい座ことアトラス、
「おい見ろ、あれ!」
「なんだ、ステージの地面が!!」
激しい地割れが私を襲う!
巨人アトラスの地踏みの如く地面に激しい揺れが発生し全体にダメージ、さらにひび割れた地面からエネルギーが飛び出しランダムに追加ダメージを発生させる。
私には地面からくる魔力の流れは見える、申し訳無いが追加ダメージはゼロだ。ちなみに地割れは魔法が終わると勝手に直る。なんで?
しかしここでドジった。
「...!」
「目の付け所間違えたわね。」
「[スピカ]か!」
スピカ...乙女座の星魔法。
発動の次ターンから2ターンの間、
発動者のHPとMPの消費を半分にする魔法だ。
この現実世界だとどこまで保つのかはまだ知らない。
ならば私は動く、魔剣に魔力エネルギーを収束させ擬似ビームサーベルの出力と密度を上げる。
次に“アレ”を出してくるのは予想出来る。
「もしかして読まれてる?[デネボラ]!!」
来た、獅子座!
光の獅子が敵単体に攻撃する魔法。
「悪いけどこれは阻止させてもらうよ!」
「!!」
武法、[静寂の斬撃]。
光の獅子は姿を形成しきる前にかき消された!
「でりゃああ!!」
「っ!!」
目の前に迫った私はリズがバリアを張る前にミドルキックをお見舞いする。
リズは目の前にいる、だが。
「っ!」
「あれ、サフラさん距離を離した?」
「...流石サラ、すぐに気づいた。」
私はリズからすぐに距離をとった。
既に遅かったからだ。
次の瞬間、当たり一面の地面が割れ隆起する!!
星魔法アトラスだ。
「え!?」
「なんだいきなり!?」
「...デネボラをかき消したつもりだったけど判定的には発動済みだった。それによりアトラス、スピカ、デネボラ、その3つの魔法の発動完了した事で星魔法のみに存在する追加効果“春の大三角”が発動...かな。」
「やっぱり、サラ知ってたんだ。向こうで知ったのかな、あまり文献にも無い筈だけど?」
星魔法はある魔法を続けて発動すると追加効果が発生する。モチーフは大三角や大四角の様な星座の特定の星と星を結んだもの。
春の大三角の効果は完成時に発動した魔法と同時または同じターンに一部の星魔法を速発動出来る事だ。
つまり1ターン2回攻撃。
厄介なのはこの春の大三角で発動した魔法も追加効果のカウントに入る事だ。距離をとったからリズが使うのは...!
「スピカ。」
さっきのバフだ、ぬかりないな。
出力をあげろ、相手のペースに飲まれるな。
私は転生者だ、星魔法くらい知っている。
たかが春の大三角しか出ていない。
星魔法の恐怖はこれからだ。
何を使おうとするのかを見逃すな。
そこに勝機がある。
「さて、そろそろやる気出していこうかな。」
思考加速、
思考詠唱開始、
足音消去魔法[サイレントウォーカー]
半透明化魔法[トランスルーセント]
ヘイト増加魔法[マイヘイト]
知覚妨害魔法[フィエルジャミング]
風圧軽減魔法[ウインドスルー]
身体強化魔法[フィジカルアップ]
防御強化魔法[ディフェンスアップ]
攻撃強化魔法[アタックアップ]
攻防強化魔法[マルチアップ]
魔力強化魔法[マジックアップ]
精度強化魔法[ロックオン]
精度超強化魔法[ホークアイ]
加速魔法[アクセル]
支援魔法強化魔法[ツインアクティベーション]
「ロストストレージ・フリーアクティベート。」
「ん?」
瞬間、私から赤黒いエネルギーが一気に溢れ出す。身体中の回路至るところから余剰魔力が溢れ激痛が走る。
声にもならない、声にすら出来ない苦痛が全身を駆け巡る。こうでもしないと私が星魔法を習得...いや、今後の彼女らについていけるか怪しいからだ。
フリーアクティベートはロストストレージを含めたロストの魔力を完全自由に好きな出力で使う事が出来る。これまでが充電式なら今はコンセント刺してる状態だ。
「ちょ、サラ!!?」
メリーの時とは違う、短時間で終わらせる!
星魔法を1回のバトルで全部使うなんて無理だ。
火力も性能も高いしそもそも使える時点でキャラが強い、そこまで鍛えたキャラなら1回でそんなにターンがかからない。
それに元がRPGゲームなのだ、
無闇に魔法撃てば運でも勝てるなんて甘っちょろい考えは無い。
この現実世界となればターン制約が無い。だから速攻で使われるとバフとかも乗りすぎて手がつけられない。
なれば全力出せばいい、こっちが速攻で。
様子見はもう...十分だ!
「!!!」
赤黒い閃光が幾重にも重ねられたバリアを突き破りスリジャは間一髪で躱す。
速い、
そして容赦の無い眼つき。
リズは今の一撃で察した、
サフラは星魔法の脅威を想像以上に警戒しており、その恐ろしさを知っている事を。
故にもう決着を着けようとしたのだと。
そうなれば自分も遊んでいる場合じゃない。
「アトラス!!」
地面を荒らし行動を制限、
「シューティングスター!!」
足場にしそうな場所を射撃、
「千里眼!!」
サフラの位置を把握。
これは星魔法じゃ無いが効果減衰するのは攻撃魔法だけだ。バフ関連の魔法は通常通り使える。
ダンッ!
「そこっ!!」
キィンッ!!
「もういない!?」
速すぎる、
その上バリアがごっそり削られる。
容赦ない。
ガンッ!!
「ひゃっ!?」
姿が見えない、どう反撃した...いや違う。
そうだ、サラの多重バフは...!
“直視してはならない”
発動者を注目させる魔法と存在感を消す魔法。
これは反対の様に見えて原理的には違う魔法。
さらに足音が無く、知覚魔法の効果も減衰させられている。
故に脳が混乱し、無理にでも見ようとすれば嘔吐を起こしたり眩暈を起こす。錯覚と同じだ、脳に負担が大きすぎるのだ。
なら誰もがこの多重バフを使うのでは?
いや、ここまでバフを器用に重ねられる人を私は見た事も聞いた事もない。
サラは昔から平凡かそれ以下と自身を卑下していたけど、これはどう考えても常人の域を優に超えている。
直視してはならない、
姿が見えない、
でも気配が近い、
脳の理解が追いついてきた。
「最初から...バリアの周囲にいたのね!!」
バリア半径1m、
アトラスで荒れた地面に隠れる訳でも無くずっと周りにいたのだ。
私はサラの多重バフを知っていたからか、
それとも本能的にか直視するのを避けていたから気づけなかったのだ。
見れば速攻で終わるからだ。
今のサラは歩くデバフ、
...いやこれ悪口じゃないの。
「...流石に直視しないか。」
リズのMPはまだまだあるだろう。
このまま同じ事しても埒が明かない。
私は一旦離れt
ボカンッ!
うわあっぶな!?
シューティングスターが軌道を変えてきた!
流石に気づくかリズ、容赦ない!!
「グルル...!!」
うげっ、この猛獣と思わしき唸り声...。
「ガオオーーーーッ!!」
「うわああ!?」
デネボラをいつの間に!?
しかも他の魔法を見せてこない、
戦略まで見せる気もない。
おまけにアトラスで荒れた地面がまだ戻らない、
戦略を出来る限り隠す気だな。
ってゆっくり考えてる場合じゃない!!
「掻き消えろ!!!」
「グォォー!?」
「ワンッ!!!」
「へ!?」
犬だ。
ちっちゃい柴犬...これまさかこいぬ座のプロキオン?
「ワォーン!!」
「秋田犬!?...じゃない、おおいぬ座のシリウス...まずい!!」
プロキオンは貫通探知。
知覚、探知阻害を無視して敵を見つける。
シリウスは敵の注目を引き付ける。
そして...来るとすれば。
「させるか!!!」
稲妻の如く駆け、リズに斬りかかる。
「もう遅いわ...ベテルギウス!!」
揃った、冬の大三角。
その前にベテルギウスは魔法の棍棒が振り下ろされる魔法だ。
それくらいはいい、
冬の大三角の効果は、
「...!!!」
足元が、腕が、体が凍りつく。
発動時の次のターン、相手全体が絶対に1ターン行動不能になる。
動け...な...い...!!
「まったく...サラ、その力はいくらなんでも私との戦いでも使うのはやめて欲しいな。またしばらく起きれないよ?...でもそれが今ある強さの可能性だってのもわかってる、それでもやめて欲しいな。」
「...これでも油断してはいなかったんだけどね、私の隙を突くのはリズといい上手いよね。それとこの力は私が今の私である以上はまた使う事になるさ。」
「でしょうね...。」
「だからさ...、」
「うん。」
「極力そうならない様にもっとリズとメリーと一緒にいたいな。」
「任せておきなさい、サラ。」
リズが私の首元に手を...指輪を添える。
それは首筋に刃を立てるのと同然。
完敗だ。
ーーーーーーーーーー
今回は正直甘かった、
私自身はゴーレム故にレベルも失い、筋肉とかはまだ鍛えられるが人間の頃程伸び代は無い。
代わりにロストのエネルギーを使いこなすという形で強化が出来ていた。
しかし、いよいよ肉体強度が追いつかなくなってきた様だ。
だからリズは私が無理にでも魔力を使い体が壊れていく様を見たくなかったが故に私の予想よりも速攻で決着をつけたのだ。
私が低出力で今より戦える強さがあればこうはならなかった。
アジとかヒドに可能な限り鍛えてもらってたけどモブの肉体では早々に限界が来ているらしい。
鍛えが甘かったとしか言えないな。
そんな訳で現在リズの優勝権利としてメリーと3人でお買い物する事になった。私と考えてた事が一緒だった。
「ねぇ、これどう?」
「...値段の割に凄く美味しいな。いいなこの新入荷のコーヒー豆。」
「マスターに紹介してあげたら?」
「そうする。でも焙煎はマスターの方が上だね、焙煎前の方を買うよ。」
「マスターのコーヒー美味しいもんね!私早く飲みたいなぁ。」
「じゃあまたウチに寄ってね。」
戦いが終わればただ1人の女の子として過ごす。
親友と過ごす時間。
勝とうが負けようがこれがあれば私は十分だと思う。
そういえば次の授業は“死火山の岩場”に行くらしい。あそこはChapter.3の解放ステージでまた魔族と対峙する事になる。
ストーリーではその辺りから本格的に魔族が動き出す。
...そこはまぁいい。
実を言うと面倒くさいキャラが関わるのだ。
それを思うとちょっと嫌な気分になる程にね。
ま、この世界この歴史ではどう変わってるやら...いや変わって無いでしょ。接点特に無いしメリーの悪い虫だと思って追い払えばいいや。
「おお!?このチーズ美味い、店長これ買います!」
「毎度あり!」




