第49話 消失:あの後の私、裏ボス達。
「我が名はクチナシ!この世界創生たる神なり!!ようこそ我が家へ!!!」
「俺は滅神竜アジ・ダハーカ。」
「破神竜ヒドラだ。」
「...マジかぁ。」
-私は今夢を見ているのだろうか。
災厄にして創生の女神、クチナシ。
滅びを司る神の竜、アジ・ダハーカ。
破壊を司る神の竜、ヒドラ。
彼らはシリーズⅠの時から存在する、ゲームを一度クリアした者のみが挑める裏ボスである。
その強さは設定上だけでもラスボスですら足元に及ばない、神の名に恥じない強さを持っている。(ディスブレの監督より。)
そんな彼らが今、私の目の前にいる。
というか三体揃って目に映る事自体ゲームでは無かった光景。
一体どうなってんだ!?
ーーーーー
-テルンを倒した直後の事。
死体一歩手前の肉体にゴーレム回路を巡らす事で無理矢理だけど動けるようになった私の前に少女は現れた。
少女は“ワシの所に来んか”と言ってきた。
ロストの呪いで皆に忘れられた以上学園に戻ることは出来ないので私は少女について行った結果がこれだ。
「...ぅお!?」
-突然、体がぐらついた...と考えている間に体は既に壊れた人形の様に地べたに倒れていた。無理矢理回路を通したからか、回路を通し足りないのか急に力が抜けた。
「あーあー、そんなボロボロな体で無理すんじゃねぇって。おいアジ、こいつ運んでやれ。」
「何で俺だ!お前がやれよ!?」
「阿呆か!お主らがか弱い女子に触れるな!全く怪我したらどうすんだただでさえブツブツ...。」
-そう言ってクチナシは私を魔法で浮かし転移。
次に来たのはどこかの寝室。
何だ、ふんわりラベンダーっぽい香りが広がって安らぐというか...。
「最初からここに転移しておけば良かったじゃわい。...改めてようこそ我が家へ、ここはワシの寝室じゃよ。色々話したいこともあるのじゃが、まずはその体を何とかする必要があるのぅ。」
クチナシは私の胸に手を当てる。
「これがお主が抗った結果か、なんと弱く脆い体でよく生きていた...。」
-その時、体が少し暖かく感じたというか、
気が楽になっていくというか。
「無理をするな、お主の体は無理に動こうとゴーレム回路をとにかく敷いたって状態なのじゃ。そのままじゃと直に肉体が崩壊するじゃろう。」
「えっ...神様ならこの体を治せたり?」
「...ただの死体や重症であったらのぅ。」
「マジか...あのクソ魔女なんつー毒を使いやがった。」
「ふむ...このワシでも知らぬ技術を用いるとは...余程の執念というべきか、再生魔法や蘇生魔法なども無駄じゃろう。人間の体はか弱くも複雑、ここまで荒らされてはどれだけ時間がかかる...いや、構造そのものが遺伝子レベルまで書き換えられている以上...無理じゃな。ワシはこれをどうにか出来る術は持っていないんじゃ。」
「...そうですか。」
-どれだけやばい毒なんだよ...。
ドジったな...あの野郎に毒の作り方や入手方法聞いておけな良かった、あんなの出回れば未知なるバッドエンド確定だ...。
「それで、今ワシが施しているのはお主が敷いた回路を最低限整えるのと、重要な器官の修復じゃ。」
「...最低限って事は私自身が動けるようになるなら自分でどうにか鍛えるなり調整する方が確実で早いって事ですか?」
「そうじゃ、理解が早くていい子じゃの。よしよし。」
-急に頭を撫でてきた。
「そういう訳で、お主にはじっくり休んでもらいたい所じゃが、崩壊しないくらいにはその体を鍛えてもらわねばワシも助けた意味がないのでのぅ。付き合ってやるから頑張っておくれ。」
「わかりました。」
「あーこれ、まだ終わっておらんからな動こうとするのでない。」
「あ...はい。」
ーーーーー
-それからの私、
「そうじゃ、歩く、走る、呼吸、と言った基本的な動きをとにかく続けるのじゃ。基本があってこそ成長してゆくものじゃ。」
「はい。」
「えーと、この大豆をひたすら箸で掴んで...?」
「指先の細部まで回路を通す為じゃ。慣れたら次は豆腐じゃ、壊さずやるのじゃぞ。」
「はい!」
「お嬢、夕飯の豆腐どこ行った?」
「ジェンガ...。」
「こういう趣向も良いじゃr...あ。」
(ガッシャーンッ。)
「部屋の掃除...ですか。」
「そうじゃ。お主の体であるとコツはこう...。」
「はい...あれ、なんだこの本?」
「あ゛あ゛あ゛ワシの日記!!?」
(...1日目で途切れてる。)
「凄い、温水プールだ...。」
「うむ、まずはサイドに掴まってバタ足じゃ。」
(やっぱりそこからか...。)
「お、おお!お主髪を洗うの上手いのぅ。」
「それはどうもです。というかシャンプーしてる時に喋ると口に洗剤入ってしまいますよ。」
「ゔぇっ。」
(言わんこっちゃない...。)
「これは視えるか?」
「上、下、下、左。」
「じゃあこれは?」
「り、ん、ご、む、い...て...アジ様にやらせれば?」
「なんで俺だ!?」
「はぁーいい香り!」
「ありがとうございます、“お嬢様”。」
「んなぁ!?お主までそう呼ぶでない!!」
「紅茶淹れたらそういう雰囲気なりますよ。」
「むーっ!!」
((いい眺めだな...。))〈ヒド・アジ〉
-気がつけば崩壊の危機は無くなり、私の体は日々感覚が取り戻...いや、組み込まれていった。
クチナシ様が考えたのは日常生活を繰り返す事で基本的な動きを作り上げる方法。日々を生きていれば自然と動けるようになるって考えだ。
1ヶ月も経てば...、
「ふむ、結構走れる様になったの。」
「はぁ、はぁ、でもなんか、前、より体力、落ちてる。」
「当たり前じゃ、普通リハビリでハードワークさせるか。」
2ヶ月、
「おお、こんな重い物を片手で...。」
「細部まで通した回路に魔力を流す事で単純な腕力も上がっておるんじゃ。」
「...もしや。」(パシィッ)
「のわぁ!?」
「は、弾いたピーナッツが弾丸の如く...。」
3ヶ月、
「そうだ、魔力の流れを一定に。」〈アジ〉
「ん...。」
「まだ少し乱れている、焦るな。」
「....はぁっ!!」
-エネルギー弾が飛ぶ。
「うむ、これが術を介さない純粋な魔力のエネルギーだ。」
「...気になってたけどアジさん、人型サイズになれるんだ...。」
「ヒドラのやつもなれるぞ。」
「え。」
半年、
「...せやあっ!!」
「ほぉー見事!索敵魔法[霊像]は人族には難しいと思っていたがな!」〈ヒド〉
「もう人間じゃないので...。」
「そうだったなぁ!」
「お主はデリカシーを知らんのか!?」
「痛゛ぇ゛!!?」
1年、
「んー…甘ーい!」
「お気に召した様で。」
「意外と簡単に作れるもんなのじゃな、シフォンケーキとやらは。」
「...“今度一緒に作ろっか。”」
「うん!」
またさらに半年、
「...と言った感じだ。わからない所はあるか?」
「この空間魔法の構築についてで...、」
「ねぇサラ!今、」
「お嬢、授業中だ。」
「ぶー!!」
「あはは...。」
気づけば2年が経った。
「ねぇサラ、ぎゅーっ。」
「むー...。」
「お嬢、サラが苦しそうだぞ。」
「すっかりお嬢に懐かれたな。なんか姉妹...って言うより双子に見えなくもないぞ。」
-すっかりクチナシ様に懐かれた。
距離感としては妹とも姉とも言えるっていうか、近い。凄い近い。寝る時もべったべた。暑い。
アジダハーカとヒドラには戦闘や知識など師匠兼先生として色々教えてもらっている。
彼らのおかげで私の回路だらけの体は元の肉体同様に当たり前の様に動かせられる。裁縫針に糸を通す事だって出来る。
-特に驚いたのは、
「そういえば...クチナシ様達はロストの呪いの方の影響は受けてないの?これ時間が経つに連れて私忘れ去られるはずだけど...。」
「んぁ?そんな“おもちゃ”がワシらを超えられると思うのか。所詮は伝説級の古代魔道具、ワシら神の領域に達する者に通じはせんわい。」
「付け加えるなら“今のお前”は我らの監視、認識下にある。」
「...つまり、コレを遥かに上回るクチナシ様達が“今の私”を認識する事で“存在そのものは”保てるって感じかな。忘却はさておき。」
「そうじゃ。」
と、
どうやら存在の消失は免れたらしい。
加えてロストは己以上の存在には影響がないという事も。
...それはつまり、
「気付いたようだな、そうだ。今のお前が目指すべきはロストを超える事。」
「正確には制する事じゃな。」
「それを成した暁にはロストの全ての力をお前は意のままに操れるはずだ。」
-ゲームには無かった抜け道。
私がえげつなく強くなる事。
現実故に成し得られる新たな選択肢。
世界最強の存在達から与えられた選択肢。
「最低でもタイムリミットはあと2年。それまでに、可能な限り私は強くなりたい。...守りたい人達がいるんだ。」
「なぁに、もとよりシゴくつもりじゃ。覚悟があるのならあとは実行に移すのみじゃ。」
-クチナシはバッと髪をなびかせる。
「サフラ・アコニリン。ここより先はこれまでと比べ物にならない事が待ち受けておる。...覚悟はあるか?」
「括りすぎてもう腹がないよ。」
「言ったな?後で根を上げるのではないぞ?」
お互いニッと笑い、拳をコツンとぶつけた。
-これが私の新たな人生の始まり。
アジ「お嬢、豆腐は麻婆豆腐に使うから...。」
クチ「なんじゃ、木綿でも良かろうに。」
アジ「俺は絹漉し派だ!!」
ヒド・サラ「平和だなぁ。」




