第34話 始まる夏季休暇とレベリング
7月20日....昼。
夏季休暇開始直後、所謂1学期最終日。
学園の門からは夏休みを待ちに待って活気の溢れる生徒の姿がわらわらと....いなかった。
むしろそれは気力を削られやつれた姿の数々。
「あいったたた...。」
「肩いたーい...。」
「私は目が疲れたわ....。」
そう、先生の長話という地獄から、私達は解放されたのだ。エアコンの効いたカフェで大きなため息を吐き、気疲れに負けぐったりと机にもたれかかる。
私達の周りにも、今にも魂が抜けそうな生徒の姿。
お冷も命の水と言わんばかりに勢いよく飲んでいる。
腹壊すぞ。
「あー長かったやっと終わったよー。」
「教頭先生は話を短くまとめてくれるから感謝しかないけど...。」
「学園長の話が長かったね。15分以上はあった?」
「21分と37秒よ...。」
「リズ数えてたの!?」
「それしかすることないもの!学園長の話聞いてた!?要約すると教頭先生とほぼ一緒よ!?」
「教頭先生、寝てたね。」
「幻術で起きてるよう誤魔化してたわ。」
「ずるーい!」
教頭先生からの話はなんと3分も無かった。
内容もシンプル、それでいいのか!?
「でもようやく夏季休暇だね。色々濃くて休暇日数2倍あっても全然足りないよ。」
「だねぇ。(最重要関係者)」
「サラ、傷跡とか残ってない?あなた明明後日大仕事があるじゃない。」
「だいじょぶだって、もうその話何度目だよ。」
明明後日は演劇部の舞台。
国王やら貴族までが来る超ビッグ舞台。
多少の一生傷すら癒す中級エリクサーを惜しみなく使ったわ。(道具箱産)
というかカメリアとスリジャの方が心配だわ。先生からもらったエリクサーやら魔法で復帰したとはいえ本編始まる前に死ぬとかやめてよね。ストップ・タイムパラドックス...いや私がソレか。
でも見た感じもうなんともないの。
元気ハツラツ今日も頑張るオーラってやつ、教頭の長話で綺麗さっぱり消えたけど。
私に限らずタフだな二人とも。
しかし油断は禁物だ。私の目的はディスティニーブレイブⅢのお話に介入し私なりに物語改変をする事だ。始まってすらいないこの状況で困ってどうする。
次は何をするかな...やっぱり二人のレベリングかな?学園の卒業資格の一つがレベル32を超える事だけど、正直ゲームの知識がある私には夏休みで余裕に超えられる自信がある。
なにせ現実であってもゲームだ、[経験値いっぱい][硬い耐久力][逃げ足早すぎる]って感じのレア魔物くらいいる。メタルなんとか的な。だから時間さえあれば経験値はがっぽがっぽ。
「というわけで今日からビシバシ経験値稼ぎたいと思います。2週間以内にレベル32は超えましょー。」
「「夏季休暇1日目から???」」
7月21日早朝、薄明の森。
レベリングスタート。
ーーーーー
「質問ある方。」
「「はい。」」
「どぞ。」
「なんで朝5時半から?」
「5時半から7時半が最も出現率高いからです。」
「何を倒すの?」
「クレイジーフェアリーです。」
「うえぇ、あの嫌な妖精モドキ?」
[クレイジーフェアリー]
薄明の森に出現する高経験値レア魔物。40cmも無い人型の体と可愛らしい妖精の様な見た目をしているがその実態は悪魔の一種。早朝に姿を現し旅人や行商を見た目で惑わし襲う。
また、笑いながら炎魔法で襲った相手を燃やす光景からクレイジーフェアリーと呼ばれているそうな。
「見たこと無いけど...でもその魔物って確か強くなかった?おまけに凄く硬いって。」
「おまけにとても速い、今の私達でもいっぱい倒すのは...。」
「ふむ、じゃあ見てて。」
「?」
ザクッ
「グギャァッ!?」
「!?」
「このように不意打ちが有効です。」
必殺[影討]。
「で、でもクレイジーフェアリーは会うのも滅多にある事じゃないわ。いくら現れやすい時間と言っても。」
「オイ、ニンゲン、ダ!キシシシ!!」
「ネェ、アソブ、ソレトモ、モエル?」
「え?」
「気のせいかしら、2体現れたわ。」
「気のせいじゃないよ、秘密はこれです。」
「リンゴ?」
「コイツら行商を襲うの大抵は食料目当てなんだ。わざわざ切ったリンゴなら匂いが広がるだろうし、ほら今ならいけるいける。」
「え!?えーと、隠密魔法[イレイス・オーラ]メリー!!」
「武法[ソニックスラッシュ]!!」
「「ヒギャアアアッ!?」」
「お見事!」
一玉450円〈税抜〉の超高級リンゴ。
味も香りも素晴らしかろう?
「凄い...こんなあっさり。」
「ええっ!?レベル23に上がったわ!」
「へ?え!?私も!」
流石の経験値、襲撃イベントボスの5倍あるだけの事はある。
襲撃事件で元々のレベルが上がってたのもあるだろうけどこれなら短くて1週間も夢じゃない。現在私のレベルは25。
「経験値凄いでしょー?後はこの方法を繰り返す、まぁアイツらが現れてくれるかだけど、なんとかなるでしょ。」
「でも拘束してるわけじゃないから、逃げられるかもしれないわ?」
「状態異常完全無効化持ちだから、釣られた奴は己の技量で仕留めるしかないね。有効なのはさっきのように不意打ちだよ。」
「...わかった!私頑張る!!」
「そうね、無茶苦茶な事でも無いわ。私達もレベル32になる前にサラを追い越さなきゃ!」
言うじゃないか。
私も頑張らないと。でも明後日は舞台があるから割とマジで越されるかも。ちなみに基本ステータスはもう負けてる。
「キシシシッ!!ソイツ、ヨコセ!」
「オマエ、モヤシテモイイヨネ!!」
「おーもう現れたか。」
「私が引きつけるわ!メリー、サラ!」
「「オッケイ!」」
蹂躙開始。
「キシシシッ!モエロモエロ!!」
「キシシシッ...シ?」
「死だよ!」
スリジャが[マイヘイト]を使い目立つ。
私は背後からクレイジーフェアリーを両断。
「ゲヒッ!?キシャーッ!!」
おっとお得意のバリアを張るか、でもこっち見てていいのかな?
「でやああっ!!!」
「グギャァッ!?」
カメリアのミドルキックで吹っ飛ぶ、背骨が折られたのか木にぶつかって直ぐに消えた。
今気づいたけどカメリア、靴になんか仕込んでるな?鈍い音なったぞ。
「ヤラレタ!ナカマ!ヤラレタ!」
「コロセ!カタキ!コロセ!!」
「うわっはぁ!さらに1匹現れた!今日はツイてる!」
「え、もう!?」
「これは2週間もかかる事ないわ。」
「リズもそう思った?」
「まあね!」
スリジャが手を翳すとクレイジーフェアリーの下から植物の蔓が伸び、体に強く巻き付く。
「私だって二人と張り合えるぐらいの強さはあるんだから、さっさと課題は終わらせましょう!」
「ギッッッ!!??」
蔓をより強く締め上げ関節や骨を砕き、地面に叩きつけた。即死だった。
「どひゃあ、これは凶悪。」
「植物って意外と力強いのよ?」
叩きつける瞬間に重力増加魔法もかけていた。全属性適正持ちの多彩器用貧乏型が自身の力を存分に使えばそのくらい楽勝...ねぇ。怖。
「でも、これで私達がクレイジーフェアリーを相手になんとか出来るってわかったじゃない!いい調子だと思うよ!!」
「そうね、私は索敵するから二人は戦闘態勢を整えて。面白くなってきたわ!」
ようこそレベリングの沼へ。
ーーーーーーーーーー
「...またこの森の調査かぁ、いい思い出が無いよぉ。」
僕は王国騎士団諜報隠密特殊部隊のアスター、
階級は少尉です。
現在は王国騎士団特務兵中尉のリクスとして表の仕事をしています。暗殺部隊と言っても僕らは騎士団、組織自体は裏なのでみんな表の階級はちゃんとある。
この薄明の森に訪れたのは大量発生したサソリの魔物調査以来。あの時は王国立学園の生徒にあっさり見抜かれたり利用されたりと散々だった!
なんだよアイツ!ほぼゼロに近い気配を感知して容赦なく殺そうと影討使って来るし戦い方も魔剣もエグいし!!
それに加えクソッタレのアジサ達を返り討ちにするってもはや学生の強さじゃないって!
関わりたくないよもう。
「ギシャーーッ!?」
「!?」
何!?今の悲鳴...いや、人の声じゃない。
魔物の類...クレイジーフェアリーか?
僕は声の聞こえた方向へ向かった。
そこにあったのは荒々しい戦いの痕跡。
いや、蹂躙されたかの様な跡。
「ギッ...シャ....。」
胴体を斬り裂かれ消えてゆくクレイジーフェアリー。さっきの声はコイツ?誰にやられた?
「ナカマ!マタ、ヤラレタ!」
「コッチ、オンナ、イルゾ!!」
「!」
クレイジーフェアリーが2体?
珍しいな、だが今なんて言った、まただと?
「オンナノ、ナカマダ!」
「モヤセ!」
...森に誰かいるな、それも女性。
まさかあの子達?
いや、でもこれは...。
「キシャーーッ!!」
「魔融合武法[シルバーライト・スラッシュ]!!」
「ッ!!?」
今の僕じゃクレイジーフェアリー程度は楽だな。
でもこれで森に何かが起きているのはわかった、隊長に...、
「え?」




