第33話 後始末
7月16日、
夏季休暇に入る4日前である。
暗殺部隊の強襲派閥の襲撃から4日が経過。
あの後校舎は何事も無かったかのように修復やら掃除され、翌日には元通りになった。
校舎は。
暗殺部隊、それもかなり硬い思想を持った男による襲撃の爪痕は大きく、死人が出なかったとは言え被害を受けた演劇部の部員の何人かは4日経った今も寮の部屋に篭っているそうだ。
無理もない、勝手な理由で殺されそうになったんだ。ターゲットだった私が何か言うのはやめておいた方がいいだろうか?
「...?サラ、どうしたの。」
「ん?ああ、なんでもないよ。そういうメリーとリズこそ体はもう大丈夫なの?」
「昨日も言ったわ、もう大丈夫よ。」
あの後部長から聞いた話だけど、
アジサとの戦闘中、カメリアに謎のオーラが纏い魔力が増大、アジサを圧倒したのだという。
耳を疑った。
あの強襲派トップとのレベル差はかなり開いていたはずなのに。最低でも25レベルは差があってもおかしくない。
部長曰く、
・「髪の毛先が赤くなった。」
・「どこからか謎の声が聞こえた。」
という事だ。
まさか英霊?
いやあり得ない、まだChapterは....待てよ。
今回の事件を経てカメリアが英霊に認められる器となったのか?それとも別の力?
なんにせよ直接見ていない私じゃ答えは出せない。
それにカメリアの様子を見るに偶発っぽい。
この件は保留だな。
しっかしまぁ、これで十聖の全員とは関わったかな?
まさか退屈凌ぎも兼ねた行動がここまで大惨事になるとは...死ぬはずだったイレギュラーの塊が言う事じゃないな。
後が怖いねぇ、この二人が十聖になれば本編以上に面白い日々が待ってるだろう。早く十聖が十人にならないかなぁ。
...思えばだんだん恋愛系ゲーム感が薄れていってるけど、
気にしてはならない。
考えてる内に校門へ着く。
そこには生徒会長の姿があった。
「おはようございます、皆さん。」
「おはようございます、会長。」
「...サフラさん。早速だけど、例の人が今学園長室に。」
「!」
ついに来たか....奴が。
「メリー、リズ。二人は先に教室に行ってて。」
「ええ。」
「...気をつけてね。」
私はリンドと共に学園長室へ足を運ぶ。
二人は誰が来ているのかを察しているのか、私に着いていくとかそんな事は言わなかった。
実際それで助かる、なにせこれから会う人物は暗殺部隊の人間...それもトップ。
諜報隠密特殊部隊総隊長ジサ...それが今から会う人だから、居合わせる人数は最低限にしたい。
被害を受けた二人には納得いく話じゃないだろうけど...。
そもそも暗殺者は本来この前の事件のような大胆な事はしない。普段は人々の暮らしの影から国を守る立場。
アジサのような奴ははっきり言って異端。
職務と実績があるから、そして明確かつ表に出せるようなハッキリとした証拠が無いため無理矢理解雇が出来なかったのだろう。
理由も無しにクビ切るのは切った側の印象やらが悪くなるし組織として都合が悪い。
にしてもジサとアジサ...名前似てるな。
まるで名前いっぱい使って誰が誰につけたかウッカリ忘れちゃった設定のような感じがするぞ。
...おっとこの話は、
「総隊長のコードネームはジサって言うんだ?アジサじゃねぇぞ、間違えたらちょっと機嫌悪くなるぞあの人。」
ってあのやる気無しが言ってたな...。
ってか、こんな話を私にするとかいいのかアイツ?
「...はぁ。」
「大丈夫ですか?」
「すみません、ただのため息です。」
音声魔法[盗聴防止]
[念話]
(会長、学園長室には例の人物以外でいらっしゃるのは?)
(付き添い一名、学園長と教頭先生です。)
(わかりました。)
生徒会長はあくまで案内人か、最低限の情報しか持っていないだろう。
解除。
「では...こちらです。」
私はドアをノックし、部屋に入った。
ーーーーー
学園長室。
そこにいたのはコートとフード、そして仮面をつけ全身を隠した服装の男。
後ろには騎士団の鎧を着た男。
その風体には歴戦の猛者と感じさせる威圧を感じた。
二人からはかなり濃い魔力を感じる。
抑えているようだが私には気づけた、その重厚な力を。
強い、アジサよりずっと強い。
レベル50以上は確定、
特に鎧の人物が誰なのかを私は知っている。
気を引き締めろ。
乙女ゲームらしくない展開の始まりだ。
「失礼します。」
反応はない。
警戒して当然か...?
「初めまして...私はサフラ・アコニリンと申します。」
「...諜報隠密特殊部隊総隊長、ジサだ。後ろにいる男は...付き人のシンゴだ。」
「...。」
シンゴという男は私をジッと見ている。
やだ、私って魅力的...なんて安い展開はない。
これで全員が揃った。
学園長が頷くとジサが口を開く、仮面だけど。
「...今回私の部下であったアジサが貴方達に大変な迷惑を...いや、その言葉では済まない事をした。本当に申し訳ない。」
二人は頭を下げる。
「部下を御せなかったのはこちらの責任だ。...如何なる処罰も受けよう。」
「その事情については大まかに把握しています、理由も無しに実績と立場のある人間を切るのは組織という構造上不可能です。加えて表に出せれる程の明確な証拠もない、いくら部隊でも王国騎士団の一組織。あったとして闇情報で処断は出来ないでしょう。」
「...申し訳ない。」
暗殺部隊は表向き存在しない。
メンバーも普段は騎士団の兵として活動している。
彼も普段は騎士として活動しているのだろう。
だからだろう、仮面をしていても色々と辛い気持ちでいっぱいなのがわかる。
「今回の謝罪にあたり、其方への....、」
「戻ってくるの遅いね、サラ。4限目終わっちゃったよ?」
「しょうがないでしょ、相手はお偉いさんだから。でも確かに遅いわね。」
昼休み、誰もいない屋上で話すカメリアとスリジャ。
普段は3人で昼休みを過ごすのでどこか退屈にしていた。まぁ近頃サフラは色々あって3人一緒じゃない時が結構あったけども。
「今回の事件は色々深いわ。私達も呼ばれると思ったけど...相手は秘密部隊のトップ。表向き正体を隠しておかないといけない立場の人間と直接会うのは極力抑えないといけない。」
「多分後で別の人が演劇部や私達に謝罪すると思うな。」
「そうね...納得いかない人もいるだろうけど。」
カメリアは手を握りしめる。
「私にもっと力があればみんなを守れたのかな...?」
「今回の相手は力ある無しじゃないと思う。単純戦闘能力を除いても彼らの不意打ちはプロ。他の人より強くても第一学年の私達じゃまだまだよ。だから、」
「次こんな事は起こさせない。」
この時、カメリアは剣の様にどこか鋭く冷たい空気を見せた。
「...一度、学園長室に行ってみましょう?」
「うん。」
ーーーーー
「だぁーはっはっはっは!!それはいいなぁ!!」
「はい!これは魔道具技術に於いて素晴らしい発想!確かにその方法なら可能性が!」
「そうですよね!!」
「「........笑い声????」」
理事長から聞こえてくるのはサラや男の笑い声。
あれっ、盗聴防止とかしてないの?
「...ん?誰かいるな。」
ガチャッ
「あっ...。」
「あれ、メリーとスリジャ?」
「あーもうこんなに時間が経っていたのか。そりゃ心配な顔をされて当然だな。俺とした事が面白い話に熱中してしまったよ。」
ドアを開けたのは全身真っ黒で仮面、フードをした男。
「あっ...ちょ、貴方が見つかるのは...。」
「なーに、俺の姿を思い浮かべて見ろ。」
「え...あれ、なんか霞むぞ。」
「俺の装備は全て認識阻害の魔道具やレアドロップ装備だ。今見ている姿も聞いている声も嘘かもしれんぞ?」
「いやいやいやいや、国家機密レベルの人がそれ言っちゃ。」
「心配するな、周囲に部下を配置しているし今この辺りにいる人間は俺達だけだ。魔法で覗き見をしている奴もいない。」
「あのー...話が全然わからないのですが。」
「あーすまない、二人ともこちらに座りなさい。」
隊長説明中...
「えーとつまり学園の修繕費や被害に遭った人達全員への慰謝料うんぬん、事件の事は終えて。」
「でもサラはお金を断った。」
「代わりに騎士団が所有しているレアドロップアイテム・装備を貰う事にした。」
「その運用目的で色々説明したら今ある魔法技術にさらなる可能性が思い浮かんで色々話して熱中と....。」
「あのさぁ...。」
「すいませんでした。」
謝罪の後に何やってんだか。
「だがシンゴがここまで熱くさせるとはな、驚いたよ。コイツは生まれついて世界でも保有者が少ないレアスキルを持っていてな。そのせいで物事にここまで熱中する事が少ないんだ。」
「...私とした事が熱くなりすぎました。ですがサフラさんの案はとても興味深いです。この件については私の方から後日ご連絡致します。」
「楽しみに待っています!」
「何かはわからないけど....まぁ終わったならいいか。」
「そうね、この件はおしまい。サラ、早くお昼ご飯食べましょ!」
「どうでした総隊長、彼女は?」
「中々興味深いが...まだまだだな。」
「ふむ....確かに内定基準点はまだ半分超えたところです。それでもここまで満たしているのは現時点で歴代最年少です。」
「ああだからこそ期待しちゃうのよ。でもなんか青いのよ、子供というか...?」
「そりゃ今年の新入生ですから。」
「...でもなんか...怖いじゃん?強襲派閥の部下をバッサバッサ切り伏せたんでしょ?」
「正当防衛ですからね、私情でややこしくするのは勘弁してください。ただでさえルヴァより暗殺者向きかつ戦闘に於いて極めて高い才能を持っていると言う話は騎士団総長の耳に入ってるのですから、もっと真剣に考えて下さい。」
「はいはい。」
...ジサはふと思う事があり、シンゴに話す。
「...彼女は勇者だと思うか?」
「勇者...世界の均衡が崩れた時にその傾きを直す存在でしたっけ?...私は違うと思います。入学式から現在までの新入生のデータは一通り確認しました、彼女は非常に優秀ですが勇者と共にいるという“神の英霊”の力が確認されていません。」
「目覚めていないだけかもしれんぞ。」
「いえ違うのです。彼女には既に英霊がいます。...元魔物の英霊が。」
「元魔物だと?聞いた事がない...まぁ一度それは置いておき、だとすればサフラ・アコニリンは勇者ではないのが確定してしまったか。」
「はい...しかし。」
「ん?」
「アジサの遺体から...神の英霊の魔力が検出されました。」
「なんだと?」
「サフラ・アコニリンは勇者ではありません、しかしすでに勇者は学園にいるようです。集めた情報を元に判断するのであれば...その者は。」
毛先が赤く輝いていたそうだ。
淡いピンク色のオーラを纏い。
彼女は主人公だから。




