第31話 死んだふり
サフラが暗殺者を狩りに行った後の話。
演劇部の広い部室の片隅にあるのは血濡れた暗殺者の遺体。
現在、学園にはサフラを狙った暗殺部隊の襲撃を受けている。この部室も先程まで証拠隠滅のために皆が殺されようとしていた。
しかし間一髪サフラが到着、得意の奇襲技でその場にいた暗殺者は全員狩られた。
そこにいたのは、
怪我を負い治療を受ける生徒。
青ざめた顔で怯える生徒。
怖くて涙を流す生徒。
サフラは状況もあって部室を離れられない。
だけど、
恐怖に飲まれた彼らを守るため立ちはだかる勇敢な生徒。
事件を引き起こした部隊を裏切り、傷を負い毒を受けながらも皆を守る生徒。
大切な後輩を守るため、部長として立ち上がる生徒。
彼らの存在がサフラの背中を押したのだ。
本当は死ぬのが怖い、サフラの様な力も高度な戦闘技術も持っていない、それでもいい。
彼女の長年の友として、
部隊の罪を償うため、
先輩として、
サフラの力になりたい。
ただ、そのために。
「はぁ...はぁ...。」
「部長、クフェアさんの呼吸が安定して来ました。」
「ああ、応急処置は済んだ。救援が来るまでの辛抱だから後は任せろ。」
「いえ、僕は休む訳にはいきません。」
「...無理はするな。」
部長はクフェアを無理には止めなかった、止めても無駄だと判断したからだ。
だが、あれから部室への襲撃は無い。
「窓の外に糸が見えるが、あれはサフラが仕掛けたものか?」
「はい、でもあれは糸だけです。」
「糸だけ?」
「流石のサフラさんでもあの短時間で高度な罠は仕掛けられません。せいぜい[糸に毒が塗ってある]程度です。」
「それ充分危険な罠だよな!?」
「まぁその見えにくい毒糸お陰で部隊の奴らは下手に近づけないのでしょう。皆が毒耐性や高い視力を持っている訳ではありませんし、武器で斬ろうにも粘着性が高くて斬りづらい上に毒で武器やら鎧が傷むので。」
「もうこれだけでいいんじゃないかな。」
それは言っちゃいけねぇぜ、部長。
だがこの糸のおかげで暗殺者は近づけない。
変に魔法も使えば教師にバレるから本当に近づけない。
だが事情を知っていようが、教師達も近づき辛いのだ...。この後教師は爆弾処理の様に、慎重に糸を解除して進む羽目になりましたとさ。
「...。」
「どうしたカメリア・レッドペタル、スリジャ・オーカまで急に暗くなって?」
毒糸の話を聞いた後から二人は不安を浮かべた表情をしていた。
「...悔しいと思ったんです。」
「悔しい?」
「3大って言葉は...ご存知ですよね。私達とサラは3大って呼ばれてるだけあって学園に入学した時の実力はほとんど大差はありませんでした。」
「あの話題か、ある新入生3人の入試結果が他校の生徒と差をつけ非常に高い成績を出した事からか、新入生首席レベルが3人で3《スリー》ヘッドや、三王、ランサ語でトロワ、その内にどう言うわけか[3大]に。...トロワの方が断然マシだと思うな。」
「特にサラとメリーは地域学校時代に何度も模擬戦一位の座を取り合った仲。私は二人に及びはしなかったけどサラが私を色々鍛えさせたからずっと3位に食いついてはいたの。」
「私もサラには色々教えられた、昔も今も。私達の知らない事も教えて鍛えようとしてくる。」
「そうなのか...。二人にとってサフラ・アコニリンは於いてかけがえのない友人なんだな。」
「はい...でも。最近のサラは短期間で私達とはレベル差を空けました。それも死と隣り合わせに。」
「だな、最近のサフラはどうも危なっかしい。」
「私達にはわかるの、サラには多分...そう遠くない内にもっと悲しい事が起きる気がするんです。」
「...どう言う事だ?」
「昔、私が今の家がある地域に引っ越して来た頃に私とサラは出会いました。その頃に私とサラが遊んでいた時に...蜘蛛の魔物に襲われました。」
「!」
「魔物はサラを襲いました、私の目には血を流したサラが写っていました。...その時に、私はサラの内にある[本性]を見ました。」
「本性?サフラのか?」
「...そこから先を聞くのは私も初めてだわ、メリー。二人はどうやって生き延びたの?」
「...魔物は倒されました。」
「騎士団にか?」
「サラが殺しました。」
「!?」
「今でも強烈に覚えています、魔物に噛まれ動けないはずのサラが魔物に何度も石を叩きつける姿を...。」
「そんなの...聞いてる限りじゃサラは重症じゃないの!?」
「サラには関係なかった。自分が大怪我しているのにも関わらず、ずっと叩き続けた。...笑いながら。」
「....!!!」
「心当たりがあるわ、入学した頃の魔物襲撃の...あれがそうなの?」
カメリアは思い出す。
魔剣を得て傷だらけであるにも関わらず、
魔物と己の血に濡れ笑うサフラの姿を。
「...うん。」
「それが...サフラさんの裏の顔...。」
「なんでそうなるのかは私にもわからない、でも今のサラが危ない事に変わりは無い。だから私は...もっと強くなりたいの。サラだけを危ない目に遭わせたくない、親友だから。」
「... もし今後時間があるならばだ、教頭先生を尋ねるといい。あの方は元騎士団指南役だ、覚悟があるなら...な。」
「私も行くよメリー、今のを聞いて黙っていられる私じゃないわ。」
「リズ...うん、頑張ろうね!」
「いいですね、誰かのために戦う覚悟というのは。」
「クフェア先輩も来てくださいね。」
「わかりまし....とぅあ?」
「現役暗殺者の身体能力も学んでおきたいので。」
「後日よろしくお願いしますね...?」
目を逸らし難い視線がクフェアを襲う!
クフェアは断れない!
「...はい。」
「ハッハッハ!流石の暗殺者様でも女性のお誘いは断れないんだな。」
「やめてください...。」
「そのくらい堂々と断れ。」
「いえ、それは流石に.....ッッ!!?」
ガキィンッ
「...ほう?この一撃を止めるとはな。」
「いい加減にしなよ、死んでいた方が良かったかもしれないのに。」
遺体が1人分無い。
いや、最初から1人だけ生きていた。
死んだふりをしていた。
「アジサ...貴様なぜ!?...魂喰者を使ったのか!!!」
「そうだ。」
「ソウル...イーター?」
「[禁術]と呼ばれる魔法の一種です。弱った者のエネルギーを自身のエネルギーへ変換、奪われた者は生命維持が出来ず...死に至る。」
「!?」
「お前...アイツらが死ぬ直前に使ったのか!?」
「そうだ。彼らもまた正義の犠牲だ。」
「...理想のためなら仲間でさえも...ふざけるな!!!」
「黙れ。」
「あ゛っ...!?」
クフェアの首に黒いモヤが巻き付く。
「ぐっ...がぁ!」
クフェアはモヤを掴み引きちぎる!
「ほう、その程度は魔力が残っていたのか。」
「クフェア先輩!」
クフェアはアジサの魔法を解除するもその場に倒れてしまう。
「面白い事を聞かせてもらった、カメリア・レッドペタルだったか?」
「!」
「お前はサフラ・アコニリンと並ぶ実力者らしいな、それも幼い頃からの。」
「それがどうしたって言うの!」
「無論、ターゲットの友人でありそれ程の実力を持っているとならば尚更処理するべきだと言っているのだ。スリジャ・オーカ、お前もだ。」
「...!」
「そんな事は...させない!」
カメリアはアジサに武器を向ける。
アジサは部下が持っていた剣を拾う。
「私がお前を...ここで倒す!」
カメリアは駆ける!
「でやあああ!!」
「っ!」
アジサはカメリアの2本の剣による正面からの一撃を防ぐ、
だが。
「だ...い....!」
「!」
「車輪!!」
「うぉ!?」
カメリアは空中前転、アジサの剣を弾いた!
「喰らえダブル踵落とし!!!」
「ぁっ!?」
カメリアの攻撃はアジサに直撃、
そのままアジサを地面に叩きつけた!!
「なんだあの動き!?」
「メリー、貴方そんな事出来たの!?」
ドスッ
「!、メリー貴方靴に錘か何か仕込んでるの!?」
「正解、靴屋の人に内緒で仕込んでもらったの。今の技を実践するには重さが足りないからね。...ああ、金属を仕込んだのじゃなくて重力魔法の魔法陣を刻んでもらったんだ。」
「学生靴だよ...!?」
「...油断をしたつもりは無かった、今のはなんだ!?」
アジサはナイフに持ち替え襲いかかる。
「その動きなら...こう来る!」
「なっ!?」
カメリアはくるっと回り避ける、
「ふんっ!」
「ぐあああ!?」
なんとカメリアにはアジサの動きが見えている。
「ば...馬鹿な!?あり得ない!」
「あり得ない?サラは貴方をあっさり斬ったのだからこれくらい出来て当然だ!」
「あれは奇襲だ!」
「奇襲?それは貴方達が得意な事でしょ?プロフェッショナルがそんな言い訳すると思わなかったわ。」
「....うおおおお!!!」
...見える、
アイツの動きが視える。
「貴様を処理する!!」
理由はわからないけど、どう動けば良いのかがわかる。
「処理されるのは...。」
「!」
「お前だ!!!」
「ぎゃああああ!?」
カメリアはアジサの腕を負傷させた。
アジサは左腕を押さえ距離を取る。
「何故だ...何故だ!貴様は俺とレベルの差がありすぎる!!なのに...なぜ俺が負けている!?」
「知らない、ただ視えるだけだよ。」
「...なんだ!?」
カメリア自身は気づいていない。
「なんだ...カメリア・レッドペタルの体が...光っている?」
「淡いピンク色の...光....?」
カメリアの体に光が纏っている。
突然の事態に皆はただ驚く事しか出来ない。
「お前は...なんだ...一体何なんだ!?」
「私は...お前みたいな奴の手から...皆んなを守るただの学生だ!!」
『ならば見せよ、主の覚悟を。』
カメリアに纏う光が輝きを増す。
淡いピンク色の光は美しい赤色に変わり、カメリアの髪の毛先が赤く染まった。
「メリー...それは...何...?」
「私は...皆んなを守ってみせる!」




