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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第4話「オルフェンスの対岸」
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チャプター2 「黎明に至る道」4

「ここで問題になるのは大きく三つよ。誰が竜を倒すのか、竜を倒す武器を用意できるのか、そして残り時間よ」

「マリス……力を貸してくれないか?」

 竜という超越した存在。

 それを倒すことが可能な存在となると、人の理から外れた魔法使いが浮かんだ。

 彼女は申し訳なさそうに首を振った。

「無理よ。私やラピズはミシュルから動けない。竜を倒すとなれば、大魔法……いえ、その上の極大魔法を使わざるを得ない。そんなことをしたら、イディニアとの契約を破ることになって、問題になるわ」

 マリスが断るのはわかっていた。ミシュルにいる二人の魔法使いマリスとラピズは、その力をイディニアに貸す代わりに、一定の地位や資金を得ている。無断で大きな魔法を行使すれば、立場を悪くしてしまう。

「そうだよな。他に誰がか……やっぱりセリックさんだよな」

「私が知る冒険者の中でも実力はあるわ」

「セリックさん、受けてくれますかね?」

「一度、話してみるよ」

 確実ではないが、可能性が高いのはセリックしかいない。冒険者であるセリックが善戦して、どうにか片目を潰したのがやっとだった。あのままセリックが戦い続けたとして、竜を倒せたかというと難しいだろう。

 けれど、竜を倒す自信がなければ、彼は「倒せる」と口にしないだろう。だから、その言葉を信じてみたい。

「誰が倒すのか、その候補は決まりね。問題はあと二つあるわ。まずは武器から話をしましょうか」

「マリスが言うということは普通の武器じゃないんだろ?」

「竜を倒すには竜核と呼ばれるものを壊す必要があるわ。でも、この竜核は魂の結晶だから、普通の武器では壊せない。同質の武器が必要になる」

 魂の結晶。その言葉を聞いて祖父であるジェームズ・アルスハイムの研究を思い出した。だから、フィルは無意識のうちにマリスから視線を外し、しかし、すぐに戻した。

「逃げるの?」

 マリスの責めるような視線が居心地が悪かった。強く責めて立てるわけではなく、隠しごとをしている子供を咎めるようなものだった。

「いや……俺には作ることが難しいと思ったからだよ」

 フィルはそう答えるしかなかった。マリスが大きく溜め息を吐いた。

「違うわ。あなたは祖父であるアルスハイム翁の研究から目を背けたのよ。あなたがアストルムのことをどう思ってるか知っているつもりよ。それは優しさだと思うわ。でもね、アストルムの根幹である疑似魂……魂についてのことを向き合わないのは、アストルムに、そしてアルスハイム翁に失礼だわ」

 マリスの言葉はその通りだ。

 フィルが自分が祖父のこと、アストルムのことを直視しないことに、彼女が苛立ちと怒りを覚えるのも無理もない。

 フィルもそれはわかっている。

「俺は……」

 フィルは続く言葉を探した。

 何かを紡ごうとするが、胸の奥に生まれた感情たちをどう表現したらいいか、言葉が見付からない。

「フィルさんが辛いなら……私が代わりにやりましょうか?」

 レスリーがこちらを気遣って申し出てくれたことは嬉しいが、フィルは首を振った。

「ありがとう。でも、……これは俺が向き合わないといけないことなんだ」

 言葉にして自覚した。

 けれど、その覚悟はまだ自分にない。

「いくらでも悩みなさい。と言ってあげたいけど、最後の問題があるわ。儀式魔法を完了させるまでの猶予時間よ」

「あとどのぐらいなんだ?」

「伝承には、『月が九度』とあったのよね? それを考えて十日ね。プロタクラム都市群遺跡からミシュルまでの移動時間で二日、そして今だから……残り六日日と半日ね」

「それでも……六日……プロタクラム都市群遺跡まではミシュルから二日ですよね? じゃあ、竜を倒すための準備に五日もないんですね」

「だから、あなたが悩める時間は多くないの」

「わかった。――レスリー、しばらくは工房を閉めることにしよう」

「そうですね……状況が状況ですからね」

「私はラピズにも手伝ってもらって、プロタクラム都市群遺跡の伝承について調べてみるわ。儀式魔法を発動させてしまっているとはいえ、伝承の全貌を把握しておかないと、何か大事な見落としがあるかもしれないからね」

「頼む」

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