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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第4話「オルフェンスの対岸」
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チャプター2 「黎明に至る道」2

「フィル……フィル……起きなさい」

 声と共に身体が揺れる感覚がある。

 フィルはゆっくりと目を開ける。

 マリスとレスリーの顔を確認し、思考が徐々に明瞭になっていく。二人の顔を見て、自分の身体を確認すると薄手のブランケットが掛けられていた。二人のどちらかが掛けてくれたのだろう。

「寝てたのか。……マリス、アストルムは?」

「ついさっきまで彼女を看ていたところよ。私の話の前に、レスリーちゃんが買ってきてくれた朝食を食べなさい」

「私が朝食買って戻ってきたら綺麗に夢の世界に行っていましたよ」

 レスリーが袋を差し出してくれた。

「はい、冷たくなってますけど、サンドウィッチどうぞ」

「ありがとう」

 袋からサンドウィッチを取りだして頬ばった。一口、二口と咀嚼し、嚥下する。

 フィルは朝食を食べ終わると、マリスとレスリーと一緒にアストルムが眠る応接室に向かった。

 しかし、マリスはドアの前で足を止めた。

「念のために確認するけど、レスリーちゃんはアストルムのことわかってるのよね?」

 マリスの質問は、アストルムが人間ではなく魔導人形であること、それを理解しているかの再確認だ。

「はい、わかっています。わかっているつもりです」

「……それなら私はいいけど、フィル、あなたも彼女に見せるのはいいのね?」

 フィルが頷くとマリスは応接室のドアを開けた。

 ソファに横たわるアストルムに近づく。彼女の服の胸元がはだけており、白い布が掛けられていた。

「今からこの布を外すけど、いいのね?」

 マリスの念押しの確認にフィルは頷いた。

「レスリーちゃんは?」

「大丈夫です」

「わかったわ」

 布が剥がされると白くなめらかな曲線を描いていたであろう左胸部のパーツが外されて、内部構造が露わになっていた

 隣でレスリーが息を飲んだのが伝わって来た。

 無理もない。

 普段はアストルムが認識阻害魔法を常時発動して、球体関節や顔の造形など人形らしい特徴を消している。だから、アストルムが魔導人形だとわかっていても、人間と同じように思えてしまう。

 そう思っていたことを目の前に映るものが否定する。

「アストルムの胸部にあるの部品は三つよ。この金色蚕のたくさん繋がっているものが魔力炉、その隣に暗く光っているのが内蔵魔法術式を封じた魔石、そして一番奥にある保存容器の中にあるのが結晶が疑似魂よ」

 アストルムの胸部の構造は複雑であるが、それ故の美しさがあった。しかし、それは同時にフィルの胸にズキリと痛みを起こした。

 その痛みを鈍く感じながらフィルはマリスを促した。

「それでアストルムはどうなんだ?」

「今の状態は器だけ残して疑似魂が抜き取られていると言ったらいいのかしら。今ここにあるのは疑似魂の外殻だと思っていいわ。本来この疑似魂は、赤く輝いているのよ。でも、今はその輝きがないの」 

「それって……その……アストルムさんが亡くなったってことですか」

 レスリーは何かに縋るかのように両手を重ねて握りしめていた。

「違うわ。私が調べた限りで外傷はない、魔力によるダメージもない。魔力炉はアストルムの機能維持に必要な魔力を生成している。その他の部位も問題無い。でも、疑似魂の輝きだけがないの」

「マリスが言いたいのは、アストルムが死んだというわけではないということでいいんだな?」

「その理解でいいわ。二人から聞いた石碑の内容から、私はアストルムの疑似魂が連れていかれたと考えるわ」

「どこにですか?」

「オルフェンスの対岸よ」

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