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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第3話「流星トロイメライ」
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チャプター5 「星祭りの夜に」7

「先ほど披露されたアーティファクトは素晴らしかったですね。若さ故の個性的なアーティファクトでした。アルスハイム工房のフィルくんもそうですが、ぜひうちのルーシーも憶えて帰ってください。私も彼女の活躍には期待しているんです」

 ここからはミーシャの時間だ。

 どんなアーティファクトが出てくるのか、素直に楽しみだった。

「さて、次は私、ミーシャ・ルゾカエンのアーティファクトの披露ですね。先の二人ほどお時間は取らせません。皆様、私の後に控えているマーヴィス翁のアーティファクトを早く見たいでしょうしね」

 ステージに立ったミーシャは大ホールの端から端まで見渡した。

 会場中の視線がミーシャへと集まる。フィルも彼女がどんなアーティファクトを出すのかと固唾を飲んで見守っていた。

 ミーシャは小さなバッグを持っているぐらいで、それ以外、何も持っていない。それに入りきるサイズのアーティファクトになるのか?

「私がどんなアーティファクトを持ち出して、どういう効果を見せるのか気になりますか? まず皆さんは既にこのアーティファクトの効果を目にしていてる……いえ、目にしてないとも言えますね」

 彼女の発言の意図を図りかね、ステージ上のランドリクが眉間に皺を寄せている。

「つまりどういうことだ?」

 ランドリクの問いにミーシャは答えずに微笑んでいる。

 彼女の微笑みに大ホール全体が困惑し始めた頃、笑え声が聞こえた。

「あはは。ダメだ、我慢できない」

 その笑い声はミーシャのものだ。

 しかし、ミーシャは微笑んだまま、口元一つ動かしていない。

「そろそろ、タネ明かしをしようか。――おい、いいぞ」

 微笑んでいるミーシャは、右手側の空間に手を伸して、何かを掴むような仕草をして、一気に引いた。するとミーシャ(・・・・)が姿を現した。

「ミーシャが二人……」

 フィルが驚き言葉を失っているのと同じように、隣のルーシーも驚いていた。二人だけではない、来賓たちも同様だった。そんな反応を気にする様子もなく、姿を現したミーシャはもう一人のミーシャから一枚の布を受け取った。

「皆様、改めて、ミーシャ・ルゾカエンです。急に私が姿を現して驚かれたと思います。私が手に持っている布は『姿消しの薄布』と言って――」

「待て待て」

 思わず、ランドリクがミーシャの言葉を遮った。

「そっちよりも、今、お前の隣にいるもう一人はなんだ」

 その言葉にフィルは同意の意思を込めて大きく頷いた。フィルだけじゃない、ルーシーも、この大ホールにいる他の人たちも同じだだろう。

 突然、姿を現したミーシャのことも気になる、だが、それ以上に今もステージ上でニコニコと笑みを浮かべているもう一人のミーシャが気になって仕方ない。

「ああ、こっちの複写の方が気になるのね。こっちは昔作ったアーティファクトで、『複写の一滴』だよ。よくできているでしょ? こっそり入れ替わったことに誰も気が付かなかったようだね」

 そう言いながらミーシャはバッグから小瓶を取りだして、自分の隣にいるもう一人のミーシャに押し当てると、小瓶の中に吸い込まれて、粘度が高そうな銀色の液体に変わった。ミーシャは小瓶を揺らした。

「この銀色の液体の製法は秘密ですが、これに私の血を一滴垂らすと、先ほどまで居たようにもう一人の私の形になります。あとは光魔法ベースのアーティファクトで服装などを整えてやれば出来上がり。ただ自分で思考することはできないから事前に何をさせるのか、何を喋らせるのか決めてやらないといけない。自分で考え、行動させる。それは難しいからね。もしも、そんなアーティファクトを作ることが出来たら、マーヴィス翁の箱庭世界(スモール・ワールド)のようにエピック・アーティファクトになるだろう」

 フィルはミーシャが残念そうに言うのを聞きながら、この場にいるアストルムの事を思っていた。

 人間のように思考し、行動するアーティファクト。

 それを具現化したと言えるのは、魔導人形アストルム。

 フィルはアストルムの詳細な図面や魔法理論を知らない。魔導人形アストルムのほとんどを組み上げたのは祖父のジェームズとマリスとラピズの二人の魔法使いだ。フィルはジェームズが亡くなった後、アルスハイム工房の奥で眠っていた彼女を組み上げて最終調整しただけに過ぎない。だから、彼女の記憶がどこに保存されているのか、彼女がどうやって思考しているのか、そこにどんな魔法理論が使われているのかの詳細を知らない。今のフィルには考えが及ばない。そして、ジェームズが見ていた領域は、ミーシャですら届いていない領域だ。

 いつか祖父が、アストルムに、魔導人形に込めた想いを知ることができるだろうか。

 フィルは意識をステージに戻すとランドリクとミーシャのやり取りが続いていた。

「だいたいこれを作ったのは学生の頃だから古いのよ。今だから言えるけど、身代わりで授業の代返させていたんですが、それはこの場だけの秘密にしてください」

 ミーシャの茶目っ気のある告白に来賓たちは笑いを漏らした。

 フィルはミーシャが披露するエピソードにただ打ちのめされていた。学生時代に複写の一滴を作った。これが天才であるミーシャ・ルゾカエンだ。

「姿消しの薄布は、ある洞窟の奥に群生している光喰花(こうばみか)から抽出したエキス、それと漆黒鳥の――。おっと失礼、喋りすぎてしまうところでした」

 咳払い一つ。

「先の二人ほど、面白みがあるアーティファクトではないですが、どうでしょうか?」

 ミーシャが大ホール内を眺めるように視線を向ければ、それに応えるように割れんばかりの拍手が響いた。

「ありがとうございます。では、最後はマーヴィス翁。お願いします」

 そう言ったミーシャはステージから降りた。

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