表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第3話「流星トロイメライ」
83/146

チャプター5 「星祭りの夜に」4

 大ホール内を歩いていると見知った女性の姿があった。彼女は丁度男性との話を切り上げたところだった。

「ライラさん、お久しぶりです」

「……あら? フィルさんとルーシーさん、お久しぶりね」

「覚えていてくださったんですね、ありがとうございます」

「もちろんよ、ルーシーさん。お二人には以前の依頼に尽力していただいたのですから、忘れるわけがありません」

 流れるような金髪と黒のパーティードレスを着た女性はライラ・プレストンだ。数ヶ月前に彼女の依頼をアルスハイム工房とルゾカエン工房が請けたことはまだ記憶に新しい。

「お二人もレセプションパーティーに招かれていたのですね」

「今日は俺とルーシーはこのあとミシュルの若手魔導技士として、アーティファクトの披露なんです」

「それはすごい。お二人であれば良いアーティファクトを作られたことと思いますので楽しみにさせていただきますね」

 自分のように喜んでくれるライラの笑顔に、最愛の人を亡くして哀しみの淵にいた面影はもうなかった。アルスハイム工房が作ったアーティファクトが彼女を前に進むキッカケになったことを嬉しく思った。

「ライラさんは最近どうされているんですか?」

「モーリスから引き継いだ会社関係がまだまだバタバタしてるわね。いろいろな人に支えてもらってやってるわ」

「とても大変そうですね」

 ライラは屈託のない笑顔でその言葉を否定するように首を振った。

「それでも楽しいわよ。――申し訳ないですが、失礼するわ。なにかあれば私を頼ってください。お力になれることもあると思うわ。また私が困ったことあればアルスハイム工房、ルゾカエン工房を頼らせてもらうわ」

 ライラは会釈をして、顔なじみと思われる人たちの会話の輪に加わった。

「本当、セレブばっかりよね」

 そういうルーシーの手には、いつ手にしたのか、赤みがかった紫色の液体が入った小さなグラスがあった。

「まさか酒飲んでないよな」

「ただのジュースよ。さすがに私だってこの後のことを考えてお酒は飲まないわ」

「安心したよ」

「もう少し私のことを信頼してくれてもいいんじゃない?」

 不満げなルーシーの視線から目を逸らすと、歓談の輪から外れたマーヴィスの姿があった。彼の隣には先ほどもいた若い女性が付き添っていた。今も女性はしきりに何かをマーヴィスに言っているようだが、マーヴィスはただ首を振っていた。

「ルーシー、今ならマーヴィス翁に声を掛けられるぞ。行こう」

 フィルはルーシーを連れて、マーヴィスの元へと向かった。

「マーヴィス翁!」

 フィルの呼びかけにマーヴィスは大きく目を開いて笑顔を作った。

「久しいのう、ジェームズの孫よ」

「ご無沙汰しています。フィル・アルスハイムです」

 フィルにとってマーヴィスは目指す頂点であるが、それ以前に祖父の友人でもある。フィルとマーヴィスの親交は深くないが、幼い頃に工房に遊びに行くたびにマーヴィスの姿があった。二人にアーティファクトの話を聞かせてもらったり、簡単なアーティファクトを作ってもらったりしたのを今でも覚えている。そう言った経験があったからフィルは魔導技士になった。

「元気そうで安心したぞ。最後に会ったのは……確か……」

「五年ほど前です。私と隣にいるルーシーが祖父の工房を改装しているときです」

「おお、そうじゃった、そうじゃった。この歳になると時間感覚もよくわからなくなってのう。隣の美人があの時の娘さんか」

「ルーシー・アレグリアです。私のことも覚えていてくださり、光栄です」

「美人のことを忘れるわけはなかろう。フィルはどうじゃ?」

「どうにかやっています」

 フィルがそう答えるとマーヴィスはゆっくりと深く頷いた。

「ゆっくり、焦らずやりなさい。魔導技士の道、アーティファクトの行く末はまだまだ果てしない。立ち止まったり、躓いたり、多くのことがあるかもしれない。それでも歩き続けなさい。他の光が眩しく見え、羨ましくなるだろう。それでも、君たちが求める光を信じなさい。そうすれば――」

「おじいさま。あまり饒舌に喋りすぎますと、フィルさんたちも困りますよ」

 マーヴィスのしゃべりに釘を刺したのは、彼の後ろに控えている女性だった。

「おお、アマリス、すまん。すまん。つい喋りすぎてしまうのは悪い癖じゃ。そうじゃ、紹介をまだしておらんかったの、孫娘のアマリスじゃ。さっきから喋りすぎだと注意されておる」

 マーヴィスにしきりに耳打ちをしていたのは、彼が喋りすぎないように声を掛けていたのかと、フィルは合点がいった。

「初めまして、みなさん。アマリス・フォスターです」

 アマリスがそっと差し出した手を握った。

 マーヴィスにアマリスと紹介された女性はフィルやルーシーと同い年か少し年下に見える。綺麗な灰色をしたショートカット姿はメガネを掛けている彼女の印象を知的なものにした。彼女が着ているワンピースドレスはバラ色を帯びた灰色で、それが落ち着いた様子を醸し出していた。

「アマリスはまだ魔導技士になって二年弱ぐらいの駆け出しじゃ。今後なにかあった時はよろしく頼む」

「もちろんです」

「アマリスさん、フィルだけじゃ、心配だから私のことも頼ってくださいね」

「ありがとうございます。ルーシーさん」

「若い者同士、仲良く、そして切磋琢磨しなさい。それが大事なことであり、互いのためになる。――すまないが、このあたりで失礼するよ。そろそろ魔法理論学会やら政治家連中に顔を出さねばな」

「大変なんですね」

「ワシのような立場には義務と責任があるから仕方ないのじゃよ。――お主らはこの後、アーティファクト披露じゃったな。楽しみにしておるぞ」

 マーヴィスの言葉にフィルは気を引き締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ