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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第3話「流星トロイメライ」
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チャプター4 「見えなくても伝わるもの」9

 フィルとルーシーが工房に籠もってから四日目の朝を迎えていた。星祭りまであと二日になっていた。

 アストルムはダイニングの時計を確認した。そろそろ朝食の準備をしなければならない。

 いつものように冷蔵庫を確認して、朝食の準備を始めた。

 鍋の水はポコポコと音を鳴らし、野菜を刻むリズムが、キッチンに響く。

 静かな時間。

 アストルムが好む時間の一つだった。

 準備した朝食をトレイに載せて、工房へと向かう。

 中から二人の声は聞こえない。

 作業に集中しているのだろうか。

 アストルムは中の様子を伺うようにゆっくりとドアを開けた。

「おはようございます。朝食をお持ちしました」

 やはり工房内は静かだった。昨日までは静かな中に作業音や相談や悩んでいる声が聞こえていた。しかし、今はそれがない。

 アストルムの視線が中央の作業台に向かうと、そこには二人が突っ伏して眠っていた。寝息を立てる二人の近くには完成したのであろう番い人形の姿があった。

 アーティファクトを作り終えて力尽きたのだろう。

 その光景を見たアストルムは、自分の中にある過去記録を参照していた。フィルとルーシーは、二年ほど前までこの工房で議論を繰り返したり、アーティファクト製作したり、そして今のように眠りこけていた。

 過去の記憶を参照し、今に重ねる。そんな事象がアストルムには時折起きていた。

 ルーシーがまた工房を訪れたことで、記録との類似事象が発生し、それにより記録を連想参照しているのだ。

「懐かしいですね」

 アストルムは口から漏れた言葉は、自己の選択によるものではなかった。

 だから、アストルムは疑問を持った。

 なぜ、その言葉が口から出たのだろうか。

 思考する。

 普段、フィルたちが見せる感情や表情から推定する。

 懐かしさ。それは過去の出来事に想いを馳せ、大切に思う感情だろうか。

「だからですか」

 自分が過去記録を参照したことで、あるはずのない感情である『懐かしさ』を連想した。そうアストルムは結論づけた。

「そしてこの胸に生まれた温かい何かが、愛おしさと呼ばれるものでしょうか」

 推定した感情とそれに纏わる情報を記録保存した。

「……お疲れでしょうから、もう少しお休みください」

 アストルムは手に持った朝食をそのままにドアを静かに閉めた。

「これは冷蔵庫に入れることにしましょう」

 アストルムは朝食を冷蔵庫に入れると、ダイニングテーブルで読みかけの小説を手に取った。

 しばらくすると二階からレスリーが降りてきた。

「おはようございます、アストルムさん」

 元気な彼女の声にアストルムは口元に人差し指を立てた。

「おはようございます。工房でフィルとルーシーが寝ているので、声は控えめにお願いします」

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