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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第3話「流星トロイメライ」
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チャプター4 「見えなくても伝わるもの」3

 中央区の広場に向かいながら、ルーシーにランドリクの工房の場所を確認した。

「俺はランドリクさんの工房に行ったことないけど、確か北区だったよな」

「ええ、北区の端よ。大きな……というか、いかつい工房だからすぐにわかるわよ」

「じゃあ、循環馬車に乗っていくか」

 ミシュルは東西南北と中央の五つの区に分けられている。各区を行き来するために市民の足として循環馬車が重宝されている。

 フィルとルーシーは循環馬車に乗り込んだ。

 馬車に乗って、落ち着いてミシュルの街を眺めてみれば、星祭りに向けた準備が出来ていて、普段のミシュルよりも賑やかで活気づいて見える。

「すっかり星祭りね」

「来週には当日だからな」

「あっという間ね……」

「俺らのアーティファクトはまだ出来てないけどな」

「それは言わないでよ」

 二人して大きく項垂れた。

 そう、あと一週間。

 たったそれだけの時間しか残っていない。

「どうにかなるさ。何を作るか、その為に何が足りないか、それがわかっているんだ。あとは一つずつ解決して進んでいけば終わるよ」

「そうね、がんばりましょう」

 北区の広場に循環馬車が着き、スペンサー工房を目指して歩き出す。

 ミシュルの北区の端にスペンサー工房があった。平屋建ての工房はその大きさだけであれば、アルスハイム工房の五倍近くはあるだろうか。屋根には大きな煙突がいくつも生えていて、モクモクと煙を吐き出していた。外に掛かった無骨な看板は工房長であるランドリクを表わしているようだった。

 工房に踏み入れて受付にランドリクの所在を聞くと、奥の工房に通された。

「あつっ」

 思わず顔をしかめるほどの熱風が開けたドアの向こう、工房から吹いてきた。

 熱の正体は工房内にいくつも存在する炉だ。

 炉で金属を熱してハンマーで叩いて延ばしている。だから工房内には金属をハンマーで叩く甲高い音がいくつも響いている。奥の方からは熱した金属を水に付けることによる蒸発音が聞こえてくる。工房の湿度は高く何もしていないフィルとルーシーの額にも汗が滲んできた。

「ランドリクさん!」

 工房の奥でハンマーを振るっているランドリクの姿を見つけて声を掛けると、彼はこちらに気が付いて手を挙げた。

「ちょっと待ってろ!」

 野太い声が工房に響いた。

 ランドリクは持っていたハンマーを従業員に渡して何やら指示を出してこちらにきた。

「おう、二人とも、元気か? いや、だいぶ深刻な顔してるな、俺に何の用だ?」

 ランドリクは流れる汗を首に下げたタオルで拭った。

「実は――」

 フィルはここに来た理由が双子岩の欠片の採取だと伝えると、ランドリクは両腕を組んで大きく頷いた。

「それで俺に来たってわけか! 今回のレセプションパーティーの魔導技士の責任者は俺だ。だから、君たちに協力することは構わない」

 深く頷くランドリクに、フィルが身を乗り出す。

「じゃあ!」

「ああ、じゃあ、明日の朝、大陸横断列車の駅前広場集合な。馬車の手配はこっちでしておくから、手ぶらでもいいぞ。あー、鍾乳洞に入るから魔導ランタンぐらいは用意しておいてくれ」

「は?」

 フィルが困惑するのを余所にランドリクは話を進める。

「山登りになるから動きやすい服と靴で頼むぞ」

「山?」

「ミシュルの北、バロンド山だ。険しい山でもないし、危険な動物もいない、気楽に構えてくれ。なにかあれば、俺がどうにかしてやるよ」

 バシバシと力強くフィルの背中を叩く。

「えっと……あのー、そうじゃなくて……」

「いえ、……ランドリクさんにお願いしたくて……それに私たちはもう残り時間もあまりなくて、ランドリクさんに双子岩の欠片の採取をお願いしてる間に少しでもアーティファクトの製作を進めたいんです」

 ルーシーが自分たちの状況を説明する。しかし、ランドリクはフィルとルーシーの頭に手を置いた。無骨な手が二人の頭を乱暴に撫でる。

「うわっ……!」

「ちょっ……ちょっと、なんですか……!」

「二人の事情はわかってる。星祭りまであと一週間。時間がないのに、素材の話を俺にしてきた。進捗が思わしくないことぐらいわかる。二人共、どうせ、ほとんど工房に籠もりっぱなしだっただろ。目の下の隈がひどいじゃないか。焦る気持ちは理解するが、気分転換だと思って付き合え」

 ランドリクは頭を撫でるのを止め、話を切り上げた。

「とにかく明日はバロンド山に行くぞ。それが双子岩の欠片を採取する条件だ」

「……わかりました」

 フィルは彼の言葉に従うしかなかった。

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