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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第3話「流星トロイメライ」
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チャプター4 「見えなくても伝わるもの」2

 フィルはルーシーからサンドウィッチを受け取って口に詰め込んだ。

 まずは食べて、それからだ。

 サンドウィッチを咀嚼して飲み込んで、次の一切れに手を伸す。アストルムが持ってきてくれたサンドウィッチを食べ終えて、フィルがルーシーに話を切り出した。

「なあ、ルーシー」

「わかってるわよ。動きを真似する方式にしたいんでしょ?」

「アーティファクトに学習させる方式だと、どうしてもアストルムがよぎる。そうなったら、これから製作するアーティファクトとアストルムを……否が応にも比較してしまう。だから、俺は別の方式でやりたい」

「なら、どうやって実現するかよ。あんたが言ったように、魔力で生成した棒で繋いだところで表現できる動作が制限されるわ」

「じゃあ、そういった物じゃない方法で、動きを伝えることができればいいんだよな。相手の動きを見て真似るなら……目で見て、どうやって身体を動かしてるかを考えるよな。どっちの方向か、速いのか遅いのかとか」

「目で見てね……。番い人形にずっとこっちの動きを見させるんじゃ、ダンスさせるには不格好よね」

「動きの真似……動かし方……速さ……。関節が動く方向とその速さを伝えられたらいいんじゃないか?」

「待って。それなら……関節の動作方向と速度を……解析して……付随情報として」

 ルーシーは何かを閃いたのか、こちらを制止して、口元を押えて、自分の考えを確かめるように口早に呟いていたと思ったら、突然立ち上がった。

 素材が収納されている棚の方へと歩いていき、棚の扉を開いて「違う、違う、これじゃない」と何かを探し始めた。

「おい、ルーシー、どうしたんだよ。何探してるんだよ」

「双子岩の欠片よ!」

「うちにはないぞ」

「なんでないのよ!」

「なんでって……流通量が少ないし、そもそもうちの工房で普段から使うような素材じゃないんだよ」

「じゃあ、うちの工房って……あっ、切れてるんだったわ。マリスさんのところに行きましょう!」

「何を思いついたんだよ」

「あんたがさっき言ったでしょ。関節が動く方向と動作速度を解析して伝えられればいいのよ。解析手法はどうにかできると思う。けど、問題はどうやって伝達するか。それなら魔力伝搬特性を持った双子岩の欠片使うの」

 そのひと言で、ルーシーが考えていることを理解出来た。

「解析した情報を双子岩の欠片を活用して番い人形に渡すのか!」

「そういうことよ! 早く行くわよ!」

 興奮した様子のルーシーに手を引かれる。フィルはよろめきそうになりながら、彼女についていく。

 アルスハイム工房の外に出ると雲一つない青空が広がっていた。中央通りを抜けて辿りついた『黒猫の住処』は、壁には相変わらず無数のツタが絡まっていた。

 ドアを開けると、商品棚が並ぶ店内の奥、カウンターで読書中だったマリスがこちらを見た。マリスは本を閉じて、いつものように気怠そうに口を開いた。

「あら、フィルと……また珍しいお客さんも一緒ね」

「マリスさん、ご無沙汰しています」

「ルーシーちゃんは一年以上会ってないわね。元気だった?」

「お久しぶりです、なかなか顔を見せられなくてすみません。今日は双子岩の欠片を買いにきたんですがありませんか?」

「双子岩の欠片……また珍しい物が必要なのね。どうだったかしら……」

 マリスは立ち上がって、奥からノートを取り出してなにかを確認しているようだった。ペラペラとページをめくって首を振った。

「残念。在庫切れ。元々、そんなに需要がないから、以前に仕入れてそれっきりね」

「どうにかなりませんか!」

 ルーシーはカウンターから身を乗り出した。マリスはそれに驚いて思わず、仰け反ってみせた。

「ないものはないわよ。発注してくれるなら、今から手配するけど……一週間ね、どうする?」

「ごめん、マリス。そんなには待てないんだ。来週のレセプションパーティーに向けて、ルーシーとアーティファクトを作っていて、双子岩の欠片がいるんだ」

「なるほどね。そんなに急ぐなら、自分たちで取りに行くしかないわね。うちや他の素材屋で取り寄せるより早いわよ」

「採取って言ったって、俺とルーシーだけじゃ」

「あとは誰か冒険者を雇って採取してきてもらったら?」

「冒険者なんて……誰か……いるわ!」

「いる!」

 フィルとルーシーは顔を見合わせて頷いた。

 一人いるじゃないか。

 普段なら何か頼むことすら気が引けるが、今の状況なら話ぐらいは聞いてくれる人物がいる。

「ランドリクさんなら、こっちの事情もわかってるから話を聞いてくれるかもしれない」

「ええ、工房に行きましょう!」

「マリス、ありがとう」

「解決したらならいいけど、またいつでもいらっしゃい」

 フィルとルーシーは慌ただしく黒猫の住処を後にした。

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