表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第3話「流星トロイメライ」
63/146

チャプター2 「焦がれる天の高さ」6

 今度は間違えていない。

 彼女は橋の欄干に突っ伏しているようだった。真っ赤な髪は心なしかその色がくすんでいるようでいて、気力を無くしているのがわかった。

 フィルは呼吸を落ち着けて、ゆっくりと歩いて近づく。ルーシーはこちらに気が付いていない。彼女の隣に立った。近すぎず、遠すぎない距離だ。

 彼女の啜り泣く声が聞こえた。それがフィルの胸を締め付けた。

 どう声を掛けるか悩んだが、フィルは素直な感想を口にした。

「……全く、ひどい話だよな。一生懸命考えたのに、つまらないなんて」

 ルーシーは弱々しくこちらに顔を向けた。彼女は身体をゆっくりと起こして、頬を伝う涙を拭った。夜の暗さでも、空に輝く月の光で、ルーシーの目が真っ赤に腫れているのはわかった。フィルがここに来るまでずっと泣いていたのだろう。いつもの強気な彼女の意志を感じることができなかった。

「ごめん」

 ルーシーは小さく謝罪を口にした。

「工房を飛び出しちゃダメだよね……。ミーシャさんの言葉は正しいよ。足りないものばっかりだったから……足りないばっかりの自分があの場にいるのが辛かった」

「気にするな……とは、言えないけどさ。またアーティファクトを考えよう」

 その言葉にルーシーはすぐに答えなかった。

 彼女は拭っても溢れ出す涙をもう一度指先で拭って、真っ直ぐとバロンド川を見た。フィルは半歩分だけ彼女との距離を詰めて、視線をルーシーと同じように欄干の先に向ける。

 バロンド川の水面に夜空の星と月が映り、その中にミシュルの街が放つ輝きが混ざる。

「ここからの景色、キレイだな」

 フィルが漏らした感想にルーシーは弱々しく笑った。

「私ね、このミシュル大橋から見るミシュルの景色が好きなの」

「……知らなかった」

「当たり前じゃない、あんたには初めて話したんだから」

 ルーシーはバロンド川の向こう側の街並みを愛おしそうに見つめていた。

「私は、朝の静かに眠る街も、夜の光が溢れる街も、好きよ。みんなが生きてる、暮らしてると思える。私は魔導技士としてまだ成してないことがたくさんあるけど、いつか私のアーティファクトで多くの人たちを笑顔にしたい。だから、ここに来て、いろんなミシュルを見て、がんばろうって思うの」

「またがんばれそうか?」

 問いかけにルーシーはすぐに答えなかった。フィルの目を見るルーシーの瞳は揺れていた。

「……少しだけ、そう、少しだけね、期待したの」

 ルーシーの声は小さく、そして失意と失望を帯びていた。

「ミーシャさんがああいう人なのは知ってた。けど、ほんの少し、認めてくれるかもって。それを砕くように、つまらないって言われるなんて予想してなかった」

 それからどれだけの沈黙があっただろうか。

 ルーシーは落ち着きを取り戻したようで、隣にいるフィルを見た。

「レセプションパーティーのアーティファクト、もう少し考えてみるわ」

 それだけ言って、ルーシーは歩き出した。

 去って行く彼女の手を掴もうと、手を伸そうとする、しかし、フィルは手を取ることを躊躇ってしまった。

 彼女を慰めるだけの言葉を自分は持っているのだろうか。

 そんな想いがよぎった。

 フィルは何も出来ない自分に無力さを感じながら、遠ざかる彼女の背中を見ていた。


もしよければ、ブクマや評価、いいね!を頂けるとモチベーションに繋がりますので、お願いします。読了でツイートしていただけるだけでも喜びます!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ