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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第3話「流星トロイメライ」
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チャプター2 「焦がれる天の高さ」1

 魔導技士連盟の会合の翌日、ルゾカエン第二工房の二階、小作業場の一つからフィルとルーシーの声が響いていた。

「だ、か、ら! それじゃあ、つまらないじゃない!!」

「ルーシーのアイディアだって変わらないだろ!」

「そんなことないじゃない! このアーティファクトの面白さがなんで理解できないのよ!」

「俺が理解できないのに、アーティファクトを見せられた他の人が楽しさわかるのかよ!」

 どういったアーティファクトを製作するかの打合せを開始して既に二時間が経過していた。

 しかし、レセプションパーティーに向けてどのようなアーティファクトを製作するか決まらないでいた。口論している二人の周りには何十枚もの紙が散乱していた。それらはアイディアのメモや、簡単な図面や魔法理論の走り書きが書かれていた。

 意見をぶつけ合う二人は肩で息をしていた。

 フィルは息を整えて、両手を胸の高さで挙げた。

「わかった。ルーシー、一回落ち着こう。お互いに主張しあうだけじゃ、建設的じゃない」

「確かに。その意見には賛成だわ」

 フィルの言葉にルーシーは前髪を掻き上げながら賛成した。

 落ち着きながらフィルは言葉を続ける。

「ルーシーが言っているアーティファクトはもっとシンプルでいいと思うんだよ」

「それじゃあ、技術力が示せないじゃない」

「レセプションパーティーの来賓たちに技術力を示したいのはわかるよ。でも、ランドリクさんから言われているのは『楽しめるもの』なんだ。来賓は魔導技士じゃない。だったら、アーティファクトを見ただけで楽しめる。そういうわかりやすいものにしないか?」

「……わかったわよ。とにかくわかりやすく楽しめるものね」

 ルーシーは納得はしていないようだが、理解はしたようだ。

「だから、まずは見た目でわかりやすいものがいいと思う」

 外見や効果発動時の初動で、見ている人たちの目を引くことが大事になる。これから何が始まるのか、そのドキドキやワクワクが今回は必要だ。

「そうなると……こうかしら」

 ルーシーが紙にペンを走らせる。フィルも自分のアイディアを紙に書く。

 難しく考えすぎていたのかもしれない。

 だからもっとシンプルに考えればいい。

 しばらくの間、沈黙が降りた。

 簡単な図面と魔法理論を紙に書いていく。

 あくまで概略と要点を簡単にまとめるだけに留める。

「書けたわ」

「よし」

 三十分ほど経過したところで、二人は同時に声を上げた。

「じゃあ、まず俺から。俺は氷の彫像だな。ある程度の大きさや造形なら魔法理論の調整で可能だと思う。ただ、彫像を作っても面白さはないから、数パターンに姿形を変えさせたり、あるいは形状によっては動かしたりしてみせてもいいかもしれない。大きい物が動くというのはそれだけで印象的だし、わかりやすいと思う」

「私は、音に合わせて動く光の像よ。レセプションパーティー当日は楽団が入ると聞いてるし、その音楽に合せて動くのは目を惹くと思うわ」

 お互いの意見を出したところで、改めて簡単な図面と魔法理論を並べて眺めてみる。

「音に合わせてだと、動作パターンの制御が難しくないか?」

「それは課題なんだけど……うまく制御できれば面白いと思うのよ。フィルの考えたアーティファクトだと造形変化や動作制御はどうするの?」

「造形変化については自由自在とはいかないから、それに沿った氷と水の魔法理論の用意しないといけない。動作制御は決まったものや単調なものなら仕込むことは難しくないと思う」

「それならどうにかなりそうね」

「だろ? ――ルーシーのアイディアにある動く光の像。光の像の部分なら、うちのレスリーが以前に絵本の登場人物や背景を浮かび上がらせて動かすアーティファクトを製作しているから、参考に話を聞くとかできるぞ」

「だいたいの部分は私に案があるからそれは大丈夫だと思うわ」

 お互いに考えたアーティファクトについて意見を交わしていく。

 問題はどちらの案を採用するかだ。

 フィルは自分でも自覚があるが、こういう時の魔導技士はめんどくさい。いつでも自分が考えたアーティファクトが最高だと考えている。だから、自分と相手、それを比べた時に圧倒的に自分が負けたと思わない限りは、一歩も引かない。

 本当にめんどくさい。

 だけど、自分が考えたものが最高だと自信を持たなければならない職業だと思う。

「俺もルーシー、何かが動く点では一緒か」

「視覚的にわかるものが一番楽しさが伝わると思うわ」

「それは同感だ、どっちの案にするか決める……と行きたいが、腹減らないか?」

 フィルがお腹をさすりながら、ルーシーに確認すると、彼女は真剣な顔から破顔して笑った。

「ちょうど、そう思ってたところよ」

「じゃあ、一回休憩にしよう」

 ルーシーが立ち上がって散らばっている紙を拾い始める。フィルも自分の周りに落ちている紙を集める。

 紙を拾いながら昼食の相談を始めた。

「南区はどこかいい飯屋あるのか?」

 フィルの質問に、ルーシーは拾い集めた紙を抱えながら答えた。

「よく行くのはカフェね。シーズン限定ランチが楽しみなの」

「そういうオシャレな雰囲気がしそうなところは落ち着かないんだよ」

 フィルは渋い顔をしながら、首を振った。

 女性に人気がありそうな店は、店内の客層も若い女性が多いことが容易に想像できる。そういう空間は男性であるフィルには肩身が狭かった。それを考えると、普段、足を運んでいる竜の大鍋みたいな大衆食堂の方がフィルにとっては気楽だ。

 フィルの反応にルーシーは、しょうがないわね。と笑ってみせた。

「はい、はい。じゃあ、フィルが落ち着きそうな場所にするわよ」

 お互いに散らばった紙を拾い集め終わったその時、小作業場のドアをノックする音が聞こえた。

「はい。どうぞ」

 ルーシーが答えるとトニーが顔を見せた。

「あら、二人とも休憩?」

「昼食を食べにいこうと思って、丁度区切りをつけたところです」

「アタシがルーシーちゃんに用があるときはいつもこのタイミングね。ごめんなさいね」

「いいですよ、それでトニーさんどうしました?」

「ミーシャちゃんに呼ばれて、第一工房に行ってきたんだけど、レセプションパーティーについて、ちょーっとだけ注文がついたのよ」

 フィルが魔導技士連盟の会合の時から、彼に抱いた印象は普段からにこやかで笑顔を絶やさず、面倒見が良いということだ。そんなトニーが今は困惑を浮かべていた。

 つまり、それだけめんどくさいことだと想像がついた。

「注文?」

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