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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第2話「星に選ばれた子」
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チャプター5 「魔法使いの誕生」5

 守護獣との一戦のあと、アストルムの応急処置を施して、フィルたちはアンテサリアの森の奥地へと足を踏み入れた。

 湖の水面は鏡のように夜空を映し、湖畔には大きな樹がある。

 ここが目的地である霊脈の湖だ。

「ここだ……」

 息を飲み、感慨深そうにエレナが声を漏らした。

「ここです! 私が夢でみた場所は!」

「やっと着いたんですね」

「さて、マリスから預かった魔石は……っと」

 喜ぶレスリーに頷きながら、フィルはマリスから預かっていた連絡用の魔石を取りだした。魔力を込めて起動する。

 魔石が起動すると、

『思っていたより早く着いたようだね。なにより無事に守護獣を倒せたようで安心した』

 マリスとその隣で不機嫌そうにしているラピズの姿がある。

「マリスさん、ラピズさん?」

 二人の姿を見て、レスリーが目を丸くした。

『こちらの声と姿は無事に届いているね。そちらの声と姿も見えているよ、よかったな、ラピズ』

『誰が魔法を構築したと思ってる。まったく、音と光をやり取りする魔法をすぐに作れなんて無茶な話はやめて欲しい限りじゃな』

「えっと……マリスさん、私はここまで来ましたけどどうしたら?」

『星の魔力。つまり、この場所では湖に入ってごらん。あとはあの子が勝手にしてくれるよ』

 エレナは緊張した面持ちでマリスの声に頷いて歩き出す。エレナの足が湖の水に触れると、湖面が淡く発光したと思ったら、無数の光の玉が湖から空へと浮かんでいき、消えていく。

「湖が……」

「綺麗」

 あまりにも幻想的な光景にフィルもレスリーも言葉がなかった。

「これはどういうことでしょうか」

『星の子が、エレナがこの場所に辿りついたことに喜んでいるんじゃよ』

 ラピズがぶっきらぼうに答えた。

『三人ともこれから起こることは目に焼きつけて起きなさい。この先、星に選ばれた子が魔法使いになる瞬間なんて見ることがないでしょうから』

 エレナに目を向けた。

 湖面から溢れていた魔力の光の玉が徐々にエレナを包んでいく。

「あの!」

『大丈夫よ、エレナちゃん。それは貴方に危害を加えないわ』

 戸惑うエレナをマリスは宥める。

 エレナの足元から頭のてっぺんまで、光の玉が包み込んだ。

 そして光が弾けた。

 そこにいたはずのエレナの姿が消え、先ほどまで無数にあった光の玉も消えていた。



◇◇◇



「ここは? ……私、浮いてる!?」

 エレナがまず感じたのは浮遊感だった。続いて得たのは視界に映る光景だった。さっきまでアンテサリアの森の湖に居たはずだが、まるで星空の中心に投げ出されたようにあちこちに無数の光が輝いて見えた。

 戸惑うエレナは息を飲んだ。

 その理由は、彼女が遙か遠くに見たものにあった。

 光の束が幾重にも縒られたうねりがあった。エレナからどれだけ遠くにあるのかわからないが、それでもあの光のうねりの巨大さはわかった。光のうねりを目で追いかけるとそれは大きな弧を描き、輪を描いていることに気が付いた。

「あれは……なに?」

 理解しきれないものを目にしたエレナの口からは純粋な疑問が零れた。

 その疑問に答える声があった。

「あれは命の循環だよ。星から生まれて、やがて星に還り、そしてあの循環の中で新しく生まれるのを待っているんだ。あのうねりだけじゃない、ここにある光全てが、命の輝きだよ」

 エレナは声に驚いて隣を見ると、そこには小さな子供がいた。金色の髪、男の子とも女の子ともわからない中性的な顔立ちをしている。

 ライアンと同じぐらいか、もっと幼いだろうか。

 私はこの子を知らない、いや、知っている。この子の声を知っている、知らない。不思議な感覚だ。初めて会ったのに、ずっと昔から知っているような気がする。どこか懐かしさすら覚える。

 子供はこちらを向いて、屈託のない笑みを浮かべた。

「やっと会えたね、待っていたよ。久しぶりかな? でも、初めましての方がいいかな?」

 知らないわけがない。

 知っているわけがない。

 でも、理解した。

 この子だ。

 この子が自分をこの場所に呼んだんだ。

「君が……星の子?」

 エレナがその名前を口にすると、頷いてみせた。

「君たちはそう呼ぶね。ボクには名前がないから好きに呼んだらいいよ。――エレナ・マイヤーズ、ごめんなさい」

 星の子は、突然、エレナに頭を下げた。

「星が君を選んだことで辛い思いをさせたね」

 彼は星がエレナを選んだことを謝っているんだ。

 星に選ばれることで、その人間の未来は大きく変わってしまう。それを星の子もわかっているんだろう。

 もしかしたら、彼は星に選ばれた子が星の魔力に触れて、この場所に来る度に謝罪をしているのかもしれない。

 エレナは彼の謝罪の言葉にエレナは小さく首を振った。

「辛いなんて決めつけないで欲しい」

 そう決めつけないで欲しい。

 星に選ばれた自分が、その運命を変えられないとしても、ここに来た理由(わけ)は自分で決めたものだ。

 自分が何を想い、何を決意して、この場所まできたのか。

 それを辛いと決めつけないで欲しかった。

 星の子はエレナの言葉にハッとした表情をした。

「……そうだね、ごめん」

 エレナは光のうねりを見ながら、決意を口にした。

「どうやって君を救うことができるのか、わからない。けど、がんばるよ」

「ありがとう。じゃあ、ボクの手を取って」

 差し出されたのは小さな手。

 エレナはその手を優しく握った。

 温もりが星の子から伝わってくる。

 指先から手のひらへ。

 手のひらから腕。

 そして全身へと広がっていく。

 この温もりの正体に、エレナは気が付いた。

「これは君の魔力……?」

「ううん。ボクを通して星の魔力が君に流れているんだ」

 全身を包む星の魔力は、やがてエレナの奥へと浸透していく。

 エレナ・マイヤーズという存在を定める根源である魂へと星の魔力が伝わる。

 嫌な感覚はない。

 それどころか安らぎを覚える。

「君の魂と星は繋がった。これから君はこの星を知ってもらうためにたくさんの情報に晒されるけど、大丈夫だから、怖がらないで」

「うん」

「じゃあ、いってらっしゃい」

 その声を聞いたエレナの意識は薄れていく。

「エレナ・マイヤーズ、君のこの先の道に最大の幸福があることを願っているよ」

 最後に星の子の言葉が遠くで聞こえたような気がした。


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