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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第2話「星に選ばれた子」
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チャプター5 「魔法使いの誕生」2

 馬車での移動は途中で休憩を挟みながらになった。アンテサリアの森に着いたのは、黄昏色に空が染まった頃だった。

 目的地についてフィルたちは馬車から降りて、載せていた荷物から必要なものを降ろした。

 移動時間のほとんどを寝ていたエレナとレスリーは疲労が抜けたようだった。

「じゃあ、馬車はここまでだ」

「ありがとうございます。ここから奥の湖行って戻ってくるので遅くなると思いますが……」

「俺はここで待ってるだけなので気が済むまで調査とやらをしてきてくださいよ」

 ひらひらと手を振る御者から離れて、フィルはポーチの夜染めの箱と指につけた星加護の指輪を確かめる。ポーチの中にはいくつの魔石とマリスから渡された連絡用の魔石が入っている。エレナは手ぶらだが、アストルムには必要な道具一式が入ったカバンを背負ってもらっている。

「じゃあ、準備は大丈夫か?」

「はい!」

 エレナの元気な声に頷いて歩き出した。

 アンテサリアの森。

 フィルが知っている範囲ではなんの変哲もない森だ。強いて言えば、アーティファクトの素材採取の場所だということだ。フィルたちが歩いている道も、冒険者たちがアーティファクトの素材採取依頼の時に踏み固められたものだ。それを頼りに森の北部にある湖を目指している。

 フィルが木の枝に目を向ければ、金色蚕がいるのがわかる。この蚕が吐き出す糸はアーティファクト作りでもっともよく使われる金色蚕の糸だ。夕日に照らされる木々の中に青白く光る木がある。それは水晶木だ。枝は魔力増幅でよく使われているものだ。目につく素材もこの場所だから採れるというものではない。

 アンテサリアの森が霊脈だ、聖域だという話も今回の一件で初耳だった。重要な場所であれば、イディニアが管理管轄しているだろう。しかし、そうではない。霊脈、聖域というのは魔法使いたちの間で認識されているに過ぎないと考えている。

 森に入ってから一時間程度経った頃にはすっかりと日が落ちていた。灯りとしてエレナに蛍火を出してもらって歩いてきた。

 フィルが仲間の様子をみるとアストルムとレスリーは平気そうな顔をしているが、エレナは少し疲れているのか足取りが重くなってきているように見えた。いくら踏みならされた道とは言え、慣れない道を歩いているのだから普段より疲労が溜まっているのだろう。一度休憩を挟んだ方がいいとフィルは判断して、レスリーに声を掛けた。

「レスリー、疲れたろ?」

「え? いえ全然、大丈夫ですけど?」

 突然聞かれたレスリーは、首を振って否定する。

 フィルは視線でエレナの方を見るように促しながら、もう一度問いかけた。

「レスリー……疲れたよな? 少し休憩しようか」

「そ、そうですね。そういえば、足が疲れた気がしますー」

「アストルム、休憩にしよう」

「わかりました……あちらに少しだけ開けた場所が見えますので、そこで休みましょうか」

 アストルムの視線の先には月明かりに照らされた場所があった。腰を掛けるのには十分な木も転がっているため、休むには丁度いいだろう。そこまで歩いていき、各々転がっている木に座ることにした。

 エレナは蛍火の光を強めて、広い範囲を照らすようにしてくれた。アストルムは背負っていたカバンから、軽食を包んだ袋と水が入った水筒を取りだして、レスリーとエレナに配っていく。

「フィルもどうぞ」

 アストルムから差し出された軽食と水筒を受け取る。

「ありがとう」

 水筒の蓋を開けて、水を流し込む。渇いていた身体に水が染み渡っていく。軽食の包みを開けるとハムとレタスが挟まったハンバーガーが入っていた。かじりついて空腹気味だった胃に送り込む。

「エレナちゃん、疲れたでしょ」

「いえ……大丈夫ですよ」

「こういう時は強がらなくていいよ。無理しちゃうと事故や怪我に繋がるから」

「はい。本当は足が疲れちゃってくたくたでした。なので助かりました」

 エレナは自分の足をさすって見せた。

「一時間は歩いたから半分ぐらいですかね?」

「想定していた速さで歩いてきているので、半分と考えて間違いないかと」

 レスリーとアストルムのやり取りを耳にしながら、この先はエレナの状態を注意しておいた方がいいかもしれないと、フィルは頭の片隅で考えていた。

「湖が近づいているけど、エレナちゃんはなにか感じたり、その……星の声が聞こえたりする?」

 レスリーの質問に、エレナは首を振る。

「いえ、なにも感じないですね。やっぱり湖まで行ってみないとわからないと思います」

「そっかー」

「エレナさん、なにかあればすぐに言って下さい。私とフィルがすぐに対応します」

「ありがとうございます。――そういえば、アストルムさんは魔法使いなんですか? マリスさんはアストルムさんの力があれば、守護獣をどうにか出来ると言っていましたけど……」

「いえ……私は……」

 アストルムの視線がこちらに向いた。それはどう答えていいのか判断を促す視線だ。

 エレナが持った疑問は正しい。

 華奢な女性に見えるアストルムが、守護獣の対処が出来ると言われても疑問を持つだろうし、その答えに魔法使いを浮かべるだろう。

 エレナにはアストルムのことを正直に答えることにした。

「これから話すことはとても大事なことだから、誰にも言わないで欲しい。――アストルムは魔法使いではないんだ。彼女は魔導人形といって、人を模して作られたアーティファクトなんだ。内蔵魔法術式と言う物がアストルムの中にあって、それを使える。俺もこの星加護の指輪を通して、アストルムの内蔵魔法術式を使えるんだ」

 そう言いながら、フィルは自分の右手に嵌めている星加護の指輪を見せた。

 アストルムの正体を知ったエレナは硬直から驚きの表情に変わった。

「ええ!? そんなアーティファクト聞いたことないです!」

 アンテサリアの森にエレナの声が響いた。

 フィルは彼女の反応に苦笑しながら、昔を懐かしむような声色で続けた。

「魔導技士だったおじいさんの忘れ形見みたいなものだよ」

「だって、アストルムさん、人に見えますよ!?」

「エレナさん、私は人形です。ですが、人に見えるという評価には感謝します」

 フィルはエレナに、誰にも言わないでくれ。と、もう一度念押した。

 驚きから冷静になったエレナは、空を見上げた。

「夜になったこともあると思うんですけど、森が静かですね。聞こえてくるのは木々の葉が擦れる音や虫の鳴き声ぐらいです。ミシュルではわからない静かさです」

「そうだね。それにほら、見上げる星空がすごく広くてキレイじゃない?」

「本当だ!」

 レスリーが自分たちを照らす月を、その月が浮かぶ夜空を指差した。フィルもレスリーが指差す方を見た。夜空に浮かぶ星たちはミシュルで見るときよりもその輝きが強く思える。きっとそれは人の暮らしによる灯りがないからだろう。ミシュルだったらこの時間でもまだ街は賑やかで光を放っている。それが星や月の光を弱めて見せているのだろう。

 それから星空の下でしばらく休憩して、再び歩き出した。

 途中何度か細かく休憩を挟んだことで、予定の二時間より掛かってしまったが、目的地が見えた。

 森が大きく開け、湖が姿を見せた。

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