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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第2話「星に選ばれた子」
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チャプター4 「旅立ちの日」6

 ミシュル中央区にある大陸横断列車の駅から東西に線路が延びている。この大陸横断列車の駅、線路がミシュルの象徴といってもいいだろう。毎日多くの人々や物品をミシュルに運び入れている。人物にとってここはミシュルの玄関口になる。

 始発列車の出発前の時間ということもあり、駅へと続く大通りは多くの屋台が営業開始の準備を始めていた。それらを横目に見ながら、フィルたちは駅へと向かっていた。

 大陸横断列車の駅は、中央区でも有数の大きさを誇っている。券売機や路線案内、さらにお土産物店などもある。フィルたちがいる改札の向こう側に大きなホームが広がっていて、旅客を乗せて往来するための上下二線がある。すでに始発列車はホームに待機しており、乗客を待っている状態だった。

「じゃあ、私はここまでよ。三人ともエレナちゃんを頼むわ」

「わかっているよ。そういう依頼だし、請け負った以上やり通すよ」

「そうだ。忘れるところだったわ」

 マリスはカバンを開いて、何かを取りだした。

「これを持っていってほしい」

 手渡されたのは、魔石だ。

 灯りに透かして見ると薄紫色に光って見える。

 基本四属性の、火、水、風、土の四属性ならそれぞれに応じた色で魔石の属性が分かるが、薄紫色の魔石は分からなかった。

「なんの魔石だ?」

「私とラピズへの連絡用だよ。アンテサリアの森で星の魔力に辿りついたら、それを起動して欲しい」

「いいけど……。魔法ならエレナちゃんに教えて行使してもらってもいいんじゃないか?」

「いや……彼女が星の魔力に触れてる間は魔法を使えないと思う。だから、その魔石で頼む」

「わかった。――じゃあ、そろそろ時間だから行こうか」

 フィルは受け取った魔石をポーチにしまい、後ろに控えているエレナに声を掛けた。

「そうですね。行きましょうか。――マリスさん、いろいろと助けていただいてありがとうございました」

「当然のことをしたまでだよ。それに礼を言うのは早い。君はこれからなんだ。励ましやこれからの助言も、君が星の魔力に触れてからにするよ。まずはがんばりなさい」

「はい!」

 マリスからエレナへの言葉が終わると、フィルは改札で駅員に切符を見せてホームへと向かう。

 ホームには全十両の列車が止まっている。

 先頭車側から一等車両、ラウンジ車両、食堂車、二等車両なっている。今回はマリスの手配で、フィルたちは個室がある一等車両が割り当てられている。一等車両の値段を考えるとそれを四室手配なのだから相当な値段であることが想像出来た。

「俺とアストルムは大陸横断列車は初めてだな」

 フィルが大陸横断列車に乗るのは今回が初めてだ。本当は全車両を見て回って、どうなっているのかを確かめたいが今回はエレナのことがメインであるため自分の衝動を押える。

「そうですね。私はこの街を出たことがないですね」

 その言葉に反応したのはレスリーだった。

「あ、意外ですね。二人とももっといろいろなところに行ってるんだと思いました」

「イディニア国立魔導技士学校卒業後、すぐにおじいさんの工房を引き継いだから外に見聞を広げることはなかったな」

 工房を引き継いだと言うのは簡単だが、実際は工房や居住スペースの改装、それから工房を開くための書類仕事が多く、大変だったのを今でも鮮明に覚えている。

「学生の頃は行事に外に行かなかったんですか?」

「残念。ミシュルの初等部中等部は基本このあたりの施設見学ぐらいだよ」

「え、私は違いましたよ? 大陸横断列車で一日ぐらいの場所を選んで学習に行きました」

「今はそうなのか……」

 エレナの言葉に衝撃を覚えた。けれど、考えてみたら、初等部中等部の頃はもう十年も前のことだ。それの年月を考えれば、変化していてもおかしくない。

「フィルさんはいつまで若くないってことですよ」

「レスリーだって、そのうち同じ気持ちになるときがくるよ。そうか、レスリーはここに来るときには大陸横断列車に乗ってるか」

「はい。車窓から眺める景色を見てるのも楽しいですよ」

「それは楽しみだ」

 フィルたちは大陸横断列車に乗り込んで、それぞれの個室に荷物を置いて、ラウンジに四人で座った。

 それからしばらくすると、ガコンと車両が揺れた。それからゆっくりと大陸横断列車が走り出す。窓の外に広がっていたミシュルの街並みがあっという間になくなった。広がるのは緑の平原とその奥の山々だった。

 これからルブシーチの街まではおよそ一日程度。明日の朝には着いていることになる。

「エレナちゃん、渡しそびれた封映玉4つ」

 封映玉が入った革袋をエレナに手渡す。

「ありがとうございます。映像を記録したら、お渡しします」

 そういってエレナは車窓の外へと視線を向けた。

 そして小さくすすり泣く声がフィルの耳に入った。

 フィルはレスリーとアストルムに視線を向けた。

 他の二人は意図を理解したらしく頷いた。

 フィルたちは静かに席を立ち、彼女を一人にした。

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