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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第2話「星に選ばれた子」
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チャプター2 「その声が聞こえた者」2

 エレナとカフェで会った翌日の昼過ぎ。レスリーは工房で作業しているフィルに声を掛けた。

「あ、あのー……」

 図面と睨めっこしていたフィルが作業を中断してこちらを向いた。

「うん? アーティファクトの製作は順調だぞ。魔力絵の具も必要分は渡したけど、足りないか?」

「いえ、そんなことはないです!」

 レスリーは慌てて、フィルの懸念を否定する。フィルはその様子を怪訝な目で見ている。

「じゃあ、追加のアーティファクトが必要になったか? それなら図面と魔法理論を出してくれ。なるべくレスリーの負担を減らすから。あー、でも、竜の大鍋に納品する酔い止めや酔い覚ましのアーティファクト、あと簡単な依頼はやってくれよ? さすがに俺一人で全部の依頼は対処できない」

「それはもちろんです。そうじゃなくてですね……」

 はっきりとしないレスリーを、フィルは不審に思っているのか、疑惑の目を向けてくる。

「……なにか隠してるのか? 失敗やミスなら遠慮無く言ってもらった方がリカバリーに協力できるから言ってくれ」

 フィルの優しさが今回はレスリーの心苦しさを加速させた。

 このままだと話が進まないのは状態なので、レスリーは申し訳なさそうに口を開いた。

「あのですね……。エレナちゃんから……あっ、マイヤーズさんのところの娘さんなんですけど、魔法使いに会いたいって頼まれてしまって」

 そうやって事情を口にすると、フィルは頷いた。

「なるほど。それで俺の顔色を伺っていたわけだ」

「まあ……はい」

 彼は椅子に座り直して腕を組んだ。

 フィルがこういう態度を取る時は、レスリーにダメ出しをするときか、真面目な話をするときだ。今は後者なのはわかる。

「魔法使いがどういう存在かわかってるな?」

「少数で、魔法という才能、技術を扱える存在です……」

「そしてこのイディニア国においては重要人物でもある」

 レスリーは、フィルが淡々と述べる言葉に、静かに耳を傾けてた。

「わかってます……」

「なら、マリスに相談してみてくれ」

「は?」

 間抜けな声が出た。

 てっきり怒られると思っていたので、彼の言葉に拍子抜けしてしまった。

「翡翠の骨粉が切れそうだし、他の素材の補充もいる。頼まれてくれるな?」

 フィルはさらさらと紙に買い出しのメモを記載して、レスリーに渡してきた。

「えっと……」

「嫌だっていうなら、アストルムに頼むけど?」

「いや、行きます! 行きます!! 今、すぐに!」

 レスリーは彼の意図を理解して二つ返事で頷いて、フィルが書いたメモを受け取って、足早に工房を出る。

 自室に戻って外出の準備を手早く整える。

 廊下を抜けて店舗に続くドアを開ける。

「レスリー、どこか行かれるのですか?」

「マリスさんのところに買い出しに! あっ、これだけ買ってくるから費用を……」

 カウンターにいるアストルムにフィルが書いたメモを渡す。アストルムはそのメモを上から下へと目を通して、買い出しに掛かる費用をレスリーに渡した。

「では、こちらでお願いします」

「ありがとうございます! 行ってきます!」

「いってらっしゃい」

 アストルムの声を背中で受けて、レスリーは店を出た。ミシュルに来てから何度も行き来して通い慣れた道を、はやる気持ちを抑えながら、それでも足早に、マリスが経営する素材屋『黒猫の住処』を目指して歩く。じんわりと汗を掻いた頃、黒猫の住処に着いた。ツタが這った壁も見慣れたものだ。

「こんにちわー」

 レスリーは扉を開けて、カウンターにいるマリスに挨拶した。頬杖をついていたマリスは、顔を上げて、笑顔を作った。

「お、レスリーちゃん、いらっしゃい。2,3日前にアストルムが買い出しに来たから、しばらくこないと思ってたけど、今日はどうしたの?」

「フィルさんに急に頼まれまして」

 艶のある声と褐色の肌、女性らしい曲線を持つ彼女の笑顔には、同性であるレスリーもドキリとしてしまう。

「えっと、翡翠の骨粉と……それから……これと……」

 レスリーはフィルから渡されたメモを確認しながら、必要なものを店内の棚から集めて回る。

 一抱えほど素材と魔石を集めたところで、カウンターに持っていく。

「これをお願いします!」

「はい、はい」

 マリスが商品の点数を数えているときに、レスリーは迷いながらも、今日この場に来た目的を口にした。

「あ、あの……マリスさん?」

「なに……?」

 マリスは視線をこちらに向けずに、こちらの言葉の先を促してきた。レスリーは視線をカウンターに向けて、そしてマリスへと向けた。

「迷惑を承知でお願いがあるんですが……」

 彼女は作業する手を止めて、疑問の眼差しを向けてくる。

「ん?」

「友達を……ここに連れてきてもいいですか? あの魔法使いに会ってみたいって言っていて。もちろん、マリスさんが魔法使いで、どれだけ重要な方というのは私も理解しているんですよ。それで、えっと、あの……」

 続く言葉が出てこずにいると、マリスが笑い出した。

「あまりに真剣な表情してるから、どれだけ重たい話が出てくるのかと思ったら、そんなこと? いいわよ、連れてきなさい。ただ、少しだけよ?」

 マリスは笑顔で頷いた。

「本当ですか!?」

「ええ、もちろん。閉店後の方が都合着きやすいけど、どう?」

「友達がまだ初等部で……閉店後だと遅すぎるかなって……」

「初等部!? どこでそんな子と知り合うのよ……。――じゃあ、昼過ぎ以降ならいいわよ。午前中はお得意さんがよく来るから、こっちもバタバタしちゃうのよ」

「わかりました! ありがとうございます!」

 満面の笑みでマリスにお礼を言って

 商品の入った袋を受け取って、黒猫の住処を出た。

「早く、エレナちゃんに教えてあげなきゃ」

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