チャプター4 「星と魂の煌めき」21
「アストルム!」
呼びかけに彼女は振り向いた。
「よかった。さっき声が聞こえた気がしたけど、誰かと話していたのか?」
その質問にアストルムは首を振って否定した。
「いえ……私はここに一人でいました」
フィルは周囲を見るが、人影のようなものはない。
アストルムも聞こえていないと言っている。
「俺の聞き間違いか。アストルム迎えに来たよ」
「ありがとうございます」
アストルムが微かに笑った気がした。
「今、笑った?」
フィルの驚きに、アストルムは否定した。
「いつも通りの表情再現だと思いますが?」
「いや……自然な感じに微笑んでいた気がしたけど……」
「もしも、フィルにそう映ってなら、私は嬉しいです。フィルはケガをしているようですが大丈夫ですか?」
「ボロボロだけど、平気だよ」
アストルムの言葉にフィルは笑顔で返して、改めてオルフェンスの対岸を見渡した。
白い砂浜と青い海が見えるが、水平線の向こうには薄らと何か都市のようなものが見える。星空のような空の向こうには大きな輪ようなものがあった。
「向こうに見える都市と空に浮かんでるのは……?」
「あの都市が、命が生まれ還る場所オルフェンス、空にあるのは命の循環の輪だそうです」
「アストルムは、それをどこで知ったの?」
「どこで知ったのでしょうか? 誰かに何かを教えてもらったような。いえ、そんなことは――」
アストルムも自分の言葉に首を傾げた。
「私の記録には残っていません。……なぜでしょうか?」
彼女は自分自身にある記録に何か疑問を持っているようで、その原因を探しているようだった。
「アストルム?」
フィルが彼女に声を掛けたのは、彼女が困惑しているからではない。
アストルムは自分の目元に指を這わせ、流れる涙を拭った。
「涙ですね……。ライラ様のお屋敷で泣いて以来です。なぜでしょうか、涙が止まりません。私はここで、どなたと会っていたのでしょうか。私の記録情報にないということは、記録されていないか、あるいは記録情報の破棄をおこなったのでしょうか」
自身の涙に戸惑うアストルムを見て、フィルは声の主を想像して答えた。
「わからない。でも、きっと、その人はアストルムにとって大事な人なんだよ。だから、泣いているんだと思う」
確信はない。
しかし、ここオルフェンスの対岸が魂の還る場所だというなら、想像している人物の魂がいたとしてもおかしくない。
「そうですね、きっと、そうなんだと考えます」
フィルはアストルムの涙が止まるのを待った。
「さあ、帰ろう」
「はい」
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