チャプター4 「星と魂の煌めき」19
フィルがエリシオンの門へ一歩を踏み込み、後ろで見守っているセリックに頷いた。
「フィルくん、気をつけて」
「はい。いってきます」
エリシオンの門を潜る。
踏み入れた先は、まるで星空のようだった。
少し冷たい空気が肺を満たす。
視界の奥と広がっているのは暗闇とそこに点在する光と、虚空に虚空に浮かぶ灰色がかった通路のみだ。
ただ暗闇だった。それと少し肌寒さがあった。
心に湧いた不安を抑えこみ、走り始めた。
オルフェンスの対岸まで、どのぐらい距離があるかわからない。けれど、ゆっくりしている時間もない。
『どう?』
何もないこの空間の中で、聞きなじみのあるマリスの声に安堵を覚えた。
「星空の中に通路が通ってる。終着点が全く見えないし、景色も変わらないから、自分が進んでいるのか不安になるよ」
『私個人としてはその光景を見てみたいわ。さっきも言ったけど、あなたがいる空間は、この世界から隔絶された世界になっているの。今、私がこうやって話掛けているけど、私の知覚ではフィルの魔力を検知できない。つまり、世界から切り離されたと言えるわね』
「怖いこと言わないでくれ」
『でも、事実なのよ。エリシオンの門が此方と彼方を隔てているのよ。それを考えると、フィルがいる場所は、此方と彼方の境界線の上と言えるわね』
それからしばらく走り続けていると揺れを感じた。
最初は小さな揺れだったが、徐々に大きくなる。
「うわっ」
フィルはその場に立ち止まった。
立っていられないほどではないが、何か起こるのではないかと警戒する。
やがて揺れが収まった。
『どうしたの?』
「通路が全体が揺れた。地震ってわけじゃないだろう……」
『エリシオンの門が崩壊し始めている影響でしょうね』
フィルは、マリスの言葉を聞いて、息が整うのを待たず、また走り出した。
「なあ、ひとつ聞いていいか?」
『いいわよ』
「どうして、マリスとラピズは、おじいさんが魂を作ることに手を貸したんだ?」
フィルの質問に、マリスが数秒沈黙して、笑い出した。
『そんなこと?』
「だって、星の魔力を結晶化して魂を作る。魔力の結晶化は魔法使いしかできないだろ? 魂を作るなんて禁忌に触れるんじゃないか? 星の子に選ばれて、この星を救うことを使命としてる魔法使いが手を貸すなんて考えにくいよ」
なお、マリスからは笑い混じりの言葉が聞こえてくる。
『言いたいことはわかったわ。理由は、探究心よ。私たち魔法使いは星を救う方法を手探りしている。可能性があるなら何でも手を出すのよ。ジェームズ翁の提案だって、私とラピズからしたら想定していなかったものだったの。だったら、試す価値があるでしょ?』
「言っていることは理解できるよ。でも、やろうと思わないだろ……」
『私たち魔法使いたちが求めているものは、何が答えか、何が正解か、なにもわからないのよ。たくさんの事柄を試していかないといけないの』
「じゃあ、おじいさんと一緒に研究していた時間は無駄じゃなかったんだな」
『当然よ。ジェームズ翁が作った、疑似魂は本来の魂と同じ物じゃなかったわ。けれど、今回、オルフェンスの対岸に纏わる儀式魔法が起動したことで、アストルムの疑似魂は彼女の身体から消えているわ。もしも、星が、星の子がその魂を認めていないなら、何も起きなかったでしょう。不純物があろうと、アストルムに宿るものは魂として認識されたのよ』
「じゃあ、おじいさんの研究は……正しかったのか?」
『正しい……と言っていいのかわからないわ。でも、ジェームズ翁が偉業を成したことに変わりないわ。あなたに言うのが正しいかわからないけど、誇っていいことよ』
マリスの言葉が胸の奥に沁みた。
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