チャプター4 「星と魂の煌めき」4
アルスハイム工房を出て、朝靄の中、セリックとの待ち合わせ場所へと向かう。大陸横断列車駅の広場に馬車が止まっており、その傍らにセリックの姿があった。
「時間通りだね。じゃあ、行こうか」
フィルは荷台に乗り込み、セリックの荷物の間を縫って、腰掛けた。セリックも乗り込んで、適当に座った。彼が御者に声を掛けると、ゆっくりと馬車が動き出した。
セリックの荷物を眺めてある物に気が付いた。
「盾……?」
「竜を倒す武器は君が用意してくれた。だから、僕は防具を準備した。対物、対魔、それぞれの防御障壁のアーティファクトも用意してあるけど、それじゃあ足りなくなるかもしれないから念のためね。君の分も用意してあるから使ってくれ」
彼から差し出された防御障壁のアーティファクトを受け取った。
そういえば。とセリックが言葉を続けた。
「竜を倒すまでは僕がやってみせる。でも、その先は大丈夫かい?」
セリックには儀式魔法とオルフェンスの対岸のことは説明してある。だからこその心配なのだろう。
「わかりません。でも、やるしかないです」
竜を倒し、エリシオンの門を潜り、オルフェンスの対岸まで行き、彼女の魂を連れ帰る。
フィルがわかっているのはそれだけだ。
エリシオンの門を潜った先、オルフェンスの対岸への道中がどうなっているかをマリスに尋ねたが、彼女も首を振るだけだった。
「セリックさんは竜と戦うのは怖くないんですか?」
フィルの質問に、セリックは不思議そうな表情を浮かべていた。
「変なことを聞きましたか?」
「いや、そういうことを聞かれるなんて思ってなかったから。――怖くはない……なんてことはない。けど、それ以上にね、僕は嬉しいんだ」
セリックの声が熱を帯びる。
「憧れだよ。ほら、英雄譚とか神話は読んだことない?」
「小さい頃に少しだけ」
「僕が冒険者を目指したのは、英雄になりたかったからなんだ」
気恥ずかしそうに、そして少年のように、セリックは笑ってみせた。
「物語の英雄は、竜を倒して姫を助けたり、魔王を倒して世界を救ったりする、その姿に憧れた。少年の頃はまだ純粋に自分も英雄になれると思ってた。でも、大人になるにつれて英雄になんてなれないことを理解した。でも、僕はいつか偉業を成し遂げたいと思った。だから、物語の英雄のように、竜を倒せる。そう思うと、怖さなんてなくなるよ」
「なんかわかります。俺も魔導技士は憧れだったんです。じいさんが仕事をしている後ろ姿を見たり、展示会でアーティファクトに触れたりして、この道を選んだんです。正直、大変なこともたくさんありました。でも――」
「楽しいんだろ」
「楽しいんです。どうしようもなく」
フィルとセリックはお互いに声に出して笑った。
お互いに違う職業だけれど、自分たちを突き動かすのは憧れへと近づきたいという気持ちだった。




