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アルスハイム工房へようこそ  作者: 日向タカト
第4話「オルフェンスの対岸」
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チャプター3 「軌跡をなぞる指を眺めて」3

 フィルは自分が何かを読み飛ばしたのかと、一つ前に読んでいた研究日誌を読み返した。しかし、そこに疑似魂に関する記載はない。

 他の研究日誌も確認する。

 しかし、ない。

「レスリー、この研究日誌の前のやつ、そっちにないか?」

「ちょっと、待ってください……。えっと……えっと……ないですね」

 レスリーは自分の担当分を確認して首を振った。

「全部、持ってきてるよな?」

「はい。あの本棚にあったものを全部持ってきてます。 ここにないなら……あとはおじいさんのお部屋のどこかにあるんですかね?」

 フィルはレスリーの言葉を聞きながら、工房を出て二階へと向かった。祖父の部屋に足を踏み入れて、本棚や床の日誌の山を確認する。

 ない。

 祖父が使っていた机の引き出しも見る。

 ない。

 両手を腰に当てて部屋を見渡して、気が付いたところを漁る。

 だが、成果はない。

「……一冊だけ破棄した? なくはない……。でも、それなら大量の研究日誌を残すわけがない」

 ここにないなら他のどこか?

 国立図書館か? それはないと、即座に否定した。魂、疑似魂に関する文章が国立図書館に保管されているなら、他の誰かが手を出しているはずだ。同様に誰か……例えば、マーヴィスに預けている可能性もないと考えてもいいだろう。マリスが持っているなら、今回の件で、資料として提示するか、隠し場所のヒントを出してきているはずだ。

 だったら、他に一つだけ心当たりがある。

「フィルさーん、ありましたかー?」

 フィルが思案していると、二階に上がってきたレスリーが様子を窺うようにドアをゆっくりと開けて、顔を覗かせた。 

「ない……」

「抜けている研究日誌に探している……その、魂についての事が書かれているかもなんですか?」

「たぶん。魔力と魂について書いた日誌の後、一冊飛んで、疑似魂を製作したことに言及している。抜けてる研究日誌に何かあったと考えていいと思う」

「うーん。困りましたね。他は……あっ、フィルさんのご実家やおじいさんの家にないんですか?」

 指を立てたレスリーにフィルは頷いた。

 フィルが思い当たった場所も自分の実家だった。

 だけど、フィルの表情は、手がかりを見つけた安堵ではなかった。

 フィルを見て、レスリーは何かを察したようで、気まずそうに指を降ろした。

「フィルさんはご両親と疎遠でしたっけ……すみません」

「事実だからいいんだ。気が重たいだけだよ。――仕方ない、実家に行くか。レスリーは戻るまで休んでてくれ。徹夜してるから疲れてるだろ?」

「……大丈夫ですか?」

 彼女の心配の言葉は、徹夜明けの身体を心配してのことだろうか、それとも両親との間にあるわだかまりに対することだろうか。或いはその両方かもしれない。どれであっても、フィルは同じ言葉で答えるだけだった。

「今度は大丈夫だよ。あと四日しかないんだ、これ以上迷ってる時間が勿体ない」

 強がって見せたが、胃の奥から何かがこみ上げてくる錯覚があった。それを嚥下するように沈めた。

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