チャプター3 「軌跡をなぞる指を眺めて」2
研究日誌の日付を見ると、フィルが二歳頃のものだった。祖母と過ごした記憶はほとんどない。そして、初めて『魂』という単語が出てきた。この先に求めているものがあるかもしれないと研究日誌を握る手と、文字を追う目がより真剣になった。
――ミシュルには魔法使いが二人いる。どちらも俗世に対して積極的な関わりを持っていない。しかし、マリスという魔法使いが私とマーヴィスが作ったアーティファクトに興味を持ったらしい。
――マリスは魔導技士が使う素材を取り扱う店を開いた。まだまだ魔導技士の人口は少ないが将来的に必要になるだろうとのことだった。
マリスが素材屋、黒猫の住処を開くきっかけが書かれていた。昔のマリスは人との関わりを積極的ではなかったようで、今との違いを感じた。マリスやラピズとの出会いはわからなかったが、祖父とマーヴィスが作ったアーティファクトが二人の魔法使いを動かしたのだろう。
そうだとしたら、今の魔導技士、素材屋、冒険者、それぞれの関わり方の基礎を作ったきっかけの一端を祖父が担っていたことになる。そう考えるとフィルには誇らしくあった。
ページをめくると祖父の疑問が書き連ねられていた。
――人間はなぜ魔力を持っているのか? 当たり前すぎる、このことを考えたこともなかった。
――そもそも魔力とは何なのか。
――身体を動かす仕組みは解明されている。しかし、魔力はどうだ? 魔力を発生させる器官が体内に存在するわけではない。
――なら、私たちが行使するこの魔力とは一体どこから来るものなのだ?
フィルが手に取った研究日誌には、そう書かれていた。ここからだ。それがフィルの直感だった。ページをめくり、読み進めていく。
――マリスが私の疑問に答えてくれた。
――魔力は魂から発せられるものだ。
――では、魂とはなんだ?
興奮を抑えながら、次の研究日誌に手を伸ばした。
――魂の結晶化に成功した。いや、魂というには不純物が多い。これはネクロマンサーが用いる疑似魂に近い。だから、私もこれを疑似魂と呼ぼう。
「え……?」
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