チャプター3 「軌跡をなぞる指を眺めて」1
「これじゃない」
「こっちも違いました」
フィルとレスリーは、工房で研究日誌に次から次へと目を通していた。祖父の部屋から持ち出した研究日誌が作業机と足元に山積みになっていた。その数は十や二十では効かない。当たり前だ。ここにある研究日誌は、一人の魔導技士が生涯記し続けたものだ。
フィルとレスリーは夜を徹して読み進めているが、当然、まだ魂についての研究に関する記述を見つけられないでいた。
「研究日誌って言うから小難しいことが書いてあるのかと思ったんですけど、私でも知ってることが多いですね。どちらかというと日記ですね」
「読んでる研究日誌の日付は、おじいさんが二十代、三十代ぐらい頃のことだから、魔導技士っていう職業が成立し始めてないし、学問としても纏まってないから時期だからな。試行錯誤の繰り返しとその結果のメモばかりか。今じゃ、当たり前に知っていることが多いな」
さまざまな素材を組み合わせて魔力を通すと、どういう反応をするのか、そういう言ったことの他、時折、祖父の愚痴や悩みが書かれていた。だから、レスリーのいうように日記近いものだった。
「読んでて驚いたのが、マーヴィス翁のお名前が出てきたことです」
「うちのおじいさんとマーヴィス翁は学生時代からの知り合いみたいだから、昔はお互いに切磋琢磨してたみたいだよ」
今でこそ魔導技士の頂点と言われているマーヴィス・フォスターは、フィルにとって憧れであるが、同時に祖父の友人である印象が強い。
遠い日の記憶にマーヴィスと祖父がアーティファクトを作っていた光景がある。何のアーティファクトだったのかわからないが、二人が楽しそうに製作に没頭していた。きっと切磋琢磨できる良い同志だったのだろうと思う。
フィルは新たな研究日誌に手を伸ばして、祖父が歩んできた道に目を通していく。
――黄金蚕が吐き出す糸は、魔力の伝導率が高い。
――息子のレオンが彼女を連れてきた。結婚を考えているらしい。
――翡翠の骨粉に魔力を通して、発光体と接続すると長時間輝いている。魔力を一定量貯える性質があるのかもしれない。
――マーヴィスの奴はなにもわかってない。結論を急ぐ気持ちはわかるが、まずは検証を繰り返すことが大事だ。
――レオンに息子が産まれた。名前はフィルだ。私に孫が出来た。
ぶっきらぼうな文章で、魔導技士としてのこと、そして時折祖父自分のことが書き記されいた。その中に自分の名前が出てきたことが嬉しく、恥ずかしくもあった。
しかし、探しているものは見付からない。
「ないですね」
「ないな。この会話、何回目だ?」
「数えるのはもうやめました」
フィルは別の研究日誌に手を伸ばして、目を通し始めた。
――妻が亡くなった。すまない。君と最後を過ごせなかった。すまない。
――だけど、君の望むように、約束したように、私はこの職に全てを捧げるよ。
――君の死に直面して、疑問が生まれた。
――魂は一体どこに還るのだろうか?
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