チャプター2 「黎明に至る道」9
店員に注文しながら店に戻るセリックの後を追いかけた。
「おい、セリック、こっちで飲もうぜ」
「いいや、俺たちと飲もうぜ」
彼が店内に戻るとあちこちから飲みの誘いの声が掛かった。
「悪い。こっちの彼が僕を口説きたいって言うから、また今度、頼むよ」
セリックは自分に掛かる声をそんな軽口で断ってみせた。
「ガハハ、先約ありじゃ、仕方ねえな」
「っだよ、次こそは頼むぜ。いい話があるんだよ」
フィルは先を歩くセリックについて、店内の隅にある二人がけのテーブルに座ると、すぐに果実酒がやってきて、グラスを合わせた。
「それで相談って?」
「竜のことです」
「ああ……。アレがいるから遺跡調査を計画見直してるところなんだ。おかげで今朝、ミシュルに戻ってきたばかりだというのに、ついさっきまでずっと作戦会議してたよ。それにアルスハイム工房にも迷惑をかけてるね、すまない」
フィルが切り出したことに、セリックはグラスを一口煽って、気まずそうに眉をひそめた。どうやら彼はフィルが遺跡調査について文句があると誤解しているようだった。
「えっと……そうじゃなくて、あの地下遺跡に現れた竜をセリックさんに討伐して欲しいんです」
フィルの言葉に、セリックは不思議そうに首を傾げた。
「いや、もちろんそのつもりだよ。竜が居座っていたら、遺跡調査が進まないからね。ただ竜を倒した経験のある冒険者はいないから倒し方から調査する必要があって目処が立っていないんだ。人手も集めたいんだけど、実力がない連中ばかり集めても犠牲が増えるだろうから、困っていてね。最悪、僕ひとりでやるしかないかと思ってるんだ」
彼の言葉を聞いて、フィルは彼の言葉を確認した。
「……じゃあ、倒し方さえわかれば、セリックさんは竜を討伐できるんですか?」
「できる」
即答だった。
彼の言葉は静かで、短いものだった。彼の青い目を見れば返答が、虚勢でも、願望でもないことがわかる。
「フィルくんの質問は『倒し方』を知っているからこそのものだろ?」
こちらの質問からセリックがそこまで見抜いてきたことに驚いた。
「竜を倒すには特別な武器が必要だってマリスから聞きました。今は……まだ俺が作り方を調べているんですが、必ず作ります」
「魔法使いである彼女が知っているのは当然か」
「武器はどうにかします。俺の工房の仲間を救うために、竜を倒す必要があるんです」
「アストルムさんか。遺跡からミシュルに戻るまで一度も意識を取り戻さなかったから心配していたんだ。彼女を救うのと竜を倒すことは一体どんな関係があるんだい?」
フィルはアストルムの状態と、彼女が石碑を読んだことで儀式魔法を発動してしまったこと。竜を倒してオルフェンスの対岸にいく必要があることを伝えた。
「……プロタクラム都市群遺跡への移動を考えてあと五日、いやこの時間だともう五日切ってるか……」
「お願いします。依頼料や準備費も支払います」
そう言って、フィルは頭を下げた。
竜を倒す。
それが出来るだろう人物は彼しかいない。
「待ってくれ、待ってくれ! 頭を下げないで欲しい。別に僕は君の頼みを断るなんて言ってないだろ。頭を上げて!」
セリックの慌てた声にフィルは顔を上げた。
「アストルムさんを助けるためなら、僕は喜んで力を貸すよ。それにさっきも言ったように、遺跡調査を続けるには、竜を倒さないといけない。つまり、これは元々、遺跡調査として依頼主の僕が対処しなきゃいけないことなんだ。だから君から依頼料をもらうなんてしない」
「ですが……」
「君の気が済まないというなら、二つ条件を出させて欲しい」
「二つですか?」
「一つ目は竜を倒すための武器を必ず用意すること。これがないと話にならないからね。二つ目は竜から得られる素材は僕がもらう。これが遺跡調査ではなく討伐自体の報酬という形だと考えてもらっていい。どうだろうか?」
「はい、ぜひ!」
「じゃあ、よろしく頼むよ」
フィルは差し出された手を握った。
「あ、条件は二つと言ったけど、もう一つ追加していいかな?」
「なんですか?」
「竜を倒す武器は、剣にしてくれないかい?」
「いいですけど……どうして剣なんですか?」
フィルが尋ねると、セリックは照れくさそうに笑った。
「剣で竜を倒すなんて、英雄みたいじゃないか」
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