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姫とキラ星さんシリーズ

久しぶりのデートはランチして電車に乗って買い物に行く

作者: 日下部良介

 夏期休暇が開けての出勤初日、小雨がぱらつく空を見上げて傘を手に取る。コロナ禍となって以来、家を出る時間を早くしている。少しでも混み合った電車を避けるためだ。

 地下鉄で会社がある最寄りの駅に着き、地上に出た時には雨も上がっていた。


出社後、いちばんにメールのチェック。得意先から4件のメールが入っていた。着信したのはいずれも昨日のこと。昨日まで夏期休暇を取ることは伝えていたのだけれど、メールの内容は今日の午前中までにデータを送って欲しいというものだった。該当するフォルダを開いてみる。2件の要求に関してはすぐに対応可能。もう1件は協力業者からデータが届いていなかったのでメールとLINEで用件を伝える。すぐに協力業者の担当から電話があり対応してもらう約束を取り付けた。最後の1件は計画中の案件の見積金額の再考。得意先の担当に再考の趣旨を確認して作業に取り掛かった。11時過ぎにはすべての依頼を片付けた。

「さて、お昼を兼ねて姫に会いに行こうかな」

そう思ったところに姫からのLINE。

『お疲れ様です。今日は12時で上がることになりました』

「今から出たのでは間に合わないかも知れないな…」

 会いに行こうと思っていたのだけれど、間に合いそうにない旨を姫にLINEすると、すぐに返信が入る。

『握り屋さんに行きますか?』

 もちろんボクは大丈夫。

 にぎり屋はボクが勤めている会社の近くにある寿司屋のこと。最初に姫が見つけて気に入って、その後、ボクは姫に連れて行ってもらった。それ以来、ボクも常連になった。

『いいんですか?』

『はい』

 元々、別の日にそこへ行く約束をしていたのだけれど、姫の都合が悪くなって中止になっていたランチデート。ボクにとっては一度見合わせたランチデートが前倒しで実現することになった。

 LINEのやり取りを終えて時計を見る。姫が来るまでにはまだだいぶ時間があるのだけれど、既に出掛ける用意をしてパソコンの電源を切っていたボクは予定表に得意先名を記入する。そして、そのまま会社を出た。時間には余裕があったので得意先の最寄りの駅まで行き、PASMOに履歴を残す。それから適当に時間をつぶしてから握り屋へ向かうべく引き返した。向かう途中で姫からLINE。

『これから向かうので先に行っていてください。私は握り12貫を頼んでおいてください』

 ボクは了解した旨を返信して店に向かう。姫のところからなら15~20分ほどで到着するだろう。

 店に着いたボクは自分の分を先に注文した。姫と同じ握り12貫にした。それから店長にもう少しで姫が来ると伝えて姫の分も用意しておいてもらう様に頼んだ。すぐにボクの分が出来て来た。時計を見る。姫はまだ到着していないけれどボクは先に食べ始めた。姫もすぐに来るだろうから。

 握り12貫を一人で食べ終わるのはあっという間だった。食べ終わっても姫はまだ来ない。既に姫の分も出来て来ているというのに。ボクは確認しようとスマートフォンを手に取る。姫からLINEが入っていた。

『朝ごはんを一杯食べたので、やっぱり9貫に変えてください』

 ボクは姫の席に置かれた12貫の握り寿司を見る。

『もう、12貫出来ています』

 すぐに既読はつかなかった。恐らく今頃は店に向かって急いでいるのだろう。手持無沙汰になったボクはもう7貫注文した。握りのランチは7貫・9缶・12貫がある。他には何種類かの海鮮丼。さすがに12貫食べた後に海鮮丼はきついと思った。7貫の握りを食べ始めたところに姫が到着した。

「駅で迷っちゃって」

「えっ?」

「いつもは地下鉄H線だけど、今日はTX線で来たから。地上に出たらどこに出たのか判らなくて」

「なるほど」

 姫が迷ったのは理解できる。TX線の出口はいろんなところにある。慣れていないとそういう目に合うこともある。

「あら! キラ星さん、今日は小食なんですね」

 ボクの前に置かれた7貫の寿司を見て姫が言った。

「2台目です」

「あっ…。そうですよね」

 そんなやり取りを見ていた店長が言う。

「姫野さんが遅いから手持無沙汰になったんですよ」

 姫は一瞬、バツの悪そうな表情をしたものの目の前に置かれた握り寿司を見て満面の笑みを浮かべる。姫の12貫は姫仕様。店長が12貫のネタのうち、いくつかのネタを姫が好きなネタに差し替えてくれている。

「うれしい!」


 二人とも満足して店を出た。9貫に変更して欲しいと言っていた姫も12貫をペロッと平らげた。

「お腹いっぱいになりました」

「はい。ボクもお腹いっぱいです」

 久しぶりに二人並んで歩く。姫と並んで歩くときはいつもなんだか少しドキドキする。

「キラ星さん、この後はどこに行くんですか?」

「仕事に戻りますよ」

「それはそうですね」

「でも、送ります」

 来るときに迷ったと言う駅の構内を改札まで案内する。

「ほら。ここから上がってくればよかったんですよ」

「ここは分からないですよ。改札を出たら普通なら右に行くか左に行くかですもの」

「では行きましょうか」

 そう言ってボクは改札へ向かう。

「どこに行くんですか?」

「送ると言いました」

「あら、お仕事は大丈夫なんですか?」

「はい。ボクは今、別のところでちゃんと仕事をしていますから」

「まあ! あの魔法を使ったんですね」

「そういうことです」


 二人並んで座席に腰掛ける。肩口がかすかに触れ合う。その度にボクはまたドキドキする。

「二人で電車の乗るのは好きです」

「落ち着いたらまた電車に乗ってどこかに行きましょう」

「はい。行きましょう」

 目的地までは電車で二駅。そんな時間もあっという間に過ぎてしまう。

「ちょっと買い物をしたいんですけど、一緒に行きますか?」

「はい。お供します」

 駅を出てすぐのところにある量販店。買うものが決まっていたので買い物はすぐに終わる。それを職場に差し入れしてから帰るという姫に付き添って一緒に歩く。職場に着くとボクは少し離れたところで待つ。しばらくして姫が戻ってきた。そこで姫とは別れてボクも仕事に戻った。


 短い時間だったけれど、久しぶりに姫と二人で過ごすことが出来た。今度会うときはもっとゆっくりした時間を過ごせてらいいと思う。その時が来るまで気長に待とう。




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