悪役令嬢の気は長い。
感謝!
―――ワタシ ハ オトメゲーム ニ テンセイ シタ!
ちゃんちゃらーん。
と、私その手のゲームやったことないから知らないけど。効果音も適当だけど。
「お前と婚約破棄する! そして僕は彼女と共に王になることをここに誓う!」
ワーッ!
………その手の小説・漫画は読み漁ったから間違いない。
私はどこかの乙女ゲーに転生した!
………それが?
「―――殿下」
ビクリ、と顔を上げる。
……腹黒系高飛車令嬢に、気弱系浮気王子。改めて思えば、お似合いだと思うけど。
「逃しませんわ」
ニコ、と笑う。
性格ちっとも変わらなかったなぁ、私。違和感ないよこれ。あぁ内心の言葉はそこそこ変わったかけど。
「……ど、どうして。お前とは離れて、僕は彼女と婚姻を!」
「なされば良いわ」
「………!?」
屈辱と不幸には嘲笑で返せ、が私訓だ。
最も、この鬼ばかりの社交界で生きてれば、こうならざるを得ないけど。
「ねぇ? あなたずいぶんと私のモノに手出ししてくれたようね?」
王子と結婚するというその娘は、怯えたようにこちらを見てる。罪悪感………のようなものもありそうだ。
まったく、なら何もしなきゃ良いのに。
スッと近寄った私は、自然にその頬に触れて。
チュッ。
反対側に、キスをした。
思いの外大きな音。まぁ、そう仕向けたんだが。
周りの人間は王子も含めて、あんぐりと口を開いてる。私がキスした彼女は………あら頬を染めてる。意外とイケるクチ?
「好きよ。あなたもね」
奇をてらった態度は、結構有用だったらしい。能力の半分は麻痺したような王子に、視線を合わせる。
「私、上手くやれますわ。だから置いてやってくださいませんこと?」
「な、どうして………」
「私、あなたを愛しておりますもの」
「な………っ!」
はい、ウッソー。なんて言いたくなるくらい驚いている。
だから今のうちに畳み掛ける。
「ねぇ、殿下。私たちきっと、コミュニケーションが足りなかったのですわ。だからあなたともすれ違ってしまった。このまま終わるのは、誰にとっても惜しい。だから………」
くっ、と器用に身体を近付けて、自信のある胸を押しつける。
「………婚約は、続けましょう?」
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「で、どうなったの?」
「婚約は続行。地位は保てたし、少しは愛してくれたし、結果はまずまずといったところよ」
「………流石、母上です」
半分くらい呆れたみたいに言われた。あなたが話せとせがんだのだろう。
ゲームと私との唯一の差異は結局、知ってるか知らないかだ。人間こうなるとわかってるパターンがあって、しかもそれが失敗例なら、結構上手くやれるものだ。平静を欠いた私は自滅し、飄々とできた私は身を留めた。そこに成功も失敗もない。
「ははうえーッ!」
唐突に抱きつかれた。
「あら、どうしたの?」
「ははうえ! うばがぼくのおかしをとりあげたのです!」
チラリと乳母を見る。普段気丈な彼女も、私に言いつけられたことで少し不安げだ。
今度は下の息子を見る。注意して、と言わないばかりの顔だ。私は彼に向き合う。
「お菓子を取り上げられたの? どうして?」
「いじわるだから!」
「そう」
ふっ、と笑ってみせる。
「本当に?」
尋ねると、ビク、とした。
「きまりだから、かも……」
「あら、では今のは嘘?」
「う……ん…」
ふむ、正直でよろしい。
ニコ、と優しく見えるように微笑んだ。
「いい? 嘘つくのは全く構わないわ。何事も嘘によって潤滑に進むし、効率も勝手もいいもの」
私もよくやるし。
「でも、後からバレるのはいただけないわ。信用を欠くし、人を不快にするもの。だからね、嘘をつくならその場でバレる冗談のようなものか………墓場まで持っていける、バレることのない嘘にしなさい」
「………それ言っちゃうんですか、親なのに」
上の息子が呆れ顔だ。が、大事なことだ。
嘘をつくならそれを秘する義務もあると、私は思う。
私はついた嘘はほとんどを墓場まで持っていく。その中でいちばんの大嘘を、ふと思い出した。
『好きよ、―――――』
………。
―――ふふ、ばかね。身の丈を伸ばすのなら、それを留める術まで考えるものよ。
後宮の隅にまだ独り暮らしているであろうあの娘を思いだして、少ししんみりした。
まぁ彼女も所謂泥棒ネコだ。割に強かだし………ずっと独りということもないだろう。
「終わりよければすべて良し、って言うでしょう?」
私は幸せなのだ。
わかりにくくても、どこか裏のある話が好きです………。